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家族会議

そして数日後、【藤代泰山】の遺産相続に関する会議に出席する事になった私達は会議場となる【藤代邸】へと向かっている。


聞いたところによると身内だけでおこなった合同葬儀も慎ましやかに行われたとの事


それを聞いた私はなぜか少しホッとしたのである。


私達は目的地である【藤代邸】へと訪れる為に最寄りの駅で降り、先週に通った道を黙々と進んでいく。


道中では相変わらず生活感に溢れる人たちが多く目につき今回も色々な人たちとすれ違う


【藤代邸】に近づくにつれ前回よりも更に下町感を強く感じた。


そんな時、私は少し気になることがあり何気なく話しかけた。


「あの、グリムさん……」


「どうしたの、ジュリ?またトイレにでも行きたくなったの?」


「違いますよ‼︎いつまでそのネタでイジるつもりですか⁉︎いい加減にしてください、今度言ったら殺しますよ‼︎」


「殺人予告とは穏やかじゃないねえ、では何?」


グリムさんはどこか含みのあるような言い方でこちらを見て来た。

 

何ですかその言い方は、私はトイレに行きたい時しか貴方に話しかけないとでも言いたいのですか⁉︎


イチイチ癇に障る言い方には釈然としませんし腹の虫もおさまりませんが


ここはグッと気持ちを抑えることにいたしましょう。私も随分と大人になったものです。


「今回の件、グリムさんはどう思いますか?」


するとグリムさんは何かを考え込んでいるような表情を浮かべ、腕組みしながら空を見上げた。


「わからないね……でも何かある事は確かだよ、この件はかなり深い闇というか隠された秘密があると思うよ」


グリムさんが珍しくそれっぽい事を言っています。でも今までが今までだけに素直に受け取ることができません。


〈聞くだけ聞いておいて何だ、それは?〉と言われるかもしれませんが


この人の発言内容は三回に一回ぐらいしかマトモな事が無いので自然とそうなってしまうのは致し方ない事だと思います。


つまり私の考えは至極まっとうなモノであり当方には一切の責任がない事をここに明記しておきます。


「どういったところでそう思ったのですか?」


問題はそこに尽きるでしょう、何か引っかかったからその結論に至ったわけで私はその理由を知りたいのです。


名探偵特有の閃きというか洞察力というか、センスというか、そういったモノを聞きたいのです。


この天塔グリムという人は確かに非常識で変人っぽいですが、どこか非凡な才能を持っている気もします。


前にも言いましたが【名探偵】といわれている人達は変人と呼ばれる人が多かった。


その感性や推理法もそれぞれ千差万別でその頭脳と観察眼で幾多の犯人を捕まえてきました。  


この人にもそれがあるのでは?いや、そうであって欲しいという私の願望かもしれません


〈変人なだけで無能〉とか最悪です、そうであれば私が探偵を諦めるきっかけにはなるのでしょうができればそれだけは避けたいものです。


私は固唾を飲んでグリムさんの答えを待ちました、この答えで私の今後の人生が変わるかもしれないのです。


さあ、キッチリ決めてください、お願いしますから‼


しばらく無言で考え込んでいたグリムさんでしたが、ふと私の方を見て口を開いた。


「う~ん、言いにくいのだけれど、〈考えたというより、感じた〉という感覚かな?」


何ですかそれは⁉貴方は武道の達人か、それとも元プロテニスプレイヤーの熱血コーチですか⁉


そんなのは推理でも理論でも根拠でも何でもないただの思いつきでしょうが‼


この人に期待した私が馬鹿でした、結論、【この世に名探偵などいない】悲しいですがそれが現実の様です。


「どうしたの、ジュリ。何か肩を落としてガックリしているように見えるけれど?」


「何でも無いです、ちょっと現実を知って落ち込んでいるのです、それと自分の愚かさに腹を立てているだけですから」


「そうなんだ、でも落ち込むこと無いよ、ジュリだってきっと何かが出来るはずさ


そんなに自分を責めて卑下するのは良くないよ、人生山あり谷ありさ」


ニコニコしながらそう語り掛けてきたグリムさん。これで私を慰めているつもりなのだろうがそこは察してくださいよ‼


私は〈あ・な・た の事で〉落ち込んでいるのです、そんな事は名探偵ではなくとも常人であれば容易に推察できるはずです。


貴方の今の発言は私にとっては慰めなどではなく、トドメといったモノになりました


さようなら私の夢、名探偵は私の心の中だけに生きていく事でしょう


密かにスケボーの練習をしていた私は馬鹿みたいです。

 

