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自分への変装

それから三時間ほどが過ぎた頃、関係者がようやく集まって来た。


六花さんに葉月さんとその夫である篠崎省吾さん、そして弥生さん


弥生さんの夫の槇原聡さんは仕事からそのまま来たのだろう、少し汚れた作業服のまま姿を見せた。


一方で五月さんのバカ息子、竜二は警察内というのがどうにも落ち着かないのか


どこかオドオドしながら周りをキョロキョロしている、街中で見かけたら明らかに挙動不審人物として職務質問を受けるレベルである。


白川弁護士は仕事で来られないので集められた関係者は全部で六人と相成った。


「皆さんお忙しいところを御足労いただき感謝します


いまからここにいる天塔くんが事件の真相を説明したいというのでここに集まってもらったという次第です、じゃあ天塔くん、頼むよ」


話しを引き継ぐ形で振られたグリムさんは一度小さく頷き、声高に説明を始めた。


「まず、皆さんには五月さんが亡くなった日の藤代邸付近の映像を見ていただきます、説明はそれから……」


皆、何が始まるのだろう?という目でグリムさんを見つめている


表情を見ると誰もが複雑な思いを抱えているようだがここはとりあえずグリムさんの言い分を聞いてからというつもりなのだろう。


「じゃあ、映像の方を流してください警部」


グリムさんの言葉に促されコクリと頷く小暮警部。そして皆が息を飲む中で上映会の様な映像検証が始まった。


映像は今回も私達が見ていたモノと同じく倍速で流され全員が真剣な表情でそれを見つめていた


しばらくそんな状態が続き十分が過ぎたころである、突然グリムさんが叫んだ。


「止めて警部‼︎」


ビクッと反応し映像を慌てて止める小暮警部、しかし私にはそれらしき人物は全く見当たらなかった。


今まで静かに見ていた周りも〈どうしてここで静止?〉という空気が漂う


ふと小暮警部や皆の方を見るがどうやら私と同じ感想を持ったようである


グリムさんはどういうつもりでここで止めろと言ったのだろうか?


