1-1 運命の日の赤ずきん
一度連載を断念したのですが、ほぼ終わりまで書けたので再投稿することにしました。お付き合いいただければ幸いです!
うららかな午後の日差しが差し込む、うつくしい森の中。
一面に広がった色取りどりの花畑の中に、それはたいそう可憐な少女が腰を下ろし、花を摘んでいた。
それはまるで、御伽話の一枚の挿絵のような光景であった。
彼女はフリルのついた真っ赤なずきんを被り、ふんわりとしたサテンの白いスカートを地面に広げていた。
癖の強いクルクルとした、色素の薄い金髪はきらきらと輝き、途中からサイドで三つ編みにされて小さな花々を纏っている。大きくぱっちりとした目は菫色。そこにけぶるような金のまつ毛が影を落とす。薔薇色の頬に、小さく形の良い鼻。そしてさくらんぼみたいに瑞々しい、ぷっくりとした唇が、小鳥のような声で歌を口ずさんでいた。
「ハイ! 瞬く間もなく包囲しろ〜♪一匹逃さず殲滅だ〜♫」
……かなり、物騒な歌だった。
「歯向かう奴には容赦なく〜♪手ひどい仕置きを受けさせろ〜♫」
ふんふんと歌いながら花を摘んでいく……いや正確には、毟り取っていくその動きは、無駄がなくとても素早い。そうして手元いっぱいにもっさりとした花束が出来上がったところで、少女はハッとして立ち上がった。
「いけない!遅刻しちゃう!!師匠――おばあさまは、時間に厳しい人なのに!!」
途端に少女は、常人とは思えない素早さで――無駄のないしなやかな、玄人の動きで駆け出した。
彼女の名は、ルビィ・シャルロット。
『赤ずきん』の異名で呼ばれ、数々の戦場で恐れられた凄腕の魔法使いであった。
このとき、世界はまだ知らない。
彼女と銀色のオオカミが、歴史に大激震を起こすことを――まだ、知らない。