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1・遺跡の炭鉱街「エコー」

 炭鉱街「エコー」


かつての歴史を伝える遺跡の上にある珍しき街。


 だが、遺跡と言っても既に学術的な価値は無いという。

 今は一部の学者が定期的に街を訪れては何か記録をまとめる程度であり、住人達にとっては昔からそこにある存在なのだ。自分達の生活を支えてくれるものであり、街のシンボルでもあり、誇りなのだ。


 遺跡の中は昔の人間達が作り上げた空洞の中に生活燃料となる「ディーラ鉱石」が取れると知ったその次の時代の人間達がその上にトロッコ等の線路を築き上げた人工の色が強いものとなっている。


 この「ディーラ鉱石」によって街は潤い、少しずつの繁栄を築いていった。何代にも渡る先祖達の教え、線路の修理と先祖達の築いたエリア以外は極力広げない事を守り、人々は少々便利な新しい文明の力の恩恵と少々不便だが歴史が裏打ちする伝統という名の技術を上手く共存させながら住人達は今日という生きているのだ。


ある学者曰く、この街に生きる人々こそが歴史を繋げる遺産なのだと言う。



 そして、ここにひとり、遺産の一部ともいえる少年がこの街で生活をしている。

 少年の名は



~~ガン・アーロン~~




 「どいてどいて! 退いてくれ!!」


少年が旧式のオンボロバイクを運転しながら街の大通りを早歩き程度のスピードで進んで行く。後ろには荷台を付け、その中には使い込まれた工具類や、予備燃料、弁当等、その他諸々が詰め込まれていた。


 「なんだ、ガン! 今ごろ仕事か!! 重役出勤てやつか!」


顔馴染みの声が人の倍はでかい親父から軽い挨拶がわりの野次が飛ぶ。


 「勘弁してよおっちゃん。俺も好きで遅れてるわけじゃ無いのよ。今日は特別」


通り過ぎながらガンも軽い挨拶がわりの反論を口にした。


 「へ! 特別なんて言葉は一人前のセリフだ!! まだまだ声の高いひよっこが言うことじゃねえ! 「デカブツ」動かすだけが才能じゃねえぞガン!!」


既に後方にも関わらず、親父の言葉はガンの耳によく通った。


 「ウへ、相変わらず凄い言われよう」

自身のコンプレックスと痛いところを突かれた言葉に肩を竦めながらガンは仕事場の炭鉱場へと急いだ。


 「あら、おはようガンちゃん。はい、これ」


途中、商店のおばちゃんからサンドウィッチを投げ渡される。


 「サンキュ。愛してるよおばちゃん」

それを片手でキャッチするとすぐさま口に突っ込み硬貨をおばちゃんに放り投げた。


 「まいど! 気を付けてねガンちゃん」



おばちゃんも上手くそれをキャッチすると手を降って見送る。ガンも片手を軽く振り返す。

 

 (ん? 今日は良いトマトとチーズが入ったんだな)


