第6話 金が飛んでいく
「十万円、警告つきの」
グロリアはNHKマイルの前哨戦のNZTで派手に逸走し審議の対象となった、結果ギリギリで入線順の決着となり優先出走権は獲得できた、しかしあれだけ無茶苦茶なことをしたのだから制裁の1つや2つは確定である。
その結果十万円の過怠金、それにプラスして警告処分、なんとか出走停止は免れたのでNマイルには出れる。
そんななか河田は一つ疑問に感じていたことがある、こいつはもしかしたら長距離向けではないのかと。
マイルで活躍はできているがそれもOP一勝のみ、マイルやスプリントで燻っていた馬が長距離やクラシックディスタンスに矛先を変えると急に活躍しだすのはよくあることだ。
幸いなことに河田は堀井からグロリアについての全権を委ねられている、河田は悩みに悩んだ。
「1800Mではそこまでの活躍はない、もはや1600から1800が限界の馬かもしれない、試しに2000や2400に出してみたいところだ、ここは試しにダービーに......」
河田は一つ重要なことを思い出した、この年のクラシック戦線は一強と呼ばれていることを。
「スターライトビート」父クロワデュノールアーモンドアイの超良血馬。
3戦3勝でホープフルSを制覇、その後弥生賞で3馬身差の圧勝、皐月賞を最後の400Mで後方から前頭差し切って更にレコードタイム。ダービー想定オッズ1.2倍の第二のディープと呼ばれている。
「ダービーはやめておいたほうがいいかもな、しかし一度しか出れないレースに出れる権利があるというなら出るしかねぇよな。グロリアをダービーに出して..みるか。」
東京芝2400Mで争われる三歳世代トップを決める有馬記念に継ぐトップレースだ。
最後の直線は510Mもありその中で2Mのとんでもない坂を越えるスタミナやスピードが求められるコースであるとも言えるだろう、グロリアはスタミナに関しては不安があるがスピードに関しては一級品だ。
河田はこのことを堀井に話した
「グロリアをダービーにだしてみたいです。一生に一度の機会があるなら出してやりたいんです。」
堀井は「こいつ正気か?」と疑う目で河田を数秒間見つめた後
「グロリアの全権は君に委ねている、よって私が口出しする権限はないがコレだけは言わせてもらう......
あいつを枯れさせたら承知しねぇぞ。」
枯れるとは本来の力を失うということである、距離適性外のレースに出した、骨折した、手術したから、負けたからと枯れる原因はそれぞれだ。
河田は一瞬固まったが「わかりました、ありがとうございます」と一言言って部屋を後にした。
次走は日本ダービー、一番の強敵はスターライトビートだ。名前の由来は星のきらめき+音楽のリズムだそう、父親がフランス語で北十字星を意味するからだろう、それにしてもこいつら以外の敵が見当たらないな。
2番目に強いとされている朝日杯の覇者ノーストップデイは弥生賞でライトに3馬身差で負けている。
3番目のラスカルホクトに関しては桜花賞2着であるが牝馬であることと逃げ馬であること、府中のコースは逃げ馬には合わない、しかも桜花賞も1着の馬は出遅れで2馬身差で勝ったのでもはや1着の馬が出たほうが強いだろう。
穴で怖いとすれば前走プリンシパルSの覇者のヴァイキングスか....こいつは名前の割にはいつも惨敗続きの馬だ、しかし前走のプリンシパルSで一度は先頭が変わったものの差し替えしダービーへの権利を手にした。それと同時に変化の兆しも見えてきている馬だ。
「一番の恐怖はヴァイキングスかもな」
そう言うと河田はパソコンに映る出馬表のタブを消して眠りについた。