第1話 負け組だ
「シルバーコレクター」レースに勝つ力はあるがいつもあと一歩、それ故にファンから愛される。
「ナイスネイチャ」 「ハクサンムーン」「ロイスアンドロイス」「サウンズオブアース」「ステイゴールド」
堀井は「シルバーコレクター」という《劣等生》は今後何十年合うことはないだろう、ましては精鋭集うオレの厩舎から出てくるなんて絶対に有り得ない......と思っていたのである。
GⅠ馬を量産する堀井厩舎の劣等生という名のシルバーコレクターその名も「グロリアドーロ」。
イタリア語で「黄金の栄光」と意味する、しかしその名前とは裏腹にいつも何かと勝ちに恵まれない、現在は賞金加算でOPクラスへと昇格した...はいいものの条件戦でも「あと一歩」のレースが多く勝鞍は2歳新馬のみである。
「勝てる実力はあるのにな。まぁ気性も荒いし自由気ままだからか......にしても本気を出してくれればGⅠの1つや2つは取れると思うんだがな」
太陽がゆっくりと昇ってきている中で調教助手の河田は独り言かのように呟いた。
河田は過去にレース中に自分の騎乗していた馬が他馬の妨害によって予後不良になり、それが原因で激昂しジョッキールームの備品を破壊して騎手を《強制引退》となった。
河田は「馬を褒める」というスタイルを取っている。これは堀井の「弱肉強食」スタイルとは大きく異なるものでいつも対立しかけているが暴力沙汰を起こしたどん底の自分を拾ってくれた堀井には感謝しかなくいつも河田が折れる結果となっている。
すでに年をまたぎ4月。新緑の匂いを風が運ぶ中、金色の馬体を輝かせながらグロリアドーロは走っていく。動きもよくキレも素晴らしいのになぜこんなに勝てない.....と河田は思い堀井に思い切って提案をした。
「堀井さん、次のレースの距離を縮めてみたいんです。」
堀井は一瞬止まったかと思うと
「何を言い出したかと思ったら、こいつには1800から2200が適正だ!!血統的にも今までのレースを見てもそうとしか見えないんだ!!!だいたい1400Mで結果を残せていないんだからむしろ距離を伸ばすほうが適切だ!!」
きっと河田は初めて堀井に対して放つ言葉に強い強い力を込めたのだろう
「自分のためじゃない!!グロリアのためなんです!結果が出ないなら首にしてください!あいつが活躍できる可能性が1ミリでもあるならオレは全力を注ぎたい!!!」
堀井は一言ため息を付いた、河田はすぐに「機嫌を大きく損ねてしまった、いくらなんでも出しゃばりすぎてしまった」と感じる。しかし
「分かった、お前がそこまで言うなら次のレースを距離を下げて1600Mにしてみる、しかし1着を取れなかった場合は即刻クビ.............だ」
裏を返せば「どんな手を使っても1着になれば良い」とも受け取れる。河田がこの馬に、グロリアドーロに全力を注ごうと決意した瞬間であった。
ここまでのグロリアドーロの戦績
2歳新馬 芝1800M 1着
2歳一勝クラス 芝1800m 3着
2歳二勝クラス 芝1400M 6着
2歳二勝クラス 芝1800M 3着
2歳三勝クラス ダ1700M 8着
2歳三勝クラス 芝1500M 2着