3・「巨人」~追跡者
ガンは駆けていた。リタを両手に抱え、駆けていた。
後ろを振り返る気にはなれない。後ろにはきっと地獄が見える。降り立った数機の巨人。T・Aによる圧倒的な蹂躙の地獄が。
銃撃の咆哮。破壊の地鳴り。建物の崩壊。街の人々の悲鳴。恐怖、恐怖、地獄、恐怖。
何故こうなった。先程まではみんな笑っていた。活気が満ち溢れていた。いつも通りの日常がそこにはあった。
何故だ。
全ては空を焦がすような爆発音から始まった。そこから上がった煙の柱。それを突き破る空を飛ぶ鉄の船。そして船から現れた巨人・T・A大地を抉り、地上に降り立った奴らはノッペリとした頭部に無骨な灰色ボディ。腕部にはマシンガン式ライフルが握られていた。
人々はただ、目の前に現れた巨人に唖然とし、巨人はそんな人々を見下ろし、銃口を建物に向け、発砲した。
全ては異様。歪。破壊の悪夢が始まった。
熱い。怖い。怖い。怖い。怖い。熱い。熱い。熱い。熱い。
(くそ、くそ、くそ!!)
「チックショウゥゥッッ!!?」
恐怖に震えて動けない。元々足下の覚束ないリタを抱えて全力で駆けるガンは絶叫した。
わけが解らない。あれは何だ? トレース・アーム? 何で街を壊す? 何でだ?
(俺達が何をしたってんだよ)
あいつらはなんなんだ。
ロロナとはぐれてしまった。ドンとはぐれてしまった。
「ロロ! ドン!」
駆けながら名を呼ぶが、応えは返って来ない。
(無事で、無事でいてくれよ)
まだ子供なんだ。護ってくれよ、神様。
いるかどうかも解らない神様にガンは頼み込む。
「・・・・・・」
腕の中のリタがギュッとガンの服を握る。口元が微かに動いたように見えた。
「ロ・・・・・・ロ」
と。
「大丈夫、ロロは大丈夫だから!!」
根拠の無い大丈夫をリタに何度も言う。今は、安全な場所まで離れる。離れるんだ。
だが、安全な場所なんて何処に? ガンは何処へ向かっている? 全ては闇雲に走り回るだけだ。
他の住人達と共に。走っているだけだ。
そして
奴らは此方に向かってきた。
表情の無い数機の巨人が、全力で駆け抜ける皆を嘲笑うかのように。
巨人は背面の飛空ユニットによる低空飛行で、逃げる人々に凶悪な風を送り込む。何人かが吹き飛ばされる。ガンとリタも空中を飛んだ。ガンはリタを抱え込み、強く抱き締める。体は大地に叩きつけられた。
背中を打つ痛み。脚を打つ痛み。腕を打つ痛み。地面を転がる様々な身体の痛みがガンを襲う。
それでも、ガンはリタを離しはしなかった。彼女に痛みを与えまいと更に強く強く抱き締めた。
風が止む、身体の回転も止まる。身体は仰向けに、太陽を眺める形になった。
(リタは・・・・・・)
無事か?
腕の中のリタ。身体の震えを感じる。小刻みな吐息も感じる。
リタは生きている。少なからずの安堵を覚える。
リタの様子を見ようと思った。だが、突然太陽の光が遮られた。
あのT・A達がガンとリタの元に降り立ったからだ。
(・・・・・・こいつら)
ノッペリとした数機の機械頭部がガンとリタを見下ろす。
「なんなんだ」
この巨人達は何をしにきた? 街を壊し、皆を酷いめに遇わし。
ガン達を見下ろす。なにか目的のある行動か?
(俺らがなにした)
あの鉄の壁の向こうには人が乗っているのだろうか? だとしたら、これは人のやることか?
恐怖よりも怒りが勝った。
「なんなんだお前らはああぁっっ!!?」
声が潰れる程の叫び。腕の中で震えるリタを更に強く、抱き締める。
・・・・・・
ガンの叫びに巨人達は反応しない。ただ機械音がなるのみ。
いや、動きが起きた。 クォンと短めの駆動音がなり、巨人の一機が手を突き出した。
そして、なにか動物を捕獲するような網が目の前に広がった。
ガンは咄嗟にリタに覆い被さり、巨人に背を向けた。いまだ震えるリタを抱き込んだ。
それに幾ばくの意味があろうか? こんな巨人達の前には、なんの意味もなさないだろう。
ガンは強く目を瞑った。
リタはそんなガンに紫の瞳を向けた。
そして、再び瞳を閉じ、自身もガンの身体を抱き締めた。
二人の身体は大地を放れた。
――・・・・・・ごめ・・・・・・ん