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お金と感情

翌日になっても、未だ五月さんと連絡が取れなかった。


仕方がないので職場に電話してみると、〈ここ数日間はお休みをとっています〉とのことだった。


「どういうことだろうね?」


「わかりません。二人現れたり、いなくなったり、何が何やらサッパリですよ……」

 

仕方がないので我々は五月さんの自宅へと向かった。


聞いたところ五月さんは息子さんとマンションで二人暮らしとの事でしたので電車を乗り継ぎそのマンションへたどり着く。 


そこは想像していたような高級マンションとは程遠くどちらかというと古めのアパートのような外観で


入口もエントランスがあるような立派な所ではなくオートロックなどとは無縁のマンションであった。


狭くて数人しか乗れないようなエレベーターで三階まで上がり呼び鈴を鳴らしてみたが何の反応もない


仕方がないので二度三度と呼び鈴を鳴らしてみると中からドタドタという音が聞こえてきて勢いよくドアが空いた。


「ウッセーな、誰だ、コラ‼︎」

 

勢いよく出てきたのは頭を金髪に染めた十代後半と思われる少年


見るからに頭の悪そうな外観と言動をみるとこの少年が五月さんの息子、竜二なのだのろう。


「私達は五月さんに依頼された天塔探偵事務所の者です。五月さんと連絡が取れないので、こうして自宅の方までうかがったのですが……」

 

丁寧に説明したグリムさんに対し、目の前の馬鹿息子は明らかに不機嫌そうな顔を浮かべて吐き捨てるように言い放った。


「あ⁉︎ババアの行方だ⁉︎こっちが聞きたいぐらいだ‼︎飯の用意もせずにどこをほっつき歩いていやがるあのババア、コンビニに行く金もねえし……」

 

イラつく竜二を刺激しないように柔らかな口調で再び質問するグリムさん。


「そうですか、五月さんはいつから帰っていないのですか?」


「一昨日の朝からだよ‼︎、フラッと出かけたと思ったら連絡もよこさず帰ってきてねーよ、何考えていやがる、あのババア‼︎」

 

お腹も空いているせいか私たちの目の前で壁を殴りつけ苛立ちを隠しきれない様子だ


そんな姿を見て私はふと動物園行った時の発情期の猿を思い出してしまいました。


令和のこの時代にもはや絶滅種と言ってもいい〈ヤンキー〉とかいう珍獣でしょうか?


〈そんなにお腹が空いているのならば石器を持って森に狩りにでも行け‼︎〉と言ってやりたくなりました


少なくともこんな原始人とはもう二度と関わり合いになりたくないものです。


そんな私の思いとは裏腹にグリムさんは懐から名刺を取り出し竜二にそっと手渡す。


「お母さんが帰ってきたらこちらに連絡くださいとお伝えください。では失礼します」


 そう伝えてこの場を去ろうとすると、意外な事に竜二の方から呼び止められたのである。


「ちょっと待てよ‼」

 

何かと思い振り向くと、竜二はゲスな笑みを浮かべ両手を差し出してきたのである。


「なあ、アンタらババアの知り合いなら、金貸してくれねーか?」


 

五月さん親子がすむマンションを出て私は思わず大きなため息をついた。


「ハア、何だかドッと疲れましたね、あんなわかりやすい馬鹿息子がいたのでは五月さんの苦労がしのばれます。


日本語が通じるかどうかですら怪しいレベルでしたからね」

 

私は思ったままのことを口にする。おそらくは同じ感想を持ったはずのグリムさんに同調を求めたのだが


私とは違う事を思ったのか、ブリムさんはなにやら真剣な表情で考え込んでいた。


「五月さん一昨日から帰って来ていないらしいね」

 

そうでした一番重要な物事の本質を見逃すところでした、危ない、危ない。


「五月さんは私達の事務所、もしくは藤代邸に行った後、行方不明になったということになりますからね……」

 

私がボソリとそう言うとグリムさんはニヤリと意味深な笑みを浮かべこちらを見てきた


何だろう、何か気がついたのかな?


