23 口元からイチゴジャムとホイップクリームを滴らせつつ
(1)
早朝のこと。
――バサ、バサ
と、子気味のよい、羽音を立てて。
まるで、「ただいま」と言わんばかりに、小っちゃい”それ”は戻って来た。
そう――
その小っちゃいナニカこそ、鳥の、キツツキだった。
ただし、そのキツツキの表情はというと、ふつうのキツツキの“それ”とは違った。
まるで、魔界の使いとでもいうべきか?
マンガキャラクターのような、イタズラ的で、子憎たらしい表情。
そして、そんなキツツキが戻ってきた場所はというと、鉄筋コンクリートの建物で、白を基調とした室内には、高性能のパソコンに、様々な実験機器や専門書類と――
まあ、恐らくは研究室だろう。
すると、そこへ、
「――お帰り♪」
と、先ほどのキツツキ挨拶に答えるように、女の声がした。
白衣姿に、インテリメガネ。
やや長い髪を後ろで結った、20代後半か、30代くらいの女――
女は、名を根占三四子という。
生物と情報デバイスの融合を研究している研究者であり、なおかつ、異能力者でもある。
そして、このカトゥーンチックな雰囲気のキツツキは、この根占三四子のお気に入りのペットとでもいうべきか、相方のようなものだ。
電子デバイスと脳を接続したキツツキは、さながら、優秀なスパイのような、高度なインテリジェンス能力を持つ。
また、この根占三四子の異能力と併せることで、その嘴を以って、空間に穴を開ける能力も発動することを可能にする。
それによって、コンクリートの壁であれ、容易く侵入できるわけだ。
ゆえに、縦横無尽に様々な建物に侵入し、一連の、穴からの精密爆殺を行うことが可能だったのだ。
根占三四子は、相方のキツツキに御褒美のおやつをあげながらも、自分のためにコーヒを淹れる。
イチゴのジャムとホイップクリームをかけたワッフルなど用意し、少し早いが、優雅なブレックファーストの準備をする。
「フフ♪ まさか、本当に郷田を犯人として捕まえちゃうとはね♪ おもしろ♪」
満悦な様子で、根占三四子は嗤う。
その微笑は、目元に徹夜明けのクマが少し残りながらも、インテリ女子のかわいい一面的のようにも見える。
ただ、その口元はというと、どこか狂気的なものを感じさせていた。
「でもぉ……? その、警察が、犯人と思った郷田が、まさか爆殺されちゃうなんてねぇ……? さあ、どうするかな?」
根占三四子が、口元からイチゴジャムとホイップクリームを滴らせつつ、悦に浸りながら独り言を口にした。
そう――
それは、何とも、愉快すぎる気分だった。
この一連の爆殺事件の犯人であると確信していた容疑者が、まさか、逮捕をしたその夜のうちに爆殺されることになるとは――
警察たちの面目は丸つぶれであり、また、自分たちが舐められたことに怒り心頭だろう。
「さて、と――♪ ……でも、私も、次はどうしようかしら?」
根占三四子は、コーヒーカップを置いた。
気分はよいのだが、しかし……、その次に何をするかまでは、思い浮かんでいなかった。
振り返るに、郷田が犯行に関係があると警察にミスリードさせるべく、郷田の歯科医院の客たちを調べてターゲットにし、また、歯科医院に偽装工作をすることに労力の大半を費やしてきた。
それを、研究の合間を縫って、バレないように行なってきたことは、何ともスリリングだった。
ただ、郷田というミスリードの材料が使えなくなってしまった以上、別の手を考えないといけない。
それに、同じような犯行、手口というのも、マンネリ化して飽きがきてしまう。
ゆえに、
「次は、もっと面白くなるべきことを、考えないとね――♪」
と、根占三四子はそう言いながら、相方のキツツキに微笑した。
その時、
「ーーそうだな? 次の面白いネタは、おまいがタイーホされる……、でいいか?」
「――!?」
と、突然にーー
どこかからした声に、根占三四子は驚いた。
そうして、
「……誰、なの? 貴方たち?」
と、根占三四子が、ゆるりと振り返った先――
「え? 私たちが、答えなきゃいけないの?」
「何だ、それ? ダリぃな」
などと答える声とともに、
ーーポワン……
と、床から開いた穴からは、やる気なさそうな顔した綾羅木定祐と上市理可のふたりが、姿を現していた。
「まさか、爆殺事件の真犯人が、研究者の女とはな……。根占、三四子」
「意外、でした?」
指差すような視線を向ける綾羅木定祐に、根占三四子がニッコリと笑う。
「……いや、別に」
と、綾羅木定祐がひと言だけ返す。
「ねー、ねー? どうして私たちが、アナタが犯人だと分かったのか? 知りたくない?」
今度は、上市理可が根占三四子に聞く。
「さあ、特に……。まあ、話してくれるというなら、聞きますが――」
と、根占三四子はあまり関心なさそうな様子で答えつつ、綾羅木定祐と上市理可のふたりに、話の続きを促した。
感想、レビュー、ブクマ、評価、お願いするのだ!(ず○だもん風ボイスで)




