6 【刺青のローション】
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すこし、時間は前後して。
同じラブホでは、浴室にて楽しむ男女の姿があった。
「デュ、フフフ……♡」
男が思わず、胸の高鳴りに声を漏らす。
これから、興じるのは潜水艦プレイ――
「さあ、僕の潜水艦が浮上するよ……♪ アメリカ海軍の、オハイオ級潜水艦がね♪ 浮上許可を願う♡」
「いいよ、浮上して、どうぞ♡」
などと、気色の悪いやりとりをしつつ、これから、まさに盛り上がろうとしていた――!!
その時、
「む、わぁーりぉぉッ――!!」
と、浴槽の底からマリオの土管のごとくッ――!! 綾羅木定祐が、
――ザッ、バァーンッ――!!
と、勢いよく水を滴らせて現れたのだ!!
すぐ同時に、
「「うっ!? うわぁぁ~ん!!」」
と、男どうしの悲鳴が重なった――!!
あろうことか――!?
綾羅木定祐の出現した場所というのが、悪いことに!! ちょうど男のキンタm――、すなわち、“おいなりさん”の位置だったのだ!!
そして、よりにもよって、男の【いなり】と自分の顔とが、ドッキングする形になってしまったわけである!!
「ひっ、ひゃぁぁぁッ――!! 何!? 何!?」
相方の女も、のけぞって叫ぶ。
目の前で――、それも、浴槽の床から人間が出現するという、目を疑うようなことが起きたのだから仕方がない。
なお、どうしてこうなったか――? を、説明する。
妖術【マリオの床】によって、綾羅木定祐は天井板をすり抜けたわけだが、天井板からコンクリートスラブまでの高さであるが、これが低かったのだ。
ゆえに、当然、そのままの姿勢では、余った身長分がはみ出てしまうわけであり、綾羅木定祐の上半身がフロアに、風呂場に出てしまったのだ。
よりにもよって、カップルが、これから潜水艦プレイをしようとしている浴槽に――
「ぐッ!? ぐわぁぁぁ――!! き、汚いッ!! 汚い!! かっ、顔が腐るぅぅ――!! 顔が、溶けるッ!!」
綾羅木定祐が顔をおさえながら、悶絶して大絶叫する!!
その横で、
「これ、はっ……!? 【いなりが入ってないやん】……!!』じゃなくて、【いなりに入ってるんやん】ですねぇ~」
と、相方の上市理可だが、こちらは安全な場所に降り立ち、高みの見物をしていた。
また、悶絶するのは、綾羅木定祐だけではなかった。
「うわぁぁ!! ぼ、僕の股間に、オッサンが!? 僕の股間にオッサンがぁぁ!!」
と、むしろ男のほうも、見知らぬ中年が転生してくるがごとく――、自分の股間に現れたわけであり、取り乱して叫んでいた。
「と、トラウマになるぅッ!! トラウマになるぞぉぉー――!! 理可ァ氏ィッ!!」
「まあ、相手も、そこそこトラウマでしょうね。とりあえず、綾羅木氏? ここから、移動するし」
「ぐぅぅ……!! か、顔がッ、顔が溶ける……」
「いや、もう、いいから!!」
と、上市理可が他人事のように言いつつ、錯乱気味の綾羅木定祐に移動を促す。
そうしつつ、
「あっ? すんませんした」
と、上市理可はカップルたちに平謝りし、そのままシレッ――と、綾羅木定祐を連れ、
――ビ、ィィン……
と、床をすり抜け、消えて行ってしまった。
そんな、嵐のような出来事ののち、
「……」
「……」
と、カップルたちは、唖然としていた。
「なっ……、何だったの? い、今の……?」
「い、いやいや!! こ、こっちが聞きたいよ!! ――てか、うげぇぇ……!! ま、まさかの、オッサンの顔がッ、股間にッ――!!」
と、男は、先の光景と触感がフラッシュバックし、ふたたび気持ち悪くなる。
とりあえず、起きたことの、すさまじさゆえ……、ふたりはこのあと、情事を行う気力が、一切消え失せてしまっていたという。
(2)
綾羅木定祐と上市理可のふたりは、一組のカップルの一夜を台無しにしながらも、そのまま、ラブホテルで調査を続けていた。
そうしてついに、ふたりは、怪しい怪人たちを見つけることになる。
ドブネズミの怪人と、ハクビシンの怪人とでも言うべき、輩のふたりが、このラブホテルの天井裏の片隅で、何かを企んでいたのだ。
そこへ、
「――おい、お前たち」
「「うぉ、っん――!?」」
と、綾羅木定祐が突然かけた声に、怪人たちは驚く。
しかも、怪人たちは、振り返ってみると、
「「なっ――!? なんじゃこりゃああー!?」」
と、思わず、驚愕の声をあげた。
怪人たちが見た先――
すなわち、綾羅木定祐と上市理可のふたりの上半身はコンクリート天井に貫通したままで、見えるのは下半身だけという【変態的な絵面】で――!! こちらに迫ってきていたのだ!!
