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衝撃の過去

小暮警部の言葉があまりにも衝撃的で頭が付いていかない。いや、そんなことがあるはずがない、あまりに非科学的です。


でもこのベテラン刑事の態度を見るとあながち嘘を言っている様には見えませんが……


「100%なんてモノがこの世にある訳がない、あり得ませんよ‼」

 

まるで自分に言い聞かせるかのごとく私は吐き捨てる様に言い放った。


すると小暮警部は昔を思い出すように語り始めたのである。


「確かに100%ではないのかもしれん、しかし私の見たところでは天塔くんが嘘を見抜けなかった事は一度も無いのだよ……


私は前にこんな実験をやってみた。天塔くんが私の部下四人に質問し一人だけがランダムで嘘をつくという実験だ


質問は単純に〈好きな食べ物は?〉とか〈子供の頃に好きなアニメは?〉とかそんな感じのごく一般的なモノだ。


しかしその嘘を天塔くんは全て見抜いた、しかも十回連続だ、これがどれぐらい凄い事かわかるだろう?」 

 

四人の内一人のついた嘘を当てようとしてあてずっぽうで言った場合


十回連続で正解する確率は 0.25の10乗、つまり0.0000953674% 


こんなの運や偶然では絶対に無理な数字です。


「本当に当てたのですか?そんな天文学的な確率を⁉」


「ああ、信じられないだろうが事実だ。だから私は十一回目に意地悪をして部下の四人に〈誰も嘘をつくな〉という指令を出した


そうしたら四人すべてを聞き終わった天塔くんはニヤリと笑って〈ルール違反は困りますよ、警部〉と言ったのだよ。


あの時背筋が寒くなった事を今でも忘れられないよ」

 

信じられない衝撃的な事実。確かにそんなのは推理でも何でもない


でも〈人の嘘を見抜ける〉という特殊能力がどれ程捜査に役立つかは言うまでもない


私は思わず素直な気持ちを口にした。


「まるでオカルトですね……」

 

そんな私の独り言に同調する様に、小暮警部は大きく頷いてくれた。


「ああ、我々にはサッパリ理解できない現象だ。こっちが真面目にコツコツと積み上げてきたモノが馬鹿みたいに思えてくるよ。


天塔くんに聞いてもどういう理屈なのかハッキリとは教えてくれないからな」

 

軽くため息をつきながらヤレヤレとばかりに首を振る小暮警部。


その気持ち凄くよくわかります、ええ、わかりますとも。


「そういうところは昔からなのですね」


「ああ、いつも肝心なところはのらりくらりとはぐらかされる


彼は自分の事はとにかく話したがらないが逆に相手の事は知りたがる。


変な言い方だが天塔くんは言葉巧みに相手を誘導して〈相手に嘘をつかせたがっている〉のではないかな?」


「どういうことですか、それは?」


「天塔くんにはどういう訳だか人の嘘が見抜ける。だからこそ


〈人がどういう嘘をつき、それをどのように使うか?〉という事をワザと試して観察している様に思えるのだ、君に

も覚えはないかい?

 

彼は妙に無知であったり常識知らずであったりするくせにおかしなことはやたら知っているし実は常識もわきまえている。


ワザと相手を感情的にさせプライドを刺激してどの程度知識を持っているのか?


どんな性格で感情的にどこまで許容できるのか?を探っている節がある


まあ少し考えすぎかもしれないけれどな……」

 

