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探偵助手 前島樹里

「おやおや、随分とがっかりしているね?僕の事がそれほどお気に召さなかったのかな?」

 

流石にコレほど露骨に態度に出してしまえばいくらこの人でもわかる様だ。


しかし今更取り繕っても仕方がないしここは正直に語るとしましょう。


「ええ、おっしゃる通り、正直私は落胆しています。


【日本に凄腕の名探偵がいる】という噂を聞きつけこうして駆けつけた次第なのですが


貴方は私が思っていたような人物ではなかった……」


「僕の実像を見て想像とは違ったわけだ、何か知らないけれどごめんね。


ちなみにどんなところが想像と違ったのかな?」


「失礼を承知で言いますが、まず私の考える【名探偵】の条件。まずは類稀なる観察力、そして鋭い洞察力


卓越した知識、溢れる知性、そういったモノが貴方には微塵も感じられないのです‼︎」

 

言ってやった、これで私がここに就職する事は無いうだろう。見ず知らずのド素人にここまで言われてさすがに怒っただろうな……


でも後悔はない。所詮物語に出てくるような【名探偵】などいないのだ、それが分かっただけでも……って、あれ?


「私かなり失礼なことを言ったはずですよね?初対面の素人にここまで言われて


どうして貴方はそんなヘラヘラしているのですか⁉︎」

 

そうなのだ、この天塔グリムという人間の奇怪なところは常に人を舐め回すような視線を向けながらいつもヘラヘラとしている点だ


そこがどうにも癇に障る、妙に人を苛立たせるのだ。

 

確かに小説で出てくる名探偵には変人といわれる人は多い、


この人はその点だけは条件を満たしていると言えなくもないが欠点だけ踏襲されても……


「なるほどね、観察力に洞察力、そして知識と知性か……まるでシャーロック・ホームズだね


もしかして君はシャーロキアン?」


「いえ、私はシャーロキアンではありません、あくまで一般的な見解を述べたのに過ぎません」


「じゃあ一般的な見解ではない君の意見を聞きたいな、僕のどういうところが気に入らなかった?」

 

何ですか、それは?そんなことを聞いて何がしたいのか……


まあいいでしょう、どうせもう会うこともないでしょうし……


「私が貴方を一番許せないのは、美術品に対する姿勢です‼︎」


「美術品?どういう事?」


「美術の世界では不思議な風習があり〈偽物とわかっていて売りつけられても、それは騙されて買った方が悪い〉というモノです。


コレは刑法246条【詐欺罪】に相当する案件だと思う

のですが、美術世界では何故か許されるのです。


私などには到底理解できないものではありますが、祖父は常々言っていました


〈騙される方が悪い、だから騙されないために鑑定眼を磨き己を高めるのだ〉と……


祖父は二年前に他界しましたが、そういった誇りを持って美術品に取り組んでいた祖父を私は尊敬しています。


美術における真贋とはそういった誇りと歴史によって積み上げられて来たモノだと私は思っているのです。


騙されることは仕方がありません。己が未熟でその代償として高額のお金を払っているのですから


でも貴方の【真贋などどうでもいい】という姿勢はどうしても看過できません


それは祖父をはじめ幾多の美術に携わって来た人達の尊厳を踏み躙る行為に見えるからです


それが私が貴方を許せない理由です‼︎」

 

言ってしまった……初対面の人間にここまでいう必要があったのか?と思う


しかし相手が聞いてきたのだ、私は思ったことを包み隠さず言っただけなのだ、私は悪くない……

 

でも分かっている、普通の人間はここまで言わない、そう私も普通じゃないのだ……

 