そうしてまた、
「「うっ、うわぁぁぁ!!!」」
と、人間たちでなく、怪人たちのほうが叫び声を上げる!!
「な、何だぁ!? に、人間の下半身が追ってくるぞォッ――!!」
「くッ、来るなぁッー!! 来るなぁッ――!!」
怪人たちは、腰が抜けた状態で後ずさりする。
そこへ、
「おい!! 大人しくしろってんだよ!! お前ら!!」
と、追撃をかけるように、中腰に屈んだ綾羅木定祐の顔が現れる!!
「ひっ!? ひぃぃっ――!!!」
「に、逃げるぞッ!!!」
怪人たちは何とか立ち上がり、逃げ出すも、
「まっ、待てい!!」
「はいはい、そこの二人、待ちなさーい。暖かい、お風呂で、えっち、するん、だ・ろ・な!」
「いや!? どんなテンションよ!?」
と、綾羅木定祐と上市理可のふたりが追う!!
なお、その追走劇中も当然、縦横無尽に天井裏を移動しながら追うわけであり、またしても、
――ザッバァァーッ!!!
と、これで二度目の、綾羅木定祐が風呂場から現れることになる。
そうして、案の定――
円形の、ローマを思わせる浴槽の先――、洗体マットととも、カップルの姿があった。
「なっ!? 何じゃぁぁ!?」
厳つい刺青にスキンヘッドで、かつローションまみれの大男と、
「は? 何よ、アンタたち……!!」
と、その恋人か愛人なのか、はたまたデリヘル嬢かは定かでないが、妖艶な、花魁風の女が立ちはだかる!!
続けざま、
「ちっ!! こんなとこっからカチコミかけやがって!! こんガキャぁぁッ!!」
「おいおい、こんな異次元のカチコミするヤツがおるんかーい!?」
と、刺青の大男が怒って、綾羅木定祐に襲いかからんとする!!
「うぉぉッ!! 行っくでぇぇッ――!!」
刺青のローションが!! 覆いかぶさるように綾羅木定祐に突進してくる!!
だが、その動きを、見切った綾羅木定祐が踏み込むなり、
「フン!! 『こう見えて私結構強いんですよ』パァーンチッ!!」
と、技の名前を出しつつ、【刺青のローション】にボディをかます!!
その威力は、ヘビー級の格闘家を破壊するに十分な威力であり!! まさに、
――ブォン!!
と、炸裂しようとした――!!
その刹那、
――ヌッ、ルン……!!
「な、何ぃッ――!?」
と、綾羅木定祐が驚愕した。
スローモーションのように、まったく、無い手ごたえ――
同時に、若干の、ヌルっとしてスベッとした感触と――
男は、超人的な体術で、パンチをいなしたのか?
はたまた、某海賊漫画のスベスベの実のような能力なのか?
いやっ――、
「こ、これはッ!? 【ローション】だッ――!!」
と、綾羅木定祐が、思わず声をあげた。
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