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合わせ鏡が描く天弓(にじ)~卵から憧れのイケメン先輩が生まれちゃったんだけど、セーカクサイアクで困ってます  作者: 東條零
第四章 君と見た未来

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第24話 大仏とオーシャンビュー

 はからずも、二人してずぶ濡れ、少々早い海水浴をする羽目に陥ってしまったので、風邪を引かないうちに着替えを調達した。

 最近は、コンビニに下着もTシャツも売っているし、海岸近くの商店には観光客用のステキTシャツだってある。


 クランは、何故か大仏が気に入って、巨大な大仏がプリントされたTシャツに着替えて意気揚々としていた。


 もはや、素奈多は何も言わず、まあ、いっか……。

 と何でも受け入れる、菩薩のような心境になっていた。

 きっとクランは、見る物、聞く音、匂い、初めての世界が刺激的でキラキラしているのだろう。


 この、全てがイレギュラーなクランと恋をするということは、菩薩になるということなのだ、多分。

 素奈多は、なんだか、そんな悟りを拓いたような気分になっていた。


 子供が生まれて初めて体験する事に感動したりびっくりしたりするのを見守る親は、こんな気持ちなのかもしれない。


「おんせん行こう、おんせん」


 ウキウキと楽しそうにクランは言った。


「だね。風邪引かないうちに、源泉掛け流しであったまろう!」


 素奈多は、目星をつけていた日帰り入浴も出来る温泉宿に向かった。


「ご入浴ですか? お泊まりですか~?」


 とフロントで訊かれて、素奈多が答えるより早く、クランが言った。


「泊まりで」


 えっ? と思って素奈多はクランを仰いだが、クランは、そんな素奈多を見下ろしてニコッと笑った。


「ニセキジのご飯は?」

「一泊くらいなら大丈夫。多めに置いてきた」

「そっか」


 などと話しているうちに、クランはサラサラと名前と住所などを書き込んでいる。

 いつ覚えたのか、素奈多の携帯の番号まで暗記していた。


「ご兄妹でご旅行ですか?」


 フロントのお姉さんがにこやかに訊く。


「ええ。もうすぐ僕が留学するので、妹とも会えなくなってしまうんですよ。明日は土曜だし。この週末は、素奈多と遊ぼうって約束してて……」


 は? 兄妹? 留学?

 素奈多は、ペラペラと嘘八百を吐き出すクランの口元を見つめた。

 さっき、波打ち際で、切なく求め合った唇だった。


 この状態で、泊まるということは……。


 それに、家を出る前、クランはなんて言ってた?


 ――夜だったら、いいってこと?


 えっ? それって……。

 いや……。

 家に帰っても、二人っきりなことには変わりないけど……。


 えっ? そういうこと?

 そういうことって、どういうこと?


 ええ~!?


「素奈多、行くよ」


 素奈多が混乱して、グルグルあれとかそれとか考えていると、クランが呼んだ。

 心地よく耳に馴染む、優しい声だった。


「あ、うん」


 慌てて素奈多は、振り返って呼ぶクランを追いかけた。



 部屋は七階で、ベランダに小さな露天風呂があるオーシャンビューだった。


「すっごーい! きれーい!」


 素奈多は、はしゃいで、全面ガラス張りのベランダに走って行った。


「見て見て、クラン! ここから見ると、地球が丸いのわかるよ」


 空と海の境目が、ほんのり視界の端の方で丸くなっている。

 

「水平線……」


 クランは呟いて、キラキラと夕日を受けて輝く水面を見つめた。


「来て良かった……すげぇもの、見れた」

「そうだね」

「素奈多のおかげだ」


 クランの口調は、凄く穏やかだった。


「素奈多が、俺をこの世に産み出してくれたおかげだ」

「クラン?」


 なんか……変?


 素奈多はクランを見上げて、表情を伺う。


「さっ! 掛け流し行こうぜ、掛け流し!」


 ニパッと笑って、クランはバスタオルを取って素奈多に放った。


「大浴場の露天からの景色も最高ですよって、フロントのお姉さん言ってたぜ?」


 すっかり、いつものクランだった。

 素奈多は少し安心すると、本来の目的を思い出した。

 海水まみれになった髪を洗いたかった。


「うん」


 うなずいて、素奈多はクランに従った。


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