「今、〈私達の事務所〉と言ったね?ジュリもすっかり【天塔探偵事務所】の一員という気持ちなのだね?」

 

そこを拾いますか⁉︎この人は真剣なのだかふざけているのか全くわかりません。


少しだけ見直そうと思うとその瞬間、毎回キッチリ落としてきますね。


「そんなのどうでもいい事じゃあないですか、今はそんな事を言っている場合じゃないでしょう‼︎」


「またまた、照れなくてもいいよ。僕達はすっかり打ち解けた名コンビというわけだ」


「そんな訳ないでしょう、私は全然打ち解けてなどいませんよ。今の私の心は南極の氷のように厚く永久に溶けません‼︎」


「でも地球の温暖化で南極の氷は溶け始めているって聞いたけれど……」


「うぐっ、そうかもしれませんが今はそんな事はどうでもいいですよ。依頼の件はこの先どうするのですか⁉︎」

 

おかしなところで話の腰を折ったり変なツッコミを入れてきたり本当にこの人は人をイラつかせます。


しかし私の話題を変えたのが功を奏したのかグリムさんは腕組みして再び考え込んだ。


「そうだね、困ったね、このままだと依頼料もちゃんともらえるかどうか……」


「えっ、そっちですか?そりゃあプロとして仕事を受けたのですから報酬の問題はありますけれど……」


「そうだよ、お金は大事なのだよ」


「そんな事は言われなくてもわかっています、でもお金といえば何か悲しいですよね……」


「ん、どうしたの、急に?」

 

今回のことについて私なりに色々と思うところがあった。


「いえ、元々弥生さん、五月さん、葉月さんは非常に仲の良い姉妹とききました。


そして再婚相手の六花さんもいい人で皆がそれを快く受け入れ祝福する度量の広さと優しさを持ち合わせていて


本当にいい人達ばかりだというのにお金が絡んだだけでどうにもギクシャクしてしまうなんて……


世知辛いというか、生きにくい世の中といいますか、何だかやりきれなくって……」


「そうだね、世の中には再婚相手が同い年というだけで父親を罵倒するという人もいるぐらいだからね」


「うぐっ、そこはいいでしょう‼︎言っておきますが、私の心が狭いのじゃありませんからね


あの人達の心が広いだけですから、度量が大きいだけですから、私は普通ですから‼︎」


本当に嫌なところをついてきますね、この人は根っから性格が悪いと思います。


「まあ、今回はそのお金の規模が大きいからね。しかも三姉妹の家庭ではどこの家族もそれぞれお金が必要という状況になっている。


それだけお金を稼ぐことは大変だし現実は厳しいということなのだよ」

 

しみじみと語るグリムさん。この人も子供の頃とかにお金で困る事とかあったのでしょうか?


ちょっと想像できませんが……しかし今回の件は私的にどうにも納得できないものがあった。


「そのお金が必要な理由にしてもどこの家庭でも馬鹿な男共のせいといいますか、三姉妹の方々は全然悪くないと思いますけどね。


特に五月さんのところの馬鹿息子は働いて自分で稼げば問題解決じゃないですか


働かずに大金を得ようなどとムシがいいにも程がありますよ‼︎」

 

自分で口にしながら段々と腹が立ってきた、どいつもこいつも自分でケツを拭けないのであれば


それが自分自身の器だという事になぜ気が付かないのでしょうか?


あらためて自分の力だけで頑張るか、諦めて一からやり直すかのどちらかじゃないですか、それを遺産で何とかしようなどと……全く男どもは。


「随分と御立腹だね、ジュリ」


「私はまだ自分で稼いだことがないのでその苦労はわかるとは言えませんが


祖父や父を見ていてもお金を稼ぐということが大変だということはわかりますよ。


それに私は一人っ子で兄弟というものがいませんから少し憧れのようなものがありました


仲の良い三姉妹とか聞いているだけでも少し羨ましく、話を聞いただけでもホッコリとしたものです。


それがお金の問題でギクシャクするとか、何かやりきれなくって……」

 

そうなのだ、私がこの件でなぜこうまでも苛立つのかというと


仲の良かった姉妹がお金の問題で仲が悪くなるというのがどうにも釈然としなかったからである。


「そうか、ジュリは一人っ子だったのだね……」


「ええ、ですから私は昔から兄弟、姉妹というモノに憧れがあって……


現実では〈兄弟なんてそんなにいいものじゃない〉とか聞きますし


本当に仲の悪い兄弟、姉妹もいるということは知っていますが、それでも……」

 

その後は言葉が出てこなかった、自分でも〈無い物ねだり〉だとはわかっているのだが。

 

そんな時、グリムさんが静かに語り始めたのだ。


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