4 【蟹イントネーション】で相槌
(3)
妖狐が、帰ってのち――
綾羅木定祐と上市理可は、いちおう、事件に関する資料に目をとおしていた。
「はぁ……、口の中で、爆弾が、爆発ねぇ……」
綾羅木定祐が、「やれやれ」とつぶやき、
「ふ、ぇぇ……」
上市理可が、気の抜けた相づちのような何かで答えつつ、ワイングラスにいれた、濃い赤紫のドクターペッパーの液体をすする。
ふたたび、続けて、
「そんで……、天井には、謎の穴、と――」
「穴、ぁ……」
「何だよ? その、【屋根裏の散歩者】的な“ナニカ”は?」
とここで、綾羅木定祐も、【屋根裏の散歩者】とのワードが思い浮かんだ。
「屋根裏の、散歩者――? 何、だっけ?」
上市理可が、聞く。
「ほら? あの、江戸川乱歩の小説の――、何か、ニートっぽい主人公が、屋根裏を徘徊するのにハマって……、ある日、ムカついた隣人を、ノリで屋根裏から毒殺しちゃう――、ってな話」
「ああ……? 何かそんな話、あったよう、な……? てか? ニートだったん? その、主人公って?」
「親の仕送りで暮らす無職の青年――、当時にしては、たぶん裕福なニートじゃね?」
「たし、蟹」
上市理可が、【蟹イントネーション】で相槌しながら、
「――で? 何で? 屋根裏を徘徊するなんてのを、趣味に?」
「さあ? ネットで検索でも、してみたらー」
「はぁ、」
と、綾羅木定祐に言われたままに、そのまま、ネットで【屋根裏の散歩者】と検索してみる。
その中で、ざっくりと、あらすじの書かれたものがあった。
開いて、しばらく読んでみたところ、
「何か、この、ニート主人公? 犯人だっけ――? って、“色んな娯楽を試してみたけど、どれもあまり興味を持てなくて、結果、無気力に生きてきた人間”――、的なことが書かれてあるんだけど……、これ? わりと、一般ピープル的にも、結構いるんじゃない? 現代じゃ?」
と、上市理可は、犯人のプロフィールと経緯から思ったことを問いかける。
「云うて、何だかんだ、経済的に豊かになりましたからねー」
と、綾羅木定祐が、適当に流す。
また、上市理可が続けて、
「それが、明智小五郎に出会ってから、街中に、何か変な暗号サインを書いたり、意味なく他人を尾行したり、女装にハマってったり……、まあ、無害だけど、“若干やべぇヤツ”になってきてんじゃん? ――てか? そうすると、これ? 3分の1くらい、明智が悪くね?」
「まあ、最終的に、癖のスイッチを入れたのは、犯人本人ですからねー」
と、綾羅木定祐は、相変わらずの適当な相槌しかしない。
懲りずに、上市理可が続けて、【屋根裏の散歩者】の犯人について、
「――で、引っ越したアパートで、たまたま押し入れから屋根裏への入り口を見つけて、そっから屋根裏の徘徊と、下の階の覗きにハマり出した――、ってわけ、か……。てか、私も同じ状況になったら、たぶん同じことする。何か、かくれんぼ的なスリルがあって、面白そう」
「微妙に、分かる。忍びこむこと、覗き見ること――、“相手に気づかれないようにしつつ相手を見る”とは、ある種、人間に共通するスリルだよな」
「それこそ、アレね……。ウンコを我慢していることを悟られず、漏らさないようにする、的な――」
「何、その? 微妙に、強引に、ウンコネタに持って行こうとする“こじつけ”は……? まあ、だからこそ、軽犯罪に手を出す輩が、この世からいなくならないわけだが」
そう、ふたりが話していると、
――カラン、コロン♪ カラン、コロン♪
と、突然に、綾羅木定祐のスマートフォンが鳴る。
画面を見て、
「ちっ、BBAからか」
と、確認した着信の主――、BBAとは、特別調査課の室長を務める、松本清水子のことだった。
なおかつ、松本は、綾羅木定祐の元嫁でもあるという。
とりあえず、電話に出て、
「はぁ、何?」
『ねえ? アンタたち、いま暇でしょ? ちょっち、手伝ってほしいことがあるんだけど』
「おい、その問いは、暇じゃないと返せるけど?」
『ああ、もう、この時点でヒマ確ね。何か、碇賀たちが、いま調べている事件の調査を、手伝ってほしいってさ。まあ、アンタたちも知っているかどうか、分からないけど、ここ最近続いている“連続殺人事件”――、何か、口の中に爆弾を入れられて、爆殺するって手口の――』
と、電話の向こうから、強引に話を進める松本に、
「ああ? ちょうど、さっき、あのドラえもん野郎から、資料貰ったぞ」
『は? アイツから? どうせ、ウチんとこのパクったか、ハッキングでもしたんでしょ? まあ、それなら、話が早くて別にいいんだけど……』
「それで? この件について、何を調べて。協力したらいいんだ? それと、警察や碇賀のヤツらは、どう考えているんだ?」
と、綾羅木定祐が聞いた。
『まあ、碇賀たちは置いといて……、他の警察の連中は、さ? 何か、ガイシャの共通点が、皆、同じ歯科に通ってたみたいだからさ? 詰め物や義歯に、爆弾を仕掛けたんじゃないか、って――』
と、松本が答えると、
「マ――?」
キョトンとする綾羅木定祐に、
「ま」
と、松本が、【ま】だけで受け答える。
そんな風に、元夫婦どうし、【ま】で通じ合いながら、
「嘘、やろ……? まあ、ありえなくないんだろうけど、そんな珍説、調べているのか?」
『みたい。とりあえず、ウチらは“そうじゃない方向”で、調べないといけないからさ』
松本は答える。
そうじゃない方向とは――、異能力者、あるいは怪人や魔物、もしくはその他の、思いもよらぬテクノロジーやガジェットを用いた犯行の可能性である。
「で? 碇賀たちは、何か、仮説を考えているわけ?」
『いや、今のところ』
「それくらい、考えておけよ。それで? とりあえず、私らは、どこから手をつければいいのか?」
『そうね、とりあえず、怪人方面から調べればいいんじゃない?』
「はぁ、」
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