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メルクリウス兄弟

昼休み。

僕とパウルス、ネロ、そしてルーデンスは、食堂の一角に集まっていた。すっかり昼はこのメンバーで食べるのが日課になっていた。

「ふぁぁ……眠い……」

パウルスはいつものように、トレイに顔を突っ伏しそうな勢いであくびをしている。

「……だらしない」

ネロはぶっきらぼうに言いつつ、冷静にスプーンを運んでいる。

彼はほとんど表情を変えないけど、なんやかんやいつも一緒に行動してくれている。

ルーデンスはというと、

悪い顔でパンをかじっていた。

(ほんと、懲りないな……)

笑うしかない。

(でも、こんな普通の時間、悪くない)

そう思いながら、僕も手を合わせて食事を始めた──その時だった。

──ドスンッ!

いきなり、隣の椅子が勢いよく引かれ、誰かが崩れ落ちるように座り込んだ。

「……助けてくれ……」

聞き覚えのある声。

見れば、金髪をわしゃわしゃとかき回し、ぐったりと突っ伏しているのはヴァージルだった。

「ヴァージル?!どうしたのそんな疲れて。」

思わず声をかけると、ヴァージルは疲れた目で僕らを見た。

「……ずっと、まとわりつかれてる。あいつに」

「まとわれつかれ……?」

誰に?と聞こうとした、その瞬間。

「ヴァージル、なぜ避けるんだ!」

背後から、きっちり整えた制服姿の男子が声をかけてきた。

ヴァージルが微妙な顔を向ける。

「……なぜ、じゃないでしょ……ところ構わず着いてきておいて...」

げんなりしたヴァージルに構わず、レクトゥスは当然のように空いた席に座る。

「一緒に食べてもいいか?」

「……もう座ってるよね」

小声で突っ込むヴァージル。

レクトゥスは、ピシッと背筋を正し、堂々と僕たちに向き直った。

「俺はレクトゥス・メルクリウス。高等科一年、組は一組だ」

真剣そのものの顔で名乗る。

「目標は、学内で一番の魔術師になることだ。魔法理論、現象魔法、基礎体術──すべてにおいて一流を目指すつもりでいる。だから──こうして、優れた者たちと積極的に交流し、切磋琢磨したいと考えている!」

食堂中に響きそうな声量だった。

僕たちは、ぽかんと彼を見た。

「ん、メルクリウス?」

僕が聞き返すと、横のルーデンスが肩を揺らして笑いながら答えた。

「あ、そうそう、これ俺の双子の兄貴。」

「えええっ!!?」

パウルスとネロも、同時に声を上げた。

「似てない!」

どう考えても双子には見えなかった。

真面目を体現したようなレクトゥスに無邪気が皮をかぶって歩いているようなルーデンス、信じがたかった。

まさか僕とヴァージルが同じ兄弟に悩まされていたとは、運命の悪戯だろうか。


「……よろしく頼む!」

レクトゥスが深々と頭を下げる。

机の上に置かれたトレイが、ガタッと音を立てるほど勢いよく。

パウルスが、ぽつりと呟いた。

「……まじめ……」

「……うん」

ネロも、スプーンを持ったまま、眉をひそめている。

一方、ルーデンスは爆笑していた。

「兄貴、相変わらずカタすぎんだよな〜!」

「……誠実さは大事だろう!」

レクトゥスは真顔で返す。

「まあこんな兄貴だ。みんなよろしくな?」

ルーデンスが僕たちを見回した。

僕は、自然と笑ってしまった。

「うん。こっちこそ、よろしく」

「……よろしく」

パウルスも、ネロも、順番に頷く。

ヴァージルだけは、渋い顔をしてぼそっと呟く。

「めんどくさい...」


(新鮮なヴァージルをみれて嬉しいだなんて言えないな...)



食事をとりながらも、レクトゥスは隙あらばヴァージルをじっと見ていた。

ヴァージルは、露骨にげんなりした顔をして、パンをかじっている。

僕はちょっと気になって、レクトゥスに尋ねた。

「なあ、レクトゥス」

「ん?」

「なんでそんなに、ヴァージルにこだわるの?」

「──強いからだ」

「強い……?」

「彼は、天才だ。認めよう。魔法の才能も、戦闘の勘も、センスも、全てにおいてだ。悔しいが俺が勝っている部分はない。」

レクトゥスは、真剣な顔だった。

「だから、越えたい。追いつきたい。少しでも近づきたい」

一言一言を、かみしめるように。

「俺は、ただ真面目に努力するしかない。センスも、天恵陣の応用力も、彼には敵わない。でも──それでも諦めたくないんだ」

静かな、でも強い声だった。

(……まっすぐだな)

僕は、心の中で思った。

地道な熱さ、ひたむきなプライド。

──レクトゥス・メルクリウスという人間がよくわかった気がする。

「いいじゃん、レクトゥス。そういうの、嫌いじゃないぜ?」

パウルスが言った。

ヴァージルはというと、面倒くさそうに溜息をつき、何も言わなかった。

「どんまい」

僕は笑ってヴァージルの肩を叩く。

なんだか新鮮だ。悪い気はしない。


次の日も、ヴァージルが助けを求めて僕たちのテーブルにやってきた。もちろん、レクトゥスも一緒に。それから、不思議と全然タイプの違うこの6人で食事をするのが当たり前になっていった。


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