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ヒメユリ

 ー月が綺麗ですねと言ったらあなたはなんて返事をしてくれますか?ー



 外からカラスの鳴き声が聞こえる。どうやら家に帰ってからすぐに寝てしまっていたみたいだ。帰ってからの記憶はあまりない。水瀬には申し訳にないことをしてしまった。


 1日に2回もあの子の夢を見るのは初めてだった。それにいつもと言葉が違っていた。

 月が綺麗ですね…夏目漱石の有名な言葉だが返しはなんと言うんだったか。


 夢の内容に変化があったのはおそらく水瀬と出会ったからだろう。やっぱり水瀬はあの子にそっくりだった。でも違うあの子じゃない。一体誰なんだ。


 もし大切な人なら何故思い出せないのだろうか。いつまでも頭痛が続く。


 教室に入るとすぐに蓮が話しかけてきた。


「昨日どうだった?何か分かったか?」

「お前昨日本当は助っ人なんて呼ばれてないだろ」


 蓮はきっとわざと水瀬と2人きりにしてくれたのだ。


「あ〜バレた?俺いるとちゃんと会話できないかな〜って思って、ごめん」

「いや、おかげで助かった」


 俺は本当にいい親友を持ったと思う。


「それで?水瀬澪はあの夢の子と何か関係があるのか?」

「…2人は驚くほどにそっくりなんだ。昨日水瀬が教室に入ってきた時、同一人物だと思った」

「じゃあそうなんじゃ…」

「いや違う、2人は別人だ。姿も雰囲気もそっくりだけどあの子はもっと…くっ…」


 またあの頭痛だ。


「晴!大丈夫か」


 蓮の呼びかけに頷く。そして俺は続ける。


「水瀬は花言葉が好きで、話してくれた。でも俺にも分かったんだ。俺は花言葉なんて知らないはずなのに」

「花言葉…」

「昨日家に帰った後またあの子の夢を見た。1日に2回も見るなんて初めてだしそれにいつもと内容が違ってた。」

「内容が?」

「今まではひたすら忘れてって言ってくるだけ。でも昨日は、月が綺麗ですねって言ったらなんて返してくれるのかを聞いていた」

「月が綺麗ですねって夏目漱石のやつか。夢の内容が変わったってことはやっぱり水瀬とその子は何か関係がありそうだな」


「月宮くん、栗花落くんおはよう」


 水瀬!?まさか今の聞かれてたんじゃ…。


「お、おはよう。そうだ、昨日は急に引き止めてごめん」

「ううん気にしてないから大丈夫だよ。それで…………私にそっくりって?」


 まずい。やっぱり聞かれていた。どうしよう、どうしたらいいんだ。


 ちらっと蓮の方を見ると”俺に助けを求めるな”って顔をしてやがる。


「じ、実は夢に出てくる女の子が水瀬にそっくりで。だから昨日水瀬を見た時めちゃくちゃびっくりしたんだよ。ま、まあ夢だからぼんやりしてて見間違いかもしれないけど…」


 しどろもどろになりながら俺は答える。


「すっごーい!そんなことあるんだ!」


 水瀬は目をキラキラさせて言った。引かれるとばかり思っていたからびっくりした。


「夢って本当に不思議だね。良かったらもっと聞かせてくれないかな?夢の話を」


 なんなんだろうこの違和感は。


 チャイムが鳴り席につく。そういえば水瀬は隣の席だったな…と横を見る。


 やっぱり変わらず愛らしい。


「綺麗だな」


 気づけば声に出してしまっていた。


「え…?」


 水瀬と目が合う。


「はーいじゃあこの文を月宮くん。」

「あ、はい!」


 先生に助けられてしまった。隣の席の女子を見つめるとか自分はバカか。



「へー!月宮くんと栗花落くんってお隣さんなんだ」


 今日も水瀬と一緒に帰る。蓮は今日は本当に助っ人に呼ばれたらしい。


「でも蓮は起きるの遅いから俺が家を出る頃にもまだ寝てる」

「ふふっ2人は仲良しなんだね」


 そういえば水瀬は前に学校とかに仲の良い友達とかはいたのだろうか。


「水瀬は…」


「あれ?もしかして澪?」

「え?澪?」


 俺の声は別の人達の声で遮られた。


 声のした方を見ると数人の女の子がいた。


 誰?と聞くと水瀬は「前の学校のクラスメイト」と答えた。

 クラスメイト、と言うところから少なくとも仲が良かったわけではないんだなと感じた。


「うん。綾ちゃん、由美ちゃん久しぶり…」

「え?なんでちゃん付け?てか姿が全然違うから分からなかったよ!」

「それな?なんか別人みたい。まるであの人みたいじゃない?」

「あの人?あー澪のお姉ーーー」


「…………ッ………やめて!!」


 水瀬の声に道を歩く人々が振り返った。水瀬が青ざめている。


「え…そんな怒んなくてもよくない?別にうちら悪くないし」


 明らかにまずい状況だ。なんとか言って水瀬とこの子達を引き離さないと。


「あのーちょっと急ぎの用事があるんでもう行っていいですか?」


 俺は水瀬を連れて近くの公園に寄った。自販機でココアを買い、水瀬に渡す。


「水瀬大丈夫?ココアで良かった?」

「あ…うん大丈夫、急に大声なんか出してごめんね。助けてくれてありがとう…」


 しばらくすると水瀬が落ち着いたみたいだ。


「………何も聞かないの?」

「まあ気になるけど、言いたくないことを無理矢理言わせたくはないし」

「ありがとう。でもごめんまだ話せない。それと…今は1人になりたい。先に帰るね」

「おう、気をつけて」


 誰にだって言いたくないことの一つや二つはあるだろう。

 しかし…別人みたい、か。前の学校での水瀬はどんなふうだったのだろうか。でもあまり触れないでおこう。



「月宮くんには悪いことをしちゃったな…」


 私にはお姉ちゃんがいた。いつも優しくて色んなことを教えてくれる、そんなお姉ちゃんのことが大好きで誇りだった。


 でもお姉ちゃんは小さい頃から体が弱く、いつも病院にいて私は一緒に遊んでくれないお姉ちゃんに不満だった。


「ねぇお姉ちゃん遊んでよー!」

「ごめんね澪。お姉ちゃんが体弱いから…」

「もう!遊んでくれないお姉ちゃんなんて大っ嫌い!ずっと病院にばっかりいて!」

「私だって…私だって好きでこんなところにいないよ!」

「あっ…澪…ごめっ…ゲホッ!ゲホゲホッ……!」


 激しく咳をしていたお姉ちゃんを見向きもせず私は泣きながら病室を飛び出した。


 その晩、病が悪化してお姉ちゃんは帰らぬ人となった。幼かった私にはお姉ちゃんがどれだけ苦しかったか理解できなかった。


 私が殺した。


 私がお姉ちゃんを殺した。


 もしあの時私があんなことを言わなかったらーーーそう考えるたびに涙が溢れた。


 お姉ちゃんのことを忘れないように…忘れられないように私がお姉ちゃんになる。

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