モゴモゴと口を動かし器用に食事を済ませ、いつもの朝の日課を全て完了すると今度こそ仕事場へと急いだ。





 「おう! 待ってたぜガン」


炭鉱場に着くと世話になっている親方が手を挙げて出迎えてくれた。


 「すんません親方。遅れちまって」


バイクを止めながらガンは頭を下げた。


 「ガハハ、おめぇ今日は休みのはずだったかんな。こっちが無理言ったんだ。仕方ねえよ」


親方は豪快に笑いながらガンの肩を叩いた。


「テテ、そう言ってくれると助かるっす。そいで、今日の仕事はアレっすか?」


ガンは肩を押さえながら今日の仕事の内容を尋ねた。


 「ああ、それに関しては事務所で話そうや」


「うす」


親方に促されて事務所という名のボロ小屋へと向かった。




 「それでよガン。仕事に関してなんだが」


親方がほとんど白湯に近い出涸らしのお茶を出しながら仕事の話を進める。


 「少々、エリアの拡大をしないとなんねえ」


「エリアの拡大っすか! こりゃまたすっげえデカイ仕事っすね」


ガンは自分の予想とは違った。大きな仕事に少し興奮の色を見せた。


 炭鉱のエリア拡大はとても重要な仕事であり、ガンが生まれてからまだ一度も行われていない。前回行われたのは三十年近く前だと聞いている。


 「ああ、まだ仕事始めて二年目のおめえにやらせるには少し酷なんだがな」


親方が白湯茶を少し口にして一息吐く


「俺達には「デカブツ」を操縦できねえからなぁ。アレを使えるのは死んだボンのじっさまと跡継ぎのおめえだけだかんな」


親方は肩を落とし頭を掻いた。


 「今回は結構ヤバいところやるんすか?」


親方の様子を見て、ガンはすぐにそういう事だと取った。そして、それは当たっているようだ。


 「ああ、今回は「デカブツ」があるから掘り進んでみようてことになってな・・・・おりゃ反対したんだが」


なるほどとガンは思った。確かに、使える物があるのならそういう結論に達するのはなんら不思議な事では無かった。


 「本当、こんな重要な事を当日に言って申し訳ねえ」


親方が頭を下げる。ギリギリまで言い出せなかった自分を責めているように見えた。


 「よしてくれよ親方」


ガンは頭を上げてよと親方に言う。



 そして笑って言った。


 「どうせ二、三回はやらなきゃいけなくなる仕事だ。早いうちに体験できて逆にラッキーだ」


「すまねえ、そう言ってくれるか」


「だからやめてくれって、俺は嬉しいんだからさ。興奮してんだよ。本当の意味でじいちゃんの仕事を継げたって」


またも頭を下げようとする親方にガンは興奮してることをアピールしながら止めさせた。






 「で、すぐに取り掛かれるんす?」


「いや、事が事だかんな。まだ、ちょっと時間が掛かる。作業前の儀式もやんなきゃなんねえし」


作業前の儀式とはエリア拡大の際に執り行う。先人達に感謝と謝罪を捧げる儀式である。

 感謝とは自分達が生活出来ることへの。謝罪とは、自分達の生活の為に遺跡を切り崩すことへの。必ず、欠かしてはならない重要な儀式だ。もちろん、三十年振りの儀式であるが、ゆうに一時間は超える大掛かりな儀式だそうだ。



 「そっか、あ、だったらその間の仕事は無いんすか? 雑用でもいいんすけど?」


まだ出番が無いことを知ったガンは他の仕事を聞いてみた。恐らく「デカブツ」の最終チェックは機械技師の先輩達がいつも通りにやってくれるのだろう。本当は自分も立ち会わなければならないのだが、こういう事は決まり事があるらしく。技師としては一年にもみたないガンにはまだ早いらしかった。だが、性格上ここのままジッとは出来ないわけで。


 親方もそれをくみ取ってくれたらしく、ガンの興味のありそうな仕事を持ち掛けた。


 「んじゃ、「宝探し」でも手伝うか?」


「「宝探し」て事は」


「ああ、ひっさしぶりに「気流」でいろんなんが流れ着いたわけよ」


「絶対やる!!」


ガンは先程とは違う興奮を身体に感じていた。



 親方の言う「宝探し」とは、遺跡近辺に「気流」と人々から呼ばれている不可思議な現象に乗って漂流してくる鉄屑等を拾い集める仕事である。

 その大半が、価値の無いガラクタである事が多いが、中にはとんでもないお宝と呼ばれるものを引き当てることも少なくは無いのだ。この「エコー」付近では取れない珍しい金属等は特に価値が高いのだ。

 まるで違う世界をそのお宝から垣間見る事が出来る。「気流」と呼ばれるこの現象がなぜ起こり、何処で現れるのかここの住人達はよく解ってはいない。ただ、教科書的な意味で解っている事は、この世にはこことは違う世界が少なくとも三つはあり、「気流」はそれに関係のある現象であること。そして、信じられない事にこの「気流」を使って世界を渡る人間達がいるらしい。まるで渡り鳥のようなその人種の事を人々は世界を荒らしかねない意味を込めて「界族」と呼ぶという。