思い当たるなんてモノでは無いです‼今考えるとそんな事ばかりだったように思えてきました。


そういえば初対面の時も名前を名乗る前にかなり色々話した気がします


普通ではそんな事は有り得ません、ましてや私は人間が苦手なのです……


そうか、何となくわかってきた気がします。普通の人間は自分の知っている事はつい他人に話したくなります


特に自分の趣味や得意な分野のモノは饒舌に話したりするものです。


それは自分の知っている知識をひけらかしたいという人間の持つ虚栄心、欲求と言ってもいいでしょう


そういったモノが心にあるからです。


しかしグリムさんは全く逆なのだ、あの人は【無能を装い無知をひけらかす】のである


そうすれば相手の警戒心も下がるし色々な事を喋ってくれますからね


白川弁護士の様に〈見るからに切れ者〉ではダメなのだ、それだと相手の警戒心を高め口も重くなる……


そういえば聞いたことがあります。売れっ子のホステスさんややり手の営業マンなどは喋るのが上手なのではなく


相手に喋らせることが上手い、つまり〈聞き上手〉であると


何という事でしょう、あのグリムさんが凄く有能な探偵に見えてきました。

 

私が小暮警部の話を聞き呆然としていると少し間を空けるように小暮警部は懐からタバコを取り出しそれを口に咥えておもむろに火をつけた


左手にはいつの間にか小さな携帯灰皿を手にしており身を小さくしてタバコに火を付ける姿はガッチリした体格の小暮警部とは妙にミスマッチに思えた。


「ふう〜」

 

煙を肺に吸い込み落ち着いたのか、煙と共に大きく息を吐くとややわざとらしいとも思えるような声を出す小暮警部。


「いや、すまないね。最近は何処もかしこも喫煙禁止で、警察車両内も喫煙禁止なのだよ


喫煙者にとっては住みにくい世界になったよ、いや〜世知辛い世の中になったものだ」

 

やや愚痴とも取れる言葉を煙と共に吐き出した。よく見るとこの場所には赤くて小さな灰皿が設置してある


どうやらこの場所は【藤代邸】の喫煙所の様だ。


「はあ……」

 

そう答えるしかなかった。正直そんなことを私に言われても対応に困ってしまう。


そもそも私にとって喫煙という行為が謎なのだ


わざわざお金を払って体に良くない行為を繰り返しあまつさえ他の人からも嫌がられるという矛盾


しかも常習性があり止めたくても中々止められないときている。


他人より余計に税金を払っているのにも関わらず今や喫煙者は疎まれ嫌われどんどん生息地を追われている現状だ


ハッキリいって何一ついいことが見当たらない、そこまでのリスクを犯して得られるものとは何だろうか?


ついそんな事を考えてしまうのです。だから私にとっては喫煙行為自体が理解できないのである


もちろんこの場で口に出してそれをいう程常識知らずではありませんが……


「いやすまない、話が逸れたが本題に戻ろうか。さっき話した様に天塔くんには警察の方も色々と協力してもらっているのだよ」


「そうですか、よくわかりました。でもいくらグリムさんが【人の嘘を見破れる】といっても


裁判の証拠としては使えませんよね?その辺りはどうなのでしょうか?」

 

すると小暮警部は少し驚いたような顔を見せた。


「おっ、若いお嬢さんにしては中々鋭いところを突くね。確かに天塔くんの証言だけでは裁判の証拠としては使えない


だが我々の仕事は容疑者を特定し起訴することだ、その先

の話は検察の仕事だからね


それにしてもいいところに気がついたね」


「いえ、私この前までイギリスのオックスフォードの法学部に所属していたものですから


どうしてもそういった視点でものを見てしまいがちで……それでグリムさんの話ですが?」


「おう、そうだったね。我々にとっての天塔くんの価値はその何と言っていいか……


我々の捜査というのは莫大な労力と時間がかかる、それは言い換えれば物凄いお金がかかるということだ。


警察官といっても労働者だからね、給料をもらわないと生活できない


人と時間をかければかけるほど費用がかかるそれが現実だ。


しかし、もしそれが〈最初から捜査対象を絞ることができる〉としたらどうだ?」


「あっ、そういう事ですか⁉︎」


「うむ、天塔くんの力で大幅な経費の削減と迅速な事件の解決につながるのだ。


それだけでも彼がどれほど貴重な存在であるかわかるだろう?」

 

