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合わせ鏡が描く天弓(にじ)~卵から憧れのイケメン先輩が生まれちゃったんだけど、セーカクサイアクで困ってます  作者: 東條零
第四章 君と見た未来

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第21話 恋に恋する乙女は恋を知る

 素奈多が登校すると、校門のところで花南が待っていた。


 花南は、意味深な笑顔で、うりうりと素奈多を肘でつつく。


「昨日、どうだった?」


 なにやら、興味津々の様子で、素奈多の視線をすくい上げた。


「どうって? なにが?」

「はれっ?」


 素奈多のつれない反応に、拍子抜けしたように花南は首をかしげる。


「あのさ、なんにもなかったわけ?」

「ああ、おでこにちゅ~はした……らしい」

「お・で・こ?」


 花南は、がっくりと肩を落とした。


「もう……。そんな可愛いこと言ってると、あたしが彼のこと誘惑しちゃうよ?」


 素奈多は、一瞬、顔色を変えて花南を見る。

 花南は、ふふんと鼻先で笑うと、ピンク色の唇をぺろりと舌でしめらせた。


「実は、昨日、誘ったんだけど……。断られちゃった」


 素奈多は、ピクンと片眉を跳ね上げた。


「誘ったって……なにを?」


 花南は、クスクスと笑う。


「決まってるじゃない。エッチしようって」


 ガガーンという衝撃音が脳天を割ったような気がして、素奈多は茫然とその場に立ちつくした。

 手から鞄が落ちて、地面がドスンと鳴った。


「やだ、素奈多……。そんな反応しないでよ」


 素奈多は、ふるふると首を振った。


「エッチって……クランと?」

「そうよ? だって、あんたが好きなのは先輩で、彼のことはどうでもいいわけでしょ? いっしょに住んでるのにおあずけ喰わせてるんだもん。可哀想よ」

「だ、だからって……なんで、そういう……」


 あわててしまって、言葉がうまく出てこなかった。

 素奈多は、みっともないくらいにうろたえた。

 対する花南は、余裕たっぷりだ。


「ぼやぼやしてたら、とっちゃうよ」


 素奈多は、ちからいっぱい首を横に振った。


「だめ! あたし、悔しいけど、あいつのこと……好きだと思う」


 花南は、やれやれと首をすくめた。


「ふふん。やっと気づいたの? 遅いわよ。それ、本人に言ってあげなさいね。彼、先輩のニセモノだって気にしてたわよ」

「え……」


 そういえば、ニセモノと言ったとき、クランはとても哀しそうな顔をしたような気がする。

 そんな彼の表情の変化を、ちゃんと記憶していたことに素奈多は驚いた。


 そう。

 最初からなんでも覚えている。

 大きな手も、肩の筋肉も、胸板の厚さも、初めて触れた唇の暖かさも……。

 真っ裸で、抱きついて寝ていたことも……。

 で……。

 見ちゃったことも……。


 思い出して、ゾクリと体が震えた。

 カァッと体の芯が熱くなった。


「でも」


 花南が、深刻な声で言った。


「なんか、気になること言ってたから、ちゃんと聞いてみた方がいいかも」


 急に素奈多は不安になった。


「気になること?」

「うん。存在がイレギュラーだから、どうしょうもない……とかなんとか……」

「イレギュラー? なんだろ?」


 素奈多は、胸にインクを落としたようなシミが広がるのを感じていた。

 ぜんぜん普通の人間と同じで、変わったところなんかなかったから、つい、忘れかけていた。


 彼は……、クランは、得体の知れない卵から生まれたのだ。


 そう思うと急に不安になって、胸の中がざわざわして落ち着かなくなった。


「花南」

「ん?」

「あたし、今日、帰る」


 そういえば、目玉焼きを作っていたとき、少し具合が悪そうだった。

 彼は、心配させまいとして平気な顔をしていたけど……。


「なにもそんな急に……」


 花南が呆れたように素奈多を引き留める。

 素奈多は、真剣な顔で花南を見た。


「ううん。なんか、すごく気になるの」


 素奈多は、週番の先生の制止を振り切って、家路を急いだ。


 ――クラン……。


 心の中で、彼の名を呼んだ。

 先輩と同じ。

 だけど違う男の名を。


 何事もなければそれでいい。

 ただ、彼の顔を見て安心したいだけだった。


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