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波乱の遺産相続

私とグリムさんだけは完全な部外者なので部屋の一番端の隅っこに座りながら気楽な立場で行く末を見ています。


「【現在居住している本屋敷と土地、そして葛飾区〇〇にある畑は藤代六花に


そして手元に残った【藤代泰山】の作品、三点も藤代六花に相続させる。


残りの預貯金、有価証券等は法律に従って法定相続人に分け与える事とする】以上です」


白川弁護士が遺言状を読み上げた瞬間そこに集まっていた一部の人間、というより男性陣が明らかに不満げな表情を浮かべた。


「ふざけるなよ、何で金目当ての女狐がこの土地と作品を独り占めするんだよ‼」

 

真っ先に不満を口にしたのはやはりというか想像通り、竜二であった。


「しかし、これが故藤代譲二様の遺言状による意向になりますので……」


「はあ?それが本当にじいちゃんの書いた遺言状なのか⁉どうせその女が無理矢理書かせた物か、偽造したモノじゃねーのか?」

 

不満たらたらといった感じで白川弁護士に食って掛かる竜二


だがそれを見ている周りの男性陣も口にこそ出さないモノの気持ちは同じようである。


「これは私と藤後譲二様で作成した正式な物です、法的にも有効な遺言書である事は弁護士である私が保証します


偽造などと的外れな言いがかりは止めていただきたい」

 

弁護士に向かって法律的な難癖をつけるという無謀で愚かな暴挙に出た竜二だったが


そんなおかしな言い分をキッパリと一刀両断する白川弁護士。やっぱり法律家もカッコいいですね


探偵がダメだったときは弁護士を目指すのも悪くないかもしれません。

 

そんな時ある男が手を上げた、高級そうな眼鏡をかけギラギラとした眼差し


四十歳半ばといった年齢だろうか?葉月さんの横にいる事からこの人が葉月さんの旦那さん、篠崎省吾なのだろう。


「ちょっと待ってください、この家の建物自体は古くて価値はないでしょうが土地は約120坪


この辺りの地価は一坪辺り約120万円ですから土地だけで一億四千万円という事になります。


そして【藤代泰山】の作品は安く見積もっても一点数百万円、モノによっては二千万近くすると聞いています。


いくら妻とはいえ一億五千万以上の資産を無条件で

譲り受けるというのはいくら何でも問題なのでは⁉」

 

この篠崎省吾という人はトレーダーをやっていたと聞いています


職業柄さすがに資産の事には詳しいようですね。


「ちょ、マジかよ、一億五千万円をネコババとかがめついにも程があるぜ、クソアマ‼」

 

相変わらず馬鹿丸出しの発言をする竜二。


一方異論を呈した篠崎省吾さんも態度こそ平静を装っているがその口調は尋常ではなく


鬼気迫る勢いで言い放ったところを見ると、投資に失敗してかなりの大損をしたとの噂もあながち嘘ではないようですね


その損害金額も相当のモノみたいです。すると今度はもう一人の男性が割り込んできた。


「あの、私は法律の話はよくわかりませんがきちんと平等に分けてください


誰かがズルをして得をすることなく、みんな均等に……そうでしょう?」

 

背が低く、くたびれた中年といった雰囲気を感じさせる男性。


この切羽詰まった物言いは間違いなく弥生さんの旦那さん、槇原聡さんなのだろう。


経営している工場が火の車ですでに倒産寸前だと聞いているからなのか、全身に漂う悲壮感が半端ない。


【溺れる者は藁をも掴む】という諺があるが、この人はその藁に全力タックルしそうだ。

 

段々とキナ臭い雰囲気が漂ってきた、〈遺産相続はモメる〉と聞いたことがあるが随分とわかりやすい展開になった。


しかも図式としては〈六花さんVS金が欲しい男ども連合〉

の様な図式になっている。


〈敵の敵は味方〉とはよくいったモノで、この遺産に群がるハイエナ男共は急遽共同戦線を張ったようである。


「これは亡き藤代譲二様の遺言でございますから決定事項です、内容の変更や取り消しはありません。


ご不満があるようでしたらあなた方も弁護士を雇って法廷で戦われてはいかがですか?


受けてくれる弁護士がいれば?の話ですがね」

 

ギャアギャアとうるさい馬鹿男どもを白川弁護士が一刀両断した。


気持ちいいぐらいの一言でぐうの音も出ない馬鹿な男ども、いい気味です。


「それでは、遺言書に書かれていない遺産の分配に話を移します。


故藤代譲二様の所有する預貯金、有価証券の概算は約二億四千万円になります」

 

その瞬間、篠崎省吾、槇原聡、藤代隆二の顔色が変わった。


この金額意を普通に分けると奥さんである六花さんが一億二千万


娘である槇原家、藤代家、篠崎家にもそれぞれ四千万円が相続される事になる


金額が金額だけに税金でそれなりに引かれるだろうけれど

かなりの大金である事には変わりがないからである。


「おい、篠崎の叔父さん、俺達の取り分はいくらになるんだ?」


竜二が目を輝かせて篠崎省吾に問いかけた。


「そうだな……まず土地と作品の合計が一億五千万円だとしてそれに0.7を掛けて約一億五百万円


それ以外の資金が二億四千万円、合計約三億五千万円になる


【基礎控除額】が四千八百万円になるので3億5千万円-4千八百万円で約三億円


それにこの金額の相続税率は確か50%だから 一億五千万円


そこから【控除金】二千七百万円を引いて約一億三千万円が相続税となる


つまり俺達一人辺りもらえる金額は約二千万円という事になるな……」

 

