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リュシーは伯爵家の出身で、名をリュシェーヌと言う。
見た目は美しいが、根っからの勝気な性格と負けず嫌いが災いして、学園入学前には婚約者が決まっていることの多いこの国で、中々良縁に恵まれずにいた。
そんなリュシーに、2年生になった時に転機が訪れる。隣国の第2王子が、優れた魔法使いを多く輩出するこの国の魔法学院に留学してきたのだ。
リュシーと彼とでは身分も違うし、関わってもろくな事が無いと思ったリュシーは、日課である図書館での勉強に精を出していた。
こんなに大量に魔法に関する蔵書が揃っている図書館があると言うのに、何故こんなにも利用者が少ないのだろう...と不思議ではあったが、静かに紙とインクの匂いに包まれるこの時間が何よりも好きだった。
そこに、ある日突然隣国の第2王子セルジュが顔を出すようになったのだ。
いつも彼を取り巻く令嬢方に囲まれてニコニコとしている印象だったが、こうして一人でいるところを見ると、本当はもう少し落ち着いて勉学に励みたいのが本音なようで、リュシーは少し意外に感じたものである。
「君、いつもここで1人で勉強しているよね」
突然セルジュから声をかけられて、リュシーはどう反応したら良いのか悩んだ。相手は隣国の王族だ。不敬があってはならない。
そんなリュシーの心の中を読んだかのように、彼は続けた。
「せっかくこの国に魔法を学びに来たのに、ご令嬢方に囲まれてしまっていい勉強場所が見つからなくて困っていたんだ。ここはいい所だね。」
「そうですわね。私もここが静かで、蔵書も豊富で気に入っておりますの。」
たったそれだけの言葉を交わしただけであったが、それから毎日セルジュはリュシーの隣か向かいの席で勉強をするようになった。
つい悩んでいる彼のノートが目に入った時、間違っているのは使っている定理で、こちらの本のこの最新の式を使えば解決するでしょう、などとアドバイスをしているうちに、2人の仲は自然と深まった。
そして3年生、卒業をあと3ヶ月後に控えたある日、セルジュから唐突に告白されたのである。いつもの図書館で、いつもと同じように勉強をしていたところで急にである。
「僕がいくら頑張っても君の学年首席は奪えなかったな。1番になってから言いたかったんだけど、そろそろ帰国も迫っているし、言わせて欲しいことがある。
僕は貴方のことを好ましく思っているようだ。どうか、僕と婚約して欲しい。」
あまりに突然のことに表情筋が仕事をしなくなったリュシーは、あんぐりと口を開けたままだが頭の中は大忙しだ。相手は隣国の王族。優秀な第一王子がいるため、何かが起きない限りは王妃になることは無い。彼には新しく公爵位と王族の直轄領が与えられることが既に決まっている。こんな魔法バカの私に公爵夫人が務まるのだろうか?と言うか、顔が近い。近すぎる。中性的で美しいセルジュの顔がとても近くて自然と顔が赤くなってしまう。
「お父様に、相談してからになりますけれども...私も殿下をお慕いしております」
勝気なリュシーらしくなく、赤くなった顔で俯きながら発した声は、とてもか細いものであった。




