第11話 不器用な焼きそば
素奈多は、突然のことにショックを受け、ソファに突っ伏したまま泣きじゃくっていた。
あれは、素奈多のファースト・キスだった。
嫌い……。
だいっ嫌い……。
素奈多は、胸の中で何度も何度も「嫌い」を繰り返した。
なんでこんなことになっちゃったの?
こんなことが、いつまで続くの?
――先輩、先輩……。助けて……!
いくら九嵐先輩に助けを求めても、彼がスーパーマンのように現れて素奈多を助けてくれる、なんてことがあるはずなかった。
目の前にいるのは、変な卵から生まれてしまったできそこないの先輩のニセモノで……。
そんなものを創ったのがバレたら死刑になってしまうかもしれない。
こんなヤツをかくまって、このまま一生、誰にもなにも言えずに暮らしていくんだろうか?
一生……?
あまりにつかみどころがなくて、素奈多はますます泣けてきた。
キッチンで、ジュージューと音がし始めた。
あいつがまた、なにかを始めたらしいが、それを確かめに行く気力はなかった。
先輩にそっくりな顔をした悪魔……。
そうだ。
あいつは、素奈多を困らせるために現れた悪魔なのかもしれない。
ソファに埋まってクヨクヨと考えていると、クランの足音が近づいてきた。
裸足の足がフローリングをぺたぺたと歩いてくる。
体を起こして、その足元をじっと見ると、彼の足は、親指よりも人差し指が長かった。
きっと、九嵐先輩の足もそうなんだろうなぁ、とぼんやりと思った。
ソファにしなだれかかっている素奈多の目の前に、ドンと、フライパンが置かれた。
驚いて身を起こすと、フライパンの上で具だくさんの焼きそばが湯気をあげている。
食欲をそそる美味しそうな匂いが漂ってきた。
「悪かった。食え」
しゃがみこんで素奈多と目線を合わせると、クランはぶっきらぼうに言った。
ぐいと、長い箸を差し出す。
素奈多は、差し出された長い菜箸とフローリングの床に直置きされた熱いフライパンをかわるがわる見比べた。
「……フライパンと、お菜箸で?」
クランはあわてたように頭に手をやった。
「あれ? 変だったか?」
「それに、この床……、熱で変色したかも」
クランは、さらに、うろたえる。
「うぞっ?」
素奈多は、焦ってフライパンを持ち上げようとするクランを見て、ふっと微笑んだ。
不思議だった。
めちゃくちゃ嫌なヤツで、大嫌いなはずなのに、なんだか許せるような気がしていた。
素奈多は、クランの差し出した長い菜箸をとった。
やきそばを不器用につまんで口にはこぶ。
「美味しい……」
そういえば、さんざん買い物で歩き回って、お腹がペコペコだった。
おなかの中が暖まると、心にも余裕ができたような気がした。
この焼きそばは、クランなりの優しさなのだろうか。
素奈多は熱いフライパンで変色した床を眺めた。
ナチュラルカラーのフローリングが、丸くきつね色になっている。
ずっと先のことは判らないけれど、少しくらいだったらいっしょにいてもいいかな、と思った。