なるほど、人の嘘が見抜けるのだとしたら容疑者の特定は容易でしょう


特に殺人などの捜査には物凄い量の捜査資料が発生すると聞いたことがあります。


それを簡略にできるだけでもすごい効率化でしょうからね……


「それで何度かグリムさんに捜査協力を頼んでいたという訳ですか?」

 

私の質問に対し、小暮警部は大きく頷いた。


「そういう事だ、天塔君には大きな事件から小さな事件までかなりの捜査依頼をしている。


彼のような人物は非常に稀有であり希少で得難い存在だ、だから警察側も天塔くんを警察の一員として迎えようと


それなりの条件を提示し何度か交渉してみたのだが上手くいかなくてね、最後まで首を盾には振ってくれなかった」


「そんなことがあったのですか……」

 

確かに小暮警部の話が本当ならば警察としても一々その都度【天塔探偵事務所】に依頼するよりも


グリムさんを警察組織に取り込んでしまった方が手っ取り早いというものです。 


性格はともかくそんな能力は誰にも真似できないモノでしょうからね。

 

小暮警部はくわえていたタバコを左手に持っていた携帯灰皿にしまうと再び語り始めた。


「だから我々は別の手段に出たのだ」


「別の手段と言いますと?」


私は何気なく聞いてみる。


「天塔くんが警察組織に入ってくれないのであればいつでも連絡が取れるように


そして何かあった時には真っ先に警察の仕事を優先してもらえる様に〈助手をつけてはどうか?〉という提案をしたのだ」

 

小暮警部から出た【助手】というワードは私にそれなりの衝撃を与えた。


「警察がグリムさんの助手を斡旋したのですか⁉︎」 


「うむ。正直、天塔くんに〈浮気調査〉だの〈子犬探し〉だのをやらせてはおけないからな。


だから警察からそれなりに有能な助手を何人も斡旋した


その都度面接をしたのだが天塔くんの返事は全て不合格というモノだったのだ……」

 

なるほど、だから私が〈グリムさんの助手だ〉といった時に小暮警部はあれほど驚いたのか……


「警察としてはグリムさんに首輪を付ける事に失敗したのでせめて鈴をつけようとしたけれど


それも失敗したという訳ですか……じゃあ、私がグリムさんの助手として選ばれた理由は私の有能さを見抜いたから?


それとも私が物凄く可愛いからでしょうか?」

 

すると小暮警部は目を閉じ大きく首を振った。


「いや、それはない」

 

なぜ断言する?あなたが私に何を知っているというのですか⁉︎


自分で言うのもなんですが私はかなり頭脳明晰であり見た目もかなりキュートなはず。


小暮警部は犯罪者ばかり見てきて目が腐ってしまったのではないでしょうか?

 

するとそんな私の心を見抜いたのか、小暮警部は淡々と説明をしてくれた。


「過去に斡旋した者達にはかなり有能で探偵業や犯罪捜査に詳しい者もいたし頭の回転の速い者や事務能力に長けた者もいた


だが天塔くんはそれらの人材にも全く歯牙にも掛けなかったのだ……」


「じゃあ、やっぱり私の可愛さに⁉︎」


「それもない」

 

だからなぜ即否定?何か段々と腹が立ってきました、女のプライドを深く傷つけられた気分です。


なぜかこの目の前に居る朴念仁に〈私の魅力をどう伝えてらろうか〉などという余計な考えまで頭によぎってきました。


「我々もそれは考えた。天塔くんも若い男性だからね、だからこちらもそれなりの美人を用意した


アイドルばりの可愛い子やモデル顔負けの美女も揃えたがダメだったのだ」

 

日本の警察がそこまでしますか⁉︎ある意味異常とも思える入れ込み様です。


それほどまでにグリムさんの能力を買っているということですね……


「そのように何人も助手を推薦してはみたが次々と断られ、十七人目がダメだった時点で我々も諦めた


〈彼に助手を付ける事は無理〉と判断したのだ。


それ以来警察内部で彼はこう呼ばれる様になったのだ【変態探偵 天塔グリム】と」


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