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刑事VS弁護士

「あの……その警察の方が、私にどのような御用でしょうか?」

 

尋常ならざる雰囲気で入って来た捜査一課の刑事たちを前に、戸惑いを隠せない六花さんは、思わず問いかけたのである。


「先日の藤代五月さんが亡くなった件でお伺いしたいことがありまして」


「その件でしたら先日全てお話ししたはずですが?」

 

すると、小暮警部は一旦目を閉じ、何かを考える様なそぶりを見せたが意を決した様に再び口を開いた。


「本当は署でお話を伺いたかったのですがまあいいでしょう


先日の貴方の証言によると藤代五月さんが亡くなった日、この家に五月さんが来たとおっしゃいましたね?」


「はい、午前十一時ごろにお見えになりまして、十二時ごろに帰りました。それが何か?」

 

刑事が何を言いたいのかがわからず困惑する六花さん、しかしその瞬間


私には小暮警部の目が鋭く光った様に見えたのです。


「おかしいですな、その時間、藤代五月さんがここに来たという形跡がないのです。


最寄りの駅の防犯カメラにもここに来るまでの防犯カメラにも五月さんらしき人の映像は映っておりません。


そして駅からここまでの道のりですとその時間帯ならばかなり人通りが多いはず


それにもかかわらず五月さんを目撃したという人が一人もいないのです。


この辺りは五月さんの子供の頃から過ごしてきた地域ですので五月さんが通ったのに誰も気が付かないというのは少し考えられません」


その瞬間、六花さんの顔から血の気が引いた。


目の前に居る刑事が自分の事を疑っているという事がハッキリと認識できたからである。


「ちょ、ちょっと待ってください、どうして私が疑われているのですか⁉


あの日確かに五月さんはここに来ました、一時間ほどで帰りましたが間違いなく来たのです。ちゃんと調べてください‼」


やや取り乱し気味に無実を訴えかける六花さん。無理もないだろう、殺人犯として容疑を掛けられているのだ


「先ほども言いましたが何処を調べても藤代五月さんがここに来たという証拠はありません


そしてその時間帯に千代田区で五月さんらしき人の目撃情報と映像が残っているのです


彼女がそこに何をしに行ったのかは不明ですがね」

 

千代田区といえばウチの探偵事務所がある所じゃないですか⁉


おそらく天塔さんに仕事の依頼をしに来たあの時の映像と目撃証言で〈千代田区に居た〉と認識された様です。


確かにあの雑居ビルは防犯カメラなどというしゃれた物は設置してないですし


怪し気な探偵事務所に出入りしていたというのは警察でも調べられなかったようです。

 

状況がドンドン不利になり益々狼狽える六花さん。何が何だかわからずパニックを起こしかけていたのだが


何かを思い出したかのように顔を上げた。


「そうです、証拠はありませんが証人ならばいます。あの日五月さんが帰る時、入れ違いで弥生さんがきました


二人は顔を合わせています。そうですよね、弥生さん‼」

 

六花さんはすがるような目で弥生さんの方を見つめた。


それにつられる様に警察もそこにいる関係者も一斉に弥生さんに視線を向ける


しかしその弥生さんの口から出た言葉は六花さんにとって思いもよらない言葉だったのである。


「いえ、知りません、私はあの日五月には会っていません、何かの間違いでしょう」

 

その瞬間、六花さんは絶望的な表情を浮かべワナワナと震えだしたのである。


「何で……何でそんな事を言うのですか?会ったじゃないですか!?


あの日五月さんに……どうして嘘をつくのですか、弥生さん……」

 

見ているこちらが気の毒な程、六花さんは顔面蒼白になっていた。


もう立っているのもやっとという感じである、だが小暮警部は更に話を進めた。


「そして五月さんがお亡くなりになった時刻に、貴方は車で病院に出かけていますよね?


その事は道路に設置してあるNシステムや病院のカメラに映っています」


「はい、弥生さんがみえて少しした時、主人のかかりつけである【帝都大学病院】からこの自宅へ電話がありまして


〈ご主人の様態についてお話ししたいことがある〉と。


それで私は主人の看病を弥生さんに任せて病院の方へと向かいました


しかし病院側は〈そんな電話はしていない〉と言われまして、不思議に思いながらもそのまま帰って来たという訳です」


見ていて哀れな程オロオロしながら事情を説明する六花さん


すると小暮警部は懐から一枚の紙を取り出し再び語り始めた。


「ここにあなたの自宅の電話への着信歴と相手先を調べた紙がありますが


その時刻にこのご自宅に電話をかけてきたのは【帝都大学病院】ではなく


プリペイド式の携帯電話でした。そしてその発進基地局を調べるとこの付近のモノと判明しました


つまりこの家から掛けた可能性が高いという事です……」

 