 「界族」と呼ばれる人種の多くは「気流」を一番理解している世界の人間が多いと伝え聞く。


 が、そんなことはここの住人にとってはどうでもよいことなのだ。正直、自分達の世界がどういったものかも解ってもいないのにピンと来るわけがない。

ただ、みじかに起きている「気流」という存在は理解できていた。彼らにとって「気流」とは物を運んでくる現象以外のなにものでもない。もうひとつの生活の潤いだ。実際、「気流」から送られてきた潤いを与えた物のひとつがT・トレース・アームの残骸だった。

 これが送られてきた時、当時の技師達は驚いた。残骸が送られてくる少し前に、エリア拡大の作業の際に、コレと同じようなものが偶然発見されたのだ。

 処分を検討していた関係者達は技師達の興味という名の探求心に折れて、技師達はそれに答えるように残骸からの情報をスポンジのように吸収し、独学で自分達のものにしていきその結果、作業機械等の技術が向上し、更なる生活の安定と現場の人間の安全の強化へと繋がっていったのだ。


 と、こんな事がこの街の文献には記されているのだ。


 「長ったらしいご託よりも今は早く行きてえよ。俺が良いの見つけたら物によっちゃもらっていいっすよね?」


「ああ、考えとこうか」


「うし、ほんじゃ大仕事前の稼ぎと行きますか!」


パンパン! と、ガンは顔を叩いて気合いを入れ、「気流」の流れ場へと親方と共に向かった。






 ――「気流」の流れ場



 「おう、調子はどうだ!」


親方は流れ場で先に「宝探し」をしている作業員に大声で作業の調子を聞いた。


 「だぁめだ親方! 今回はいまんとこあんま良いもんねえよ! 線路の補強材足しになりゃいい程度だ!」


作業員のひとりが同じくらいの大声で現段階の結果を報告をする。


 「そっか! 無駄足になりそうか!!」


「まだ奥まで行かねえとわかんねえけど! 作業ウォーカーでも使わなきゃきっちいよ!!」


親方は一通りの報告を聞くと少し悩んだ。


 「ん~、この様子じゃお宝の期待は持てそうにねえな。作業ウォーカー使うにしても下手したらメンテナンスと燃料代の一日分がパーかぁ」


「親方! まさか可能性があるのにやらねえって言わないよな!!」


「ん、いや、まだそうとは言ってねえよガン。ただ親方としての俺の立場からちょっと勘定を叩いちまっただけよ」


「でも、その言い方だとやらねえって事も考えてんだろ? なぁ、俺の給料からメンテナンスと燃料代払ってもいいからさぁ、やろうぜ」


「・・・・・・・・」


ガンは奥の「宝探し」をどうしてもやりたいようだった。親方は考えた。


 ガンにはエリア拡大の仕事が待っている。その前にモチベーションを上げてやるのも大事なのではないかと。


「おっし、んじゃやるかガン!」


「さすが親方! そうこなくっちゃ!!」


親方の決定にガンは手を叩いて喜んだ。

 「あ、そうだ親方」


「あん?」


「あのさ、燃料代は俺の持ちなんだからさ」


ガンはもうちょっとだけ調子に乗って親方にワガママを言ってみた。






 「おい、ガン。頼むから壊すなよ?」


「心配しなくても大丈夫。俺の操縦テクを信じなさいよ」


ガンはいま作業ウォーカーの座席の上にいた。特に心配していない表情で挨拶がわりの悪態を吐く作業員達をいなしながら最終チェックをする。


 「えーと、燃料計はOK。アームはペンチ型なのね。ま、使い方次第では固定するのに便利だよな。一応、ショルダーに丸のチェーンソーでも・・・・」





 「おし、準備オッケー!」


「出すぞっ! ガン!」


「いらっしゃいよ!」


作業ウォーカーで合図を送り、作業員が開閉バルブを回した。錆の強い扉がギチギチと音を起てて開き、ガンは再度座席を固定し直し、流れ場へと飛び出した。








 「相変わらず、ここ足場わりぃ~」


