第19話 恋する赤い風船
クランは、ベッドサイドで素奈多の手を握って、彼女が眠りにつくまで見守っていた。
枕元の手すりに、赤い風船のひもを縛りつける。
クランは、素奈多の無邪気な寝顔に視線を落とし、やわらかな笑みを浮かべた。
優しく毛布をかけてやり、その前髪の散った額にキスをする。
「おやすみ」
クランはリヴィングに戻り、ソファの上で毛布を掛けてひっくり返った。
みゃあ、と鳴いてニセキジがクランの腹の上によじ登ってきた。
クランは、ニセキジを抱いて丸くなった。
翌朝、妙にすがすがしく目覚めた素奈多は、大きく伸び上がって、ベッドサイドで揺れている風船と対面した。
赤い風船に、マジックで顔が描いてある。
大きな口を開けて、にこにこ笑っている顔だ。
クランが描いたのかな、と思って、素奈多はあったかい気持ちになった。
夕べ、突然現れて、一瞬で男たちをノシてしまったクランは、びっくりするくらいかっこよかった。
事故のとき、優しく励ましてくれた九嵐先輩も素敵だったけど、昨日のクランも素敵だった。
ううん。素奈多はかぶりを振った。
ポテチを食べながらだらしなくソファで寝コケてしまったクランも可愛いし、焼きそばをつくってくれたクランもあったかかった。
いつの間にか、彼の表情や指先の動きまで、しっかりと記憶している自分がいた。
にこにこ笑っている風船にそっと顔を近づけて、ちゅっとキスをした。
「おはよう」
風船は、ぽよよんと揺れて、挨拶を返してくれたようだった。
憧れは、恋とは違うのかもしれない……。
素奈多は、そんなことに気づき始めていた。




