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1-2 赤ずきん、オオカミさんと出会う

 赤ずきんことルビィ・シャルロットは、大急ぎでおばあさんの家に辿り着いた。が、すぐに違和感を感じた。人の気配が全くしないからである。この赤ずきんはただの女の子ではないので、すぐに分かった。人の気配の代わりに感じたのは――()()()()()()()()()()()の気配である。ルビィは赤ずきんの中に仕込まれた短剣をすっと構え、そっと伺うように家の扉を開けた。鍵は掛かっていなかった。


「おばあさま?いないの?」

 

 一応呼びかけてみるが、返事がない。ルビィのおばあさんはルビィ以上の手練れであるからして、命の心配などはしていないが。そもそも今回ここにやってきたのは、おばあさん自身から「病気になったので見舞いに来るように」との手紙があったからなのだ。だから、好物の葡萄酒と焼きたてのクッキーを携えてきたのに。それなのに不在とは、一体どういうことなのだろうか。

 ルビィは警戒体制を解かないまま進み、寝室に耳を当てて音を探った。やはり、妙な気配がする。剣を構えながら、ギィ、と細く扉を開けるが反応はない。扉をさらに慎重に開けていくと、そこから一筋の光が差し込んで――ベッドの上が、まっすぐに照らされた。

 

 果たしてそこにいたのは、赤ずきんの師匠であるおばあさんではなく――銀色の、それはそれはうつくしい、オオカミだった。オオカミはどこかのお伽噺のようにおばあさんに化けるでもなく、ただオオカミの姿のまま、泰然とそこに寝そべって鎮座していたのであった。


「あなたは誰?」

「……」

「ただのオオカミじゃないって分かってるわ。名前は?」

「……アラン」


 オオカミは、唸るように声を発した。発音が非常に正確な、人の言葉である。赤ずきんはこの時点で、この狼が神の使いとされる伝説の存在――神狼(しんろう)であると、はっきりと確信した。

 

「アランね。宜しく。私はルビィ。ルビィ・シャルロットよ。私のおばあさまはどこ?」

「知らん。いつの間にかいなくなった」

「知らんって……」


 ルビィは短剣を下ろした。相手に害意がないのは明確であったからである。そして遠慮なく、ずずいっとオオカミに近づいてその顎をわし掴み、無理やり目を合わせた。まるで宝石のタンザナイトのような、うつくしい青い瞳だった。


「もう一回聞くわ。おばあさまはどこ?」

「さっきから図々しいぞ、小娘」


 その瞬間ぶわりと、オオカミから鋭い殺気が放たれた。戦場に慣れたルビィの背にすら冷や汗の流れるような、圧倒的な強者のオーラだった。


「俺には大きな口がある。お前をひとのみに喰らうことができる」


 ぐわりと広げた口には無数の鋭い刃。それが見えた途端、オオカミがカッと光り輝いた。突然の眩しさに一瞬怯んだ僅かな隙で、ベッドに押し倒される。あっという間に両手を縫い付けられた。()()()()()大きな手で。


「俺には長い手足がある。お前をこうして押さえつけることもできる」


 ルビィが目を見開いて見上げた先、自分を押し倒しているのは、彫刻のような美青年だった。タンザナイトの青い瞳だけが、さきほどのオオカミの姿と変わらない。吊りがちの目もとは歪められ、その眉間には深い皺が刻まれていた。癖のある長い銀の髪はあちこちで縦横無尽に跳ね、耳元で束ねられて垂れている。すらりと長い手足は彼の言葉の通り、身体の小さなルビィをベッドに押さえつけ、その動きを見事に封じていた。


「驚いた。それは変幻の魔法じゃないわね。貴方はオオカミでもあり人でもある――本物の神狼(しんろう)じゃないの!」

「うるさいな。だから、図が高いと言っている!」


 アランと名乗った青年の殺気が、明確にさらに一段と高まった。しかしルビィはもう一切怯むことなく、はっきりと呪文を唱えた。

 


「待て≪ステイ≫!!」


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