「気流」の流れ場を進みながら久しぶりに感じる足場のデコボコさにガンは軽く愚痴ってみた。


 ボコボコと岩が折り重なった地形は進めば進むほどひどくなり、やがて人間の足では先には行けそうに無いほどの溝が見えてくる。

 たまにこの溝の中にお宝が挟まっていることもあるのだが


「と、何も無しか。ま、ここら辺まではみんなも来てるよなっ、と!」


一応の確認をした後、慣れた手つきでレバーを強く握りペダルを軽くタタンと踏み作業ウォーカーをホバリングさせて溝の反対側へと着地した。


 「よしよし、こっからこっから。待ってろお宝ちゃん」


ガンは軽く上唇を舐めるとアームをガチガチと動かしながら前へと進んだ。





 「んん~、目新しいもんがねえなあ」


しばらく前進しながらたびたびアームで岩をほじくり返してみたが、お宝と呼べそうな物は無かった。それどころか進めば進む程に、漂流物は少なくなってきている。


 (今回は入り口付近に固まって落ちたのか?)


そんな結論が頭に出てくる。

 結局、無駄足だったかなぁと思いつつもガンは前に進んでいく。



 「ありゃ、ここまでか?」


ついには目の前にデコボコとした岩の壁が立ちはだかった。

 「ん~、風の音は上からするよなぁ。あの上、入れなくはないか」


座席カバーを開けて外の空気を肌で感じてみると、上からヒューヒューと風の音が微かに聞こえてくる。手製の双眼鏡を通してみると空洞があるのもわかった。

 「ところどころに岩のでっぱりあり、ホバリングしてやればやってやれないことはない」


ブツブツとひとり呟いてからガンは感度最悪の通信機の電源を入れた。


 『お・・ガ・・・ど・・した!』


ガガガと、ノイズ混じりの最悪の状態で通じ、向こうからは親方の声が聞こえた。


「親方、そっち聞こえるか!」


最悪な感度のせいか自然に声が大きくなってしまう。


 『お・・・お!!』


それは向こうも同じようだ。


「気になる所あっから! そこみてから引き返す!!」


『ああ! な・・・・だって!!』


「気に! なる! とこ! みて! 帰る!!」


『おお! ・・・かった! ・・き・・つけ・・・・よ!!』


「うす!!」


とりあえず向こうにこちらの異図が伝わったのを確認してノイズのうるさい通信を切った。


 「よし、行くぞ!!」


ガンはペダルをタタンと踏んだ。作業ウォーカーがホバリングを開始する。順調に最初のでっぱりに到達する。


 (よしよし、我ながら順調だ)


休む間もなくまたホバリング。これを何度も繰り返す。


 「オッ、トッ!?」


途中、六段目のでっぱりが少し崩れ、バランスを崩しかけるがすぐに持ち直し、その後は順調に上を目指して行けた。


 そして


「よしっ、と!!」

頂上へと到達した。

 「おー、高い高い。でも、眺めはよし」


自分の通ってきた道筋を見下ろしながら、ガンは率直な感想を漏らした。


 (さて、この先にお宝ちゃんはあるかな?)


頂上の先はまだ少し行けるようだった。ガンは上唇を舐めて前へと進む。


 (お、この先は広いぞ)


しばらく進むと拓けた場所へと到達した。上空を見上げるといつもより空が近くに見えた。


 (さてさて、ここがほんとの行き止まりっぽいけど?)


辺りを見回してみる。珍しい物は特に見当たらないようだ。


 「んん?」


が、一ヶ所だけ不自然な形の岩の塊を見つけた。


 ガンが近づいてじっくり見てみるとやはり何か不自然な形だ。なにか、上から降った岩がキレイに降り積もったように見え無くもない。


 (これは、もしかしたらのもしかして!)

ガンは少し興奮しながら、岩を一つアームで掴んでみた。簡単に取れる。次の岩を取り除いてみる。

 「おっ!」


その下に明らかに岩とは違う銀色が見える。


(鉄だ!)