それを聞いた竜二は顔を真っ赤にし思わず立ちあがると、六花さんの方を指さした。


「ふざけるな‼どうしてこのクソ売女が三億近くもらえて俺が二千万なんだ‼舐めているのか‼」


怒りに震え今にも暴れ出しそうな竜二、どうやら六花さんにも税金がかかるという発想はないらしい。


だがそんな竜二にとどめを刺す一言が待っていたのである。


「いえ、貴方には遺産は一円も渡りませんよ」

 

白川弁護士が表情を変えず淡々と竜二に告げた。


「どういうことだ、ジジイ?冗談にも程があるぞ‼」


「いえ、冗談などではありません。私は生前の藤代五月様より【相続放棄】の依頼を受けていましたので


貴方には一円も遺産は渡りません」

 

まるで狐につままれたかの様に呆然とする竜二、それとは対照的に思わず顔がほころぶ篠崎省吾と槇原聡。


突然地獄に付き落とされた様な宣告を受け事実を受け止め切れない竜二だったが


そんな竜二を尻目に自分達の取り分の増えた篠崎省吾と槇原聡はニヤ付きが止まらなかった


さっきまで共闘していた三人の同盟があっさり崩れた瞬間だった。


「何言っているんだよ、そんな訳無いだろうが……ババアが相続放棄だと?」


「はい、間違いなく本人のサインと捺印もいただいておりますので」


無感情のまま理路整然と告げる白川弁護士、いくら竜二がお馬鹿で親不孝者だったとしても


ここまでくるとあのバカ息子も少し気の毒になってきました。

 

竜二は絶望感丸出しの表情で膝から崩れ落ちた。


だがハッと我に返ったように立ち上がるといきなり六花さんに向かって叫んだ。


「テメエがやったな‼裏で手をまわして遺産を独り占めしようとして、卑怯な手を……


許せねえ……許せねえぞ、ぶっ殺してやる‼」

 

逆上した竜二は目を血走らせて六花さんに殴りかかって行った。


突然の事態に周りの人間も呆気に取られて動けないでいる


当の六花さんも何が何だかわからず固まってしまっていた。


そもそも竜二を止めるにしてもここに居る男性は篠崎省吾にしても槇原聡にしても心境的には六花さんを良く思っていない


ワザワザ危険を冒して止めに入るとは思えない。


グリムさんは問題外。頼みの綱は白川弁護士だがどう見てもこの人は頭脳派で喧嘩とか暴力とかは無縁そうである。


ここは私が行くしかないのか?しかしいくら私が【ボクササイズ】をやっていたからといっても


十代後半の男性相手に軽量級の私のパンチがどこまで通じるか、しかしここは私の右フックに賭けるしか、でもやっぱり怖い……


私が躊躇していると、あっという間に六花さんに近づき何かを叫びながら拳を振り上げる竜二


私は〈もうダメだ〉と思わず目を伏せた、すると次の瞬間私の耳に意外な声が聞こえてきたのである。


「痛てててててて‼」

 

何が起きたのかわからず恐る恐る目を開けると、目の前には腕を逆間接に決められ


うつぶせに床に組み伏せられている竜二が悲鳴を上げながら苦悶の表情を浮かべていた。


しかも驚く事に組み伏せていたのはグリムさんであった。


「痛てえ、折れる、折れるって‼離しやがれ、痛い、痛い‼」

 

必死にもがく竜二を尻目に冷静な態度のグリムさん。


足をバタつかせ何とか脱出を試みるがグリムさんが決めている腕はビクともしない


皆が呆気に取られ絶句している中で私も皆と同様、何が起こっているのか全く理解できないでいた。


「これ以上暴れるなら本当に折るよ、それとも肩を外した方がいいかい?」


「わかった、もうしない、もうしないから、ギブギブ、早く離せって、痛い‼」

 

床を何度もたたきながら降参のポーズを取る竜二、社会人として有り得ない所業をしておきながら


自分は格闘技のルールで開放してもらおうなどと何処までも自分勝手な男です、それにしても……


「わかった、今度やったら、遠慮なく腕を折るか肩を外して警察に突き出すからね」

 

言い聞かせる様に腕を放すと、飛び起きる様に立ち上がり腕と肩を回す竜二。


「わかったね?」

 

にこやかに微笑みながらまるで子供に言って聞かせる様に再確認を取るグリムさん。


そんな挑発ともとれる言葉に対し明らかに不服そうな表情で返事もしない竜二だったが、その気持ちはわからなくもない。


こういう嫌味言い回しは相手にしてみると本当に嫌なのだろうが対象の相手が竜二ならまあいいでしょう


逆上して逆切れしてか弱い女性に対し暴力行為委に及ぼうなど言語道断です、本当にいい気味です


もし組み伏せたのが白川弁護士で、組み伏せられているのが竜二とグリムさんだったら尚良かったのですが


今回は想像だけにしておきましょう。



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