「少し巻き戻してください警部……」


無言でコクリと頷いた小暮警部はスローで映像を巻き戻すと、しばらくしてグリムさんは再び声を上げた。


「ストップ……ビンゴ、五月さんを見つけましたよ」


珍しく目をぎらつかせ愉悦混じりの笑みを浮かべるグリムさん。


映像の中では二人の女性が映っていたがどちらも五月さんとは似ても似つかない姿の人物に見える。


「五月さんなど、どこにもいないじゃないか‼」


「この中にウチのババアがいるだと⁉馬鹿な事をほざくな‼」


「一体どこに見つけたというのだね、天塔くん⁉︎」


「そうですよ、この画面に五月さんらしき人は映っていませんよ


それともこの右端の若い女性が五月さんだとでもいうのですか⁉︎」


驚きを隠せない私と小暮警部、そして関係者の人達。


そんな我々の事などどこ吹く風とばかりにニヤつきが止まらないグリムさん


そして止めた映像の中の女性を指さし、静かに語り始めた。


「そっちじゃない、こちらの左端の女性が五月さんだ……」


グリムさんが指摘した女性を見て私達は絶句した。


その女性は背丈や体格こそ五月さんに近いが豹柄のシャツに派手な赤いタイトスカートに右手には黄色い紙バックを持っていた


そして何より最大の相違点は髪型だ。普段の五月さんは黒髪のロングストレート


それに対し、モニターに映っている女性はやや赤く染めたベリーショートの髪型なのである。


「馬鹿な、これが五月さんだというのかね⁉︎」


「有り得ませんよ、カツラで髪を長く装うというならばともかく、短くするなんて……


この映像を見てもわかる通り地肌すら見えるこの髪型はカツラとかでは絶対に無理ですよ‼︎」


私と小暮警部が猛然と反論すると、六花さんや竜二がそれに続いた。


「私と会った時には、こんな派手な格好と髪型では無かったですよ。


といいますか、ここまで変わっていたならばさすがに私もそう報告しています、これが五月さんとか何かの間違いでしょう⁉」


「こんなド派手な女がウチのババアだとか、ハッタリにしてももう少しましな事を言えや、ぶっ殺すぞ、コラ‼」


私や小暮警部と同様に六花さんや竜二も興奮気味に捲し立てた。


しかしそれとは対照的に、グリムさんは少しも動揺する事も無く寧ろ確信している様子で淡々と説明を始める。


「そんなことはないよ、この人が五月さんで間違いはない。


おそらくこの日の為に元々長い髪を切ってベリーショートに変えたのだろう……」


「でもここまで激変したら、流石に立花さんも気がつくはずじゃないですか⁉……って、まさか⁉︎」


私はある可能性に気づき愕然とした。


「そう、ようやく気がついた様だね。藤代邸に現れた五月さんは普段の自分に変装するための〈カツラ〉をかぶっていたのだよ


藤代邸近くの公園の公衆便所で着替えをして変装を解き、普段の髪型の様なカツラを被って何食わぬ顔で藤代邸を訪れた。


派手な衣装と紙袋は公衆便所に置き去りにしてね」


その説明に誰もが〈信じられない〉といった表情を浮かべ言葉を失っている


ならば私が皆を代表する形で疑問を投げかける事にした。


「でも、誰かが便所に置いてあるその紙袋を発見していたら不審に思いませんか?」


「あの公園は利用者が極端に少ない。この辺りに子供が減ったというのが最大の理由だろうが


僕たちが何度来てもあの公園を利用している人はいなかった。


ましてやそこに設置されている女性用の公衆便所を利用する者などほとんでいないだろう


まあ僕に知る限り一人だけいるけれどね」


グリムさんはそう言うと私を見下ろし嬉しそうに笑った、私が代表して貴方の推理に反論した事に対する意趣返しですか⁉


「うぐっ、一々そこに繋げなくともいいですよ‼︎しかし普段の自分に変装するとか、思ってもいない発想ですね……


じゃあ、もしかして私たちの会った五月さんの髪というのは⁉︎」


「さすがジュリ、頭の回転が早くて助かるよ。


そう僕達が会ったあの五月さんはやはり偽物。そして落としていった毛髪が本物だったのも当然だ


何せあの髪は〈五月さんの自毛で作ったカツラ〉なのだから」


なんということでしょう、とんでもない真実が出てきました。ワザと髪を残していく事で相手の裏をかくとは⁉


科学鑑定を逆手に取ったトリックという訳ですか⁉︎


「でも、名刺に付いていた指紋はどういうことでしょうか?」


「それは簡単だ、名刺にあらかじめ五月さんの指紋を付けておいて自分の指紋がつかないように細工しつつ名刺を渡す


これだけで完成だ。マニキュアなどの液体を指先に塗って指紋をつかない様に細工することは簡単だからね。


よく思い出してごらん、あの時の五月さんは名刺を渡す時以外は手袋をしていただろう?


出されたコーヒーにも手を付けなかった。そして名刺を渡すときにだけこれ見よがしに手袋を外し


証拠となる名刺を渡して完成という訳だ。カメラのないビル、残った本人の指紋と毛髪、そして面識のない二人の証人


これで完璧なアリバイが成立するというわけだよ、僕たちはまんまと利用されたというわけさ」


まるで昨日食べた食事のメニューを紹介するかのように淡々と話すグリムさんだったが


私と小暮警部を始めここに居る全員、そのあまりの内容に愕然としてしまい誰もが言葉を発することが出来なかった。


「天塔くん、それは事実なのかね⁉︎」


鬼気迫る勢いで質問する小暮警部に対し、グリムさんは〈わかりません〉とばかりにゆっくり首を振り両手を上げた。


「さあ、事実かどうかは分かりません、これはあくまで僕の推理であって仮説を述べたに過ぎませんからね


でもあながち間違いではなかったようですよ。ねえ、弥生さん、葉月さん」


グリムさんは弥生さんと葉月さんに突然話を振った。私を始め皆の視線が二人に集まる


そういえばこの検証を始めてから二人は殆ど何も言っていない


さすがに何も言わないのはおかしいだろうと私も思う、ただし二人がこの事件に無関係であればの話だが……


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