第17話 お友達デート
夜の遊園地には、カップルが溢れていた。
絶叫マシンで文字通り大絶叫した花南の手を引いて、クランは笑いながらアトラクションの階段を下りた。
「ははは~。花南、すげぇ顔~」
冷や汗を拭いながら、花南は息も絶え絶えに言い返す。
「もう。女の子にそんなこと言うから、素奈多もへそ曲げちゃうのよ」
クランは花南の表情をのぞき込んだ。
「あれ? 花南は、マジで怒んねぇの?」
「だって、あたしは九嵐先輩のファンってわけじゃないもの。幻想抱かないで、君のこと普通の男の人だって受け止められるわけよ」
二人は連れだって歩いて、ベンチにこしかけた。
「佐藤九嵐って、そんなにイイヤツなのか?」
ポツリと、クランが訊いた。
「さあ。事故のとき助けてもらったからって、素奈多が神聖化してるだけかもね。案外、普通なんじゃないかな?」
「事故?」
花南は、素奈多が九嵐先輩を想うようになったきっかけをかいつまんで話した。
「へ~。んで、先輩おっかけて難関付属に入ったわけね。すげーな」
花南は、いたずらっぽく笑って、クランの表情を仰いだ。
「素奈多の想い人が気になる?」
「ってゆーか、単純に、すげーなーって。そんなに想わせる佐藤九嵐も、追いかけ続ける素奈多も」
「うん。確かに」
二人の前に、巨大な猫の着ぐるみを着たキャラクターが、風船を持って歩いてきた。
クランは、風船をひとつもらってきて、花南に手渡す。
花南は目を丸くした。
「やだ。ちょっと嬉しい」
クランは照れたように笑った。
「ちょっとかよ?」
花南は、宙にただよう赤い風船を見上げて遠い目になった。
「だって……あの子、きっと泣いてるもん」
クランは、首をすくめた。
「マジ? あいつ、今頃、クッションをボコボコにしてると思うけどな?」
「まあ、それはあるかもしれないけど……。でも、あの子、男の子に免疫ないからとまどってんのよ……」
クランは吹き出した。
「確かに、あいつってガキだよな~。同じ部屋に住むのって、ゴーモンに近いって……」
そのクランの発言に、花南も爆笑した。
「やだぁ。我慢してる反動で、意地悪しちゃうって言ってるみたいだよ? それって小学生の愛情表現だよ」
クランは決まりが悪そうに口をとがらせる。
「ちぇ」
花南は、肩をふるわせて笑った。
「ああ、惜しいなぁ。あたし、あなたのこと、好きになりそう」
「俺はいいぜ? 花南、かわいいし。話判るし。いきなり殴ったりしねぇし」
安請け合いしたクランを、花南は艶っぽい目で見上げて顔を近づけた。
「じゃ、今日から、あたしの部屋に来る?」
花南の濡れた長い睫毛が、蠱惑的だった。
クランは、思わず半身を引いた。
「それって……」
花南は、ふわりとクランにしなだれかかり、その胸に細い指を這わせた。
「そう。誘ってるのよ……」
甘いフローラル系のコロンの香りが、クランを誘惑していた。
クランは迷った。
迷ったので、本音を言うことにした。
「えーっと……。誘いに乗りたいのはヤマヤマなんだけどさ、なんか、すっきりしない……ってのは、君を傷つけない理由になる?」
花南はクスッと笑った。
まるで彼がそう答えるのを予期していたようだ。
花南は、さっきクランからもらった風船をクランの手に握らせた。
「ほら。これ持って、帰んなよ。ねぇ、クラン。あたしに優しくできるのに、どうして素奈多にはできないの?」
クランは、ふっと真顔になった。
「あいつが好きなのは、憧れの先輩だろう? 俺はニセモノだからな……。イメージ違うほうがいんだよ」
花南は首をかしげた。
「ニセモノ? あの子だって、判ってると思うけどな」
クランは、ベンチから立ち上がった。
ちかちかとアトラクションの明かりがまばゆく明滅する空を仰いで、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「でもな。俺の存在ってさ、イレギュラーなわけよ……。こればっかりは、どうしょうもねんだよな~」
虹色の灯りに彩られた空は、闇を塗りかえるように明るかった。
クランの手にした風船が、風に吹かれてゆらゆらと宙を泳いだ。