逸る気持ちを抑えつつ残りの岩も慎重に取り除き、その銀色をゆっくりと引きずり出す。


 「すげぇ、マジのお宝だ!?」


それは一見するとボコボコにへしゃげたただの鉄の塊にしか見えなかった。が、よくよく見てみると後ろ側の形は噴射ノズルにも見えなくはないし、横にも引きちぎれた翼のような跡が見てとれる。


これは空を飛ぶための物ではないかとガンは思った。


 「これ、持って帰っちゃったらもしかしたら俺達、空飛べちゃうのかな!?」

 まだこの街には空を飛ぶ技術はない。だが、これがあればもしかしたら。そう考えたら気持ちの高ぶりを抑え切れなくなってきた。


 (なにがなんでも持って帰る!!)


と、決めたものの。引きずり出すのがやっとだったコレをあの断崖から降ろすのは困難といえた。


 (ちょっと勿体無いけど、少し解体していくか)


幸い、念のためにと取り付けて来た丸形チェーンソーがある。ガンは何処か解体しても問題ない場所を調べてみた。


 ガンガンと表面を軽く横に叩いてみた。


 (ん?)


なにか違和感を感じて再び叩いてみる。

ガンガンから途中グォングォンと言う音に変わる。


 「中が空洞なのか?」


――ここになにかあるのか?


自身の好奇心に負けたガンはそこをこじ開けてみることにした。


 丸型チェーンソーの刃をゆっくりと入れる。火花が散り、徐々にその場所が真っ赤になる。少しするとアームの爪が入る程の穴が開く。

 そこにアームを突っ込み、ギチギチと引き剥がす。途中何度か刃を入れて完全に開けることが出来た。


 「なんだこりゃ?」


そこにはなにか銀色の箱のような物がキレイに収まっていた。ひと一人が入り込めそうな大きさがなんだか棺のようにも見えて不気味に思えた。


 (なんだ、この赤いの?)


横に赤く光るランプが見えた。ガンはアームの先でそれを突っついてみると、ランプは赤から青に切り替わる。


 「な、なんだ!?」


突如、目の前の箱から機械音が響き、箱の一部が緩やかにスライドする。


 「ひ、開い、て・・・・!?」



 ガンはいま自分の目の前で起こった事に驚愕し、言葉が出なかった。

 あるはずがない、こんなことがあるはずがない。


 (人が・・・・ああ)


目の前の銀色の箱の中身。人がいるそれも年端のいかない小柄な少女がそこにいた。


 ガンは作業ウォーカーのカバーを開く。キズだらけの強化ガラス越しからクリアな肉眼が少女の姿を映し出す。

 ガンはジッと少女を見つめる。


 「し、死んでるのか?」


少女はピクリとも動かず瞳を閉じている。透き通るような肌の白さが生死の判断を鈍らせる。

 白に近く光輝く銀色の長髪が彫像物のような錯覚も覚えてしまう。だが、肌の柔らかさを感じさせる質感が彼女が血の通った人間であると確認できた。


よく見ると唇が少し朱色がかっている。生きていると言う証拠だ。

 少しずつ安堵感がガンの中で広がっていく。それと同時に違うなにかが彼の中で沸き上がってくる。


 固定ベルトを外し、身を乗り出す。この少女を瞳の外に外すことが出来なかった。


 (ああ、なんか服だけがなんかボロボロだ・・・・綺麗なのに)


妙な事を考えてしまう。どこか心がフワフワとした感覚。


 ジッと見つめるガンに少女は何も応えてくれない。



 いや


(!!?)


少女の瞳が薄く開いていく焦点が合わせられないのか。その瞳はさ迷い、そっと、ガンを映した。


 「・・・・あ」


ガンは痺れるような感覚に襲われた。少女の瞳の色はとても独特で、薄い、「紫」だった。


 だが、色に怖さは感じない。もっと別のなにか・・・・そう、新しい魔法に掛かった。そんな感覚。


 少女の唇が少し動いた。とても微かな、掠れた声が耳に届く


少女はこう言った。

――テ・・・・リー



そして、少女は再び瞳を閉じた。



 ガンはストンと身体を座席に埋めて、ゆっくりと片手を通信機のスイッチを押した。


 無意識に、このままではいけないと思った行動。


 『お・・・・した・・・・ガン!』


「・・・・親方」


『お・・・・!!』


「女の子だ・・・・」





――テ・・・・リー・・・・見て・・・・くれた・・・・タ・・・・を

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