よく人から〈気持ちが態度に出る〉とか〈一言多い〉と言われる。


人付き合いが苦手で〈可愛げがない〉と言われたことも一度や二度じゃない


思ったことをつい口にしてしまう、本音を隠して上手く人に合わせることができない


この日本における〈事なかれ主義〉というモノがとにかく苦手なのだ。


だから私は外国に逃げた。日本人より欧米の人間の方がハッキリとモノを言い、本音で語るというイメージが強かったからである。しかし結果は同じだった……


私の行ったイギリスでも〈日本よりマシ〉というだけでさして違いはなかったのである。


むしろ文化や人種が違う分だけ余計にあぶれた、考えてみればそれも当然で


社会においてコミュニティというのは必要不可欠であり、そのコミュニティを維持するためには人に合わせる


本音を隠して同調する、空気を読むといった事は〈できて当然〉なのだ。


私のような人とのコミュニュケーションが苦手な人間は人と関わらない仕事をすればいいのだろうが残念ながらそんな仕事はないのである。


私は〈しゃべるのが苦手〉なのではなく、〈人が苦手〉なのだ。


一人でできる仕事としてプログラマーや翻訳の仕事も考えたが


結局それらの仕事もクライアントの要望に応えるためにどこかで人と折り合わなければならない。


いっそ漫画家や小説家を目指そうか?と考えたこともあったが


それも編集者や出版社といった人達と折り合わなければいけない


結局私は【社会不適合者】という定めから逃れられないのか?と絶望した


私が裁判官を目指したのも、〈昔の裁判官は公平性を保つために私生活でさえも他人との交流を制限されていた〉と聞いたからです。


コレならば〈人と交流を避けても、友達がいなくとも言い訳ができる〉というとてつもない志の低さが理由なのです。


もちろん抵抗はありました〈そんな理由で人の人生を決める裁判官という職業をめざしてもいいのか?〉


という自問自答と自責の念は絶えませんでした。だからこその探偵だった


一度ダメもとでも子供の頃から憧れていた【探偵】を目指してみたかったのだ。

 

その結果がこのザマである……いくら自分のイメージと違っていたからといって


いきなり押しかけて来て初対面の人間にここまで言うか?


つくづく自分に腹が立つ、悔しさと情けなさで涙が出てきた


散々好き勝手に言いたいことを言うだけ言って泣き出す女とか最悪だ、メンヘラにも程がある


でも止めようとすればするほど涙が出てくるのだ。


もう嫌だ、恥ずかしい、ここからさっさと逃げ出して、家に帰ろう……

 

私はそのまま踵を返し出て行こうとした。涙で崩れて隠せるはずもない泣き顔を必死で隠し慌ててこの場を立ち去ろうとしたのである。


だがその時、背中を見せて帰ろうとした私の左手を咄嗟に掴まれたのである。


「ちょっと待って」

 

まさか引き留められるとは思っていなかった。思わぬ展開に少し戸惑ってしまう


だがそんな天塔さんに対し私はまたもや反抗的で可愛くない態度を取ったのである。


「離してください……セクハラで訴えますよ」

 

男性の前で感情に任せて泣く女とか心底軽蔑しているはずなのに私自身がそれをやっているという情けない現実。


いたたまれなくなり早くこの場を逃げ出したい私に彼はとんでもないことを提案して来たのである。


「君は探偵という職業にかなりの思い入れがある様だね……じゃあどうだろう


今から二時間後に予約しているクライアントがここに来ることになっている


もし良かったら体験入社というか、一度だけ僕の仕事を手伝ってみてくれないか?」


「は?」

 

私は耳を疑った、そして涙をボロボロと流したみっともない顔のまま天塔さんをマジマジと見つめた


この流れで私を誘うとかどういう神経をしているのだろうか?


「君がまだ〈探偵〉という仕事を目指しているのならば、僕の仕事ぶりを見て色々と判断してみてはどうかな?


僕のやり方を参考にするもよし、反面教師として教訓にするのもよし


どんな経験でも探偵という仕事に携わってみるというのは君にとってマイナスにはならないと思うし


いずれにしても勉強にはなると思うんだ。


もちろん今回の仕事の分のバイト代は出す


まだ今回の依頼がどんな仕事内容なのかはわからないが僕の助手として一度だけ働いてみる気はないかい?」

 

私にとっては救いのような提案である。確かに現実の探偵という仕事には興味がある


いくらこの人が自分のイメージと違ったからといって今後のことを考えれば仕事に携わるのは確実に勉強にはなるだろう


結果的として探偵という仕事を諦める事になったとしても現実を知って断念するのと


ただただ逃げ出すのでは雲泥の差だ。この提案は私にとっては断る理由はない……


しかしこの人はなぜ私を誘うのだ?人手が足りなくて従業員の募集をしていたわけでもない今回の私は完全な押しかけ助手なのである。


何も知らない生意気な小娘に散々言いたいことを言われて助手として雇うとか意味がわからない


神経のネジが一、二本吹っ飛んでいるのではないのかと疑ってしまう、もしかしてマゾヒストなのだろうか?


「どうかな?」


「どうって……貴方がそれでいいのならば……お願いしたいですけれど……」

 

私はあまりのバツの悪さに、まともに相手の顔を見られない為、俯きながら聞こえるか聞こえないかの小さな声でボソリと答えた。


「じゃあ決まりだ、よろしく、ジュリちゃん」

 

にこやかに右手を差し出す天塔さん。私も恐る恐る右手を差し出すとその手をがっちり掴まれしっかりと握手した。


「よ、よろしくお願いします……」

 

こうして私は【天塔グリム探偵事務所 助手見習い】として夢にまで見た探偵の道を一歩踏み出したのである。


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