なんでしょうか?段々とキナ臭い話になってきました。六花さんは唇を震わせ精一杯気持ちを奮い立たせる様に口を開いた。


「何がおっしゃりたいのですか……はっ、まさか、病院からかかって来たという電話も私の【自作自演】とでも言いたいのですか⁉」


「はい、この状況を見る限りそう考えざるを得ませんな。


つまり貴方は弥生さんが居る事を見越してプリペイド式携帯電話でこの自宅の電話にかけ


病院からの電話だと装い車で出かけ弥生さんを証人として利用したわけです


そして病院の方に顔だけ出した後、病院近くの畑に呼び出しておいた五月さんに毒をもって殺害


証拠隠滅を兼ねて五月さんの遺体と共に畑の小屋を燃やした、違いますかな?」

 

六花さんの事を鋭い視線で見つめる小暮警備、その目つきは獲物を前にした猟犬のようであった。


「クソっ、このネコババ女。自分の取り分を多くしたいからってウチのババアを殺しやがったのか⁉とんでもないクソ女だ‼」


少しの間おとなしくしていた竜二が突然立ち上がり六花さんを糾弾する様に叫んだ。


他の人達も声にこそ出さないモノの完全に〈六花さんが五月さんを殺した〉という目で見ている


そんな周囲の視線に耐えられなくなったのか、ゆっくりと首を振りながら思わず後ずさりする六花さん。


「私じゃない……私は何もやっていない……」

 

小暮警部はそんな彼女に無情にも詰め寄り言葉を掛けた。


「詳しい話は署の方で伺います、ご同行願えますね?」

 

もはや六花さんに抵抗する気力は残っていなかった、まるで夢遊病者の様にフラフラと警察の後をついて行こうとした、その時である。


「ちょっとお待ちください」

 

小暮警部を始めその声に振り向くと、待ったをかけたのは白川弁護士であった。


「貴方は?」

 

いぶかし気な表情で相手をジッと見つめる小暮警部。


「私はこちらの顧問弁護士をしております白川と申します」

 

気負う事無く警察に向かって丁寧な自己紹介をした、逆に小暮警部の眉が少し歪む。


「弁護士先生?」


「ええ、今の話を聞いていると貴方方は私の依頼人である藤代六花さんを連行しようとしていますが、捜査令状はあるのですか?」


「令状⁉いや、令状はありませんが……」


「では任意の同行という事になりますね。


藤代六花様は今、心神喪失状態でとても取り調べに答えられる状態ではありません、ですから任意の同行はお断りします」

 

突然の同行拒否に少し慌てた小暮警部は説明を始めた。


「いや、身の潔白を証明したいのであれば、我々の捜査に協力していただいた方が……」


「それは貴方方の都合でしょう?こちらとしては承諾しかねると言っているのです」


どうやら雲行きが変わってきました。さすが白川さん、頼りになります。


「でしたら、この場でもいいですのでせめて捜査にご協力を……」


「それこそお話になりませんな、そもそも捜査令状も無しにズケズケとこの屋敷に上がり込んで来て尋問するとか……


法的にご自分達が何をしているのかわかっておいでです

か?


法を守らせる立場の人間が法を簡単に破る様では警察の威信も下がる一方でしょう


我々に協力して欲しいのであればそれこそ裁判所に行って捜査令状を発行してもらってきてください


裁判者が出してくれれば……の話ですがね」

 

淡々とした口調で見下ろしながら口元を緩める白川さんと忸怩たる思いを抱え


歯ぎしりしながら見上げる小暮警部。どうやら完全に立場が逆転したようです


私も一時は法曹界を目指した女ですので心境的には白川さん応援です。

 

少しの間、重い沈黙が流れ息苦しさすら感じつつ小暮警部の歯ぎしりがここまで聞こえてきそうになった時


横にいたグリムさんが何故か突然手を上げたのである。


「ちょっといいですか?」


皆の視線が一斉こちらに集まる。ちょっと勘弁してください


グリムさんが注目されるという事は横にいる私まで注目されるという事です


ここでまたこの人がおかしな事を言い出そうものならば完全に私も同罪です


共犯者です、連帯責任で市中引き回しの上、打ち首獄門でしょう。


そもそもこんな場面で貴方は何を言うつもりですか⁉空気を読まないにも程があります‼

 

皆の視線が突き刺さる様に痛い、特に小暮警部などは〈侵入した泥棒を見つめる番犬〉の様な目でこちらを見ました


ただでさえ機嫌が悪そうなので〈すっこんでいろ、ド素人が‼〉とか言われそうです


せめて怒るのはグリムさんだけにしてください。

 

だが、そんな予想に反して小暮警部の表情が急に穏やかになった、そしてその口から意外な言葉が出て来たのです。


「あれ?天塔くん、天塔くんじゃないか⁉」


えっ、まさかの知り合い?そういえば〈警察にも力を貸している凄腕探偵〉と言われていたはずでしたね


その設定すっかり忘れていました。というよりグリムさん自身が宣伝の為にワザと流布したハッタリだと決めつけていまたのです。



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