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シン屋根裏の散歩者  作者: 石田ヨネ
第二章 調査、刺青のローションの恐怖
5/31

5 ムワ、ァリオの床――



          (1)



 その日の夜。

 綾羅木定祐と上市理可のふたりは、とりあえず、怪人に関して調べることにした。

 しかし、怪人たちの気配を探るといったものの、あろうことかーー、そこは新宿のラブホテルだという。

「――と、いうわけでだ、このドラえもん野郎」

『はぅ、』

 と、綾羅木定祐は、妖狐の神楽坂文と電話をしていた。

 なお、テレビ電話で様子を見るに、やはり妖狐は箱根に小旅行中だった。

「いまから、このラブホで調査をするわけだが、屋根裏、天井裏を調査するの、何かいい妖具を出してくれよ? あ、タケノコ、忘れてないよな?」

「そっすよ。ずいぶん、いい温泉に入ったんでしょ? それくらい、出してよね。あ、ちゃんと、タケノコ掘ってきてよね」

 と、ふたりは念を押しつつ、

『ふむ? 何だ? 貴様たち、ラブホテルにいるのか? いや、なかなか良いラブホテルではないか? どうだ? 色んなプレイも――、ソフトSMや医療プレイ、それこそカンチョープレイも、やりたい放題だぞ?』

「だってさ、綾羅木氏? どうする?」

「どうするじゃねぇよ。てめぇら、頭の中ドラ焼きでできてんのか?」

 と、綾羅木定祐だけが、つっこんだ。

 本題に戻って、

「で? 何か、いい妖具があるのか? どうなんだ? このドラ焼き野郎」

『屋根裏・天井裏を調べるのに、妖具がいるだと? 貴様たち、いちおう異能力者だろ?』

「まあ、そうだが、……しかし、この狭い天井裏をどうやって異能力で調べればいいのだ? 入って、動くだけでも大変だぞ」

『ふむ』

 と、妖狐は電話越しから、ラブホの天井の方を透視してみる。

 天井板とコンクリートスラブの間の空間は一メートルもなさそうで、なおかつ、配線や配管の多い空間。

 綾羅木定祐の言うように、狭く移動しにくいのは間違いない。

「それか、何か、魔界植物とか、ちっちゃい魔獣でも召喚してくれないか?」

「それ、良いし。それだと、私たちが天井裏に入らなくて済むし」

『また、ラクすることばかり考えおって、この怠け者ども』

「フン、呑気に箱根に行ってるお前に、言われたくないんだが」

 綾羅木定祐が、嫌味を言う。

 すると、


『やれやれ、仕方ないな……。ムワ、ァリオの床――!」


 と、妖狐が言うと同時、

 ――ホワンァッ……!

 と、仄かな光のオーラのようなナニカがーー、綾羅木定祐と上市理可のふたりの下から、まるでコピー機のスキャンするかのように走った。

「「“マリオの床”――、とな?」」

 ふたりが、声を揃える。

『ふむ、そのとおりだ。妖具を出すでのなく、貴様たちに妖力を掛けさせてもらった。ある種の、空間変化型の異能力とでもいうべきか――』

「空間変化型の異能力、だと? それで、どうなるわけだ? クソダヌキ」

『まあ、簡単に説明する。この能力をかけた貴様たちに対する、空間の、あらゆる水平物がな、ファミコンのマリオの床のような判定に変わるのだ。天井であれ床であれ、ぶつからずにすり抜けるたりすることが可能になる――』

「ああ、何となく、イメージできるかも」

 と、上市理可が確かに、ファミコンもしくはスーパーファミコン版のマリオを思い浮かべる。

「何だ? すると、ここからジャンプすることで、天井板をすり抜けて侵入でき……、なおかつ、上のコンクリートスラブに頭をぶつける心配もないのだな?」

『そのとおりだ。まあ、ものは試しだ。とりあえず、私は箱根でのんびりしているから、あとは貴様たちで何とかしろ。カスども』

 と言って、妖狐はそのまま電話を切った。

「ちっ、切りやがったし、あのクソドラ焼きポンコツダヌキ」

「ああ、ムカつく。こっちはこれから調査だってのに」

 と、ふたりはイラつきながらも、

「まあ、仕方ないな。とりあえず、試してみるか? 理可氏」

「はぁ、仕方ないわね……」

「しかし、ラブホで皆が盛り合ってる中、我々は仕事をしているんだよな?」

「そう考えると、やっぱ、ムカつくね。あぁ~あ……、あったかい、お風呂で、エッチするん、だろな♪」

「僕も帰ろ、お家へ帰ろ……、ああ、帰りて」

 と、昔話のようなナニカを口ずさむ上市理可に、綾羅木定祐も続きつつ、

「とりあえず、いくか」

「「せぇーのぉ……! 暖かい・お風呂で・エッチするん、だ! ろ !な!」」

 と、ふたりは勢いよく、ベッドから天井に向かってジャンプした。




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