そんな事を想いながら歩いていると目的地である【藤代邸】近くの例の公園が見えて来たのです。


「あっ、公園が見えてきたよ、あそこを曲がると【藤代邸】だったね。ところでジュリ、今回は……」

 

その瞬間、私はグリムさんを激しく睨みつけた。もちろん〈それ以上言ったら殺す〉という意味合いを視線に込めてである。


「何でもない、急ごうか……」

 

さすがのグリムさんも察したようです。私は既に右拳を固く握り締め


グリムさんの顎先に狙いを定めて踏み込む姿勢をとっていましたから当然といえば当然ですが。



【藤代邸】に到着し呼び鈴を鳴らすと中から六花さんの〈どうぞお入りください〉という声が聞こえてきた。


私達は言われた通り格子戸をくぐり家の中に入ると玄関先にはたくさんの靴が並んでいて


中からガヤガヤと人の会話の声が聞こえてくる。


「みんなもう集まっているようだねぇ」


「そうですね、我々が最後でしょうか?これでも遅刻はしていないのですけどね」

 

ミシミシと音を立てる板の間を進み居間へとたどり着くとそこには見知った顔を含む一族全員が揃っている様子であった。


「今回はワザワザ御足労いただき、ありがとうございます」


「いえ、仕事として来ていますのでお気になさらずに。


寧ろ私達の様な部外者が来ること自体が場違いなのですから何事も無ければ今回は隅でジッとしているつもりですので」


六花さんの丁寧な挨拶にちゃんと答えるグリムさん。やればできるじゃないですか


でもこちらにしてみればいつ化けの皮が剥がれるかとヒヤヒヤものです。


「葉月さんから聞きましたが五月さんが亡くなった件で警察が色々事情聴取しているとの事ですね


こちらにも警察の人は来ましたか?」


「ええ、私の所にも来ました。まさか五月さんが亡くなるなんて……


しかもここに来た直後に亡くなったと聞きました。


確かに少し思いつめている様な感じはありましたがまさかアレが最後になるなんて……今でも信じられません」


グリムさんの問いかけに対して目を伏せ、悲しそうな表情を見せる六花さん。


心なしか顔色も悪くかなりショックを受けている様子である。


「警察の方は何と?」


「はい、〈自殺と他殺の両面から捜査している〉と……


でも五月さんは他人から恨みを買う様な人ではありませんでしたから殺されるとか考えられません


自殺するような人だとも思えませんでしたが、警察の方から五月さんは末期ガンだったと伺いました。


思いつめていたのでしょうか……」

 

六花さんが話してくれた内容は概ね葉月さんの言っている事と同じである。


五月さんが末期ガンで余命幾ばくもないとは知らなかったようだが。

 

集まっている人達は五月さんの件を口々にしていて〈警察にあれこれ聞かれた〉という内容の会話が自然と耳に入って来る。


どうやら警察はここに居る関係者全員に事情徴収をしたらしい。


「全員揃ったのなら、さっさと始めようぜ‼」

 

苛立ち交じりの口調でそう叫んだのは故五月さんのバカ息子である竜二


母親が死んだというのに全く変わりないこの不謹慎で知性に乏しい発言


自分の頭の悪さをあえて誇示している様にしか見えません。


【馬鹿は死ななきゃ治らない】とはよくいったモノです。


「では予定より五分ほど早いですが全員がそろったようですし、始めたいと思います」


遺産相続の話し合いの開始を告げたのは【藤代泰山】の顧問弁護士であった白川圭吾弁護士。


年の頃は五十代前半といったところだろうか?高級そうなグレーのスーツに身を包み


凛とした立ち振る舞いにやや白髪の混じった短髪、そして知的な顔立ちと強い意志を感じさせる目


見るからに〈切れ者〉と感じさせる風体です。


こんな場でありながら龍の刺繍の入ったスカジャンを着てくる見るからに〈馬鹿丸出し〉とは雲泥の差です。


「それでは【藤代泰山】こと、藤代譲二様からの遺言状を読みあげます」

皆が息を飲んで見守る中、【藤代泰山】こと、藤代譲二の遺言状が読み上げられた。


後数分もしない内にもの凄い金額の行方が決まるだけに誰の目も真剣そのものであった。


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