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シン屋根裏の散歩者  作者: 石田ヨネ
第二章 調査、刺青のローションの恐怖
6/31

6 刺青のローション


          ***


 少し、時間は前後して。

 同じラブホでは、浴室にて楽しむ男女の姿があった。

「デュ、フフフ……♡」

 男が思わず、胸の高鳴りに声を漏らす。

 これから、潜水艦プレイに興じようとしており、

「さあ、僕の潜水艦が浮上するよ……♪ アメリカ海軍の、オハイオ級潜水艦がね♪ 浮上許可を願う♡」

「いいよ、浮上して、どうぞ♡」

 などと、気色悪いやりとりをし、これからまさに盛り上がろうとしていた。

 その時、


「む、わぁーりぉぉ!!」


 と、綾羅木定祐が、ザッバァーン――!! と、勢いよく浴槽の底から現れる!

 同時に、

「「うっ!? うわぁぁ~ん!!」」

 と、男どうしの悲鳴が重なった。

 あろうことか、綾羅木定祐の出現した場所というのが、ちょうど男のキンタm―すなわち、“おいなりさん”の位置だったのだ!

 そしてよりにもよって、“それ”と自分の顔とがドッキングする形になってしまったわけだった。

「ひ、ひゃぁぁぁ!! 何!? 何!?」

 相方の女も、のけぞって叫ぶ。

 目の前で、それも浴槽の床から人間が出現するという、目を疑うようなことが起きたのだから仕方がない。

 なお、どうしてこうなったか説明する。

 妖術『マ〇オの床』によって、綾羅木定祐は天井板をすり抜けたわけだが、天井板からコンクリートスラブまでは高さが低かった。

 なので当然、そのままの姿勢では余った身長分がはみ出てしまい、綾羅木定祐の上半身がフロアに出てしまったのだ。

 それも、よりにもよって、カップルがこれから潜水艦プレイをしようとしている浴槽に――

「ぐ、ぐわぁぁ!! き、汚い! 汚い! か、顔が腐るぅぅ!! 顔が、溶けるッ!!」

 綾羅木定祐が顔をおさえながら、悶絶して叫ぶ。

 その横で、

「これは……、『いなりが入ってないやん……!』じゃなくて、『いなりに入ってるんやん』ですねぇ~」

 と、相方の上市理可だが、こちらは安全な場所に降り立ち、高みの見物をしていた。

 また、悶絶するのは綾羅木定祐だけではなかった。

「うわぁぁ、ぼ、僕の股間にオッサンが!? 僕の股間にオッサンがぁぁ!!」

 と、むしろ男のほうも、見知らぬ中年が転生してくるがごとく自分の股間に現れ、取り乱して叫んでいた。

「と、トラウマになるぅッ! トラウマになるぞぉ!! 理可氏ィッ!!」

「まあ、相手もそこそこトラウマでしょうね。とりあえず、綾羅木氏、ここから移動するし」

「ぐぅぅ……、か、顔がッ、顔が溶ける……」

「いや、いいから!」

 と、上市理可がひとごとのように言いつつ、錯乱気味の綾羅木定祐に移動を促す。

 そうしつつ、

「あっ? すんませんした」

 と、上市理可はカップルたちに平謝りし、そのまましれっと、相方の綾羅木定祐を連れて床をすり抜け、消えて行ってしまった。

 そんな、嵐のようなできごとの後、

「……」

「……」

 と、カップルたちは唖然としていた。

「なっ……、何だったの? い、今の……?」

「い、いやいや! こ、こっちが聞きたいよ! ――てか、うげぇぇ……! ま、まさかの、オッサンの顔がッ、股間にッ――!!」

 と、男は先の光景と触感がフラッシュバックし、再び気持ち悪くなる。

 とりあえず、起きたことのすさまじさゆえ、ふたりはこのあとの情事を行う気力が、一切消え失せてしまっていた。



          (2)



 綾羅木定祐と上市理可のふたりは、一組のカップルの一夜を台無しにしながらも、そのままラブホテルで調査を続けていた。

 そうしてついに、ふたりは怪しい怪人たちを見つけることになる。

 ドブネズミ怪人と、ハクビシン怪人とでも言うべき輩のふたりが、このラブホテルの天井裏の片隅で、何かをしようとしていた。

 そこへ、


「おい、お前たち」


「「うぉっ――!?」」

 と、綾羅木定祐が突然かけた声に、怪人たちは驚く。

 しかも、怪人たちは振り返ってみると、

「「なっ!? なんじゃこりゃああ!?」」

 と、思わず、さらに驚愕の声をあげた。

 怪人たちが見た先――

 綾羅木定祐と上市理可のふたりの上半身がコンクリート天井に貫通したまま、下半身だけという変態的な絵面で、こちらに迫ってきていたのだ!

 そうしてまた、

「「う、うわぁぁぁ!!!」」

 と、人間たちでなく、怪人たちのほうが叫び声を上げる。

「な、何だぁ!? に、人間の下半身が追ってくるぞォッ――!!」

「く、来るなぁ!! 来るなぁ!!」

 怪人たちは、腰が抜けた状態で後ずさりする。

 そこへ、

「おい! 大人しくしろ! お前たち!」

 と、追撃をかけるように、中腰に屈んだ綾羅木定祐の顔が現れる。

「ひっ!? ひぃぃっ――!!!」

「に、逃げるぞッ!!!」

 怪人たちは何とか立ち上がり、逃げ出すも

「ま、待てい!!」

「はいはい、そこの二人、待ちなさーい。暖かい、お風呂で、えっち、するん、だ・ろ・な!」

「いや、どんなテンションよ?」

 と、綾羅木定祐と上市理可のふたりが、追ってきた

 なお、その追走劇中も当然、縦横無尽に天井裏を移動しながら追うわけであり、またしても、


 ――ザッバァァーッ!!!


 と、綾羅木定祐が風呂場から現れることになる。

 そうして、案の定ーー

 今度の部屋にも、カップルがいた。

「なっ、何じゃぁぁ!?」

 厳つい刺青にスキンヘッドで、かつローションまみれの大男と、

「は? 何よ、アンタたち……!」

 と、その恋人か愛人なのか、はたまたデリヘル嬢かは定かでないが、妖艶な花魁風の女が立ちはだかる。

 続けざま、

「ちっ! こんなとこっからカチコミかけやがって! こんガキャぁぁッ!!」

「おいおい、こんな異次元のカチコミするヤツがおるんかーい!?」  

 と、刺青の大男が怒って、綾羅木定祐に襲いかかってきた。

「うぉぉ!! 行っくでぇぇ!!」

 刺青のローションが、覆いかぶさるように綾羅木定祐に突進してくる!

 だが、その動きを、見切った綾羅木定祐が踏み込んで、

「フン! 『こう見えて私結構強いんですよ』パァーンチッ!!」

 と、技の名前を出しつつ、刺青のローションにボディをかます!

 その威力は、ヘビー級の格闘家を破壊するに十分な威力で、

 ――ブォン!!

 と、まさに炸裂しようとした! その刹那、


 ――ヌッ、ルン……!


「な、何ぃッ!?」

 と、綾羅木定祐が驚愕した。

 スローモーションのように、まったく、無い手ごたえ。

 同時に、若干の、ヌルっとしてスベッとした感触。

 男は超人的な体術で、パンチをいなしたのか? 

 はたまた、某海賊漫画のス〇ス〇の実のような能力か?

 いや、

「こ、これはッ!? ローションだッ――!!」

 と、綾羅木定祐が、思わず声をあげた。




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