21 どう考えても、俺……、すっげぇ潔白だし
(2)
ここで、場面は、郷田のほうへと変わる。
逮捕された郷田は、そのまま拘置所に入れられていた。
「へ、へーき、へーき……! へーきだから!」
郷田は、そう、自分に言い聞かせようとする。
だが、その言葉とは逆に、表情は強張り、がくがくと震えていた。
「だ、だって! どう考えても、俺……、すっげぇ潔白だし……!」
郷田は言って、なんとか自分を保とうとする。
しかし悲しいかな、やはり、ひどく動揺はおさまらない。
そもそも、この事件のことは、ニュースやネットで多少話題になっていたため知っていた。
歯科の従業員たちの間でも時折話題になっており、事件の犠牲者の中に、自分の医院の客がいることも知っていたのだ。
ゆえに、少しくらいは気にしてはいたものの、まさか、こんなことになるとは――、自分が容疑者として捕まることになるなど、夢にも思っていなかった。
そうであるから、ひどく動揺するのも、仕方のない話だろう。
「お、俺が……!? ば、爆弾を、仕込んだって……!? そっ、そんな、バカなッ……!」
郷田は憤りに、ひとり言を叫ぶ。
いまでも、信じられない。
まるで、狐にでも化かされているような気分だった。
それでも、
「し、しかしっ……、クソッ! も、“もの”があった以上……、どう言い訳しても、難しいじゃないか……!」
と、爆弾というものが実際に“あった”というのは、強烈な、揺るぎない事実だ。
気持ちが折れそうにならずにはいられない。
例えば、の話――、何か、アウトロー漫画のように、自宅に帰ってみると、身に覚えがないが何故か覚せい剤の注射器と粉が置かれてあり……、そして、これまたタイミングよく、タレコミがあったと称して警察が部屋に入って来ようものなら……、まあ、自分の身の潔白を訴えても、99.9パーセント、通用するワケがないだろう。
それと、同じことだ。
「そ、そうすると……! これは……、誰かが、俺を、ハメようとしているのか――!?」
郷田は、そのような、疑心暗鬼な考えが浮かぶ。
もし、そうだとすると、真犯人は商売敵だろうか?
それとも、過去に治療をした客が、気に入らない何かがあり、自分に対して逆恨みでもしているのか?
あるいは、歯科技工士の仕業だろうか? しかし、彼も、自分と同じく警察に拘留されている。
「うぐ、うっ……! どうする!? どうする!? 俺!?」
焦燥感が募る中、郷田は自答しながらも、だんだんと憔悴していく。
そんな、気が気でない状態――
まるで、天国から、いっきに地獄へ落ちるかのような夜だ。
「……」
と、不安に、寝れずに、げっそりとしていた。
だが、そこは人間という生き物の性か――? あるいは、もともと寝つきのよいからだろうか――?
夜も3時くらいを回ってきたころのこと。
ここで、“睡魔”が、急襲してくることになる。
「ああ……、もう、ダメ、だ……」
何がダメなのか、郷田は薄れる意識の中、
――ドサッ……
と、仰向けになった。
そして、同時に、そんな郷田の下へ、
――ヒ、タ……、ヒタ……
と、しずかにして、“悪意”が忍び寄っていたのであったが――
***
そういうわけで、その郷田のところから、頭上――、板一枚を隔てただけの空間でのことである。
狭い天井裏を通じ、郷田に近づこうとする“ナニカ”の姿があった。
ただし、その、招かれざる“散歩者”というのは、乱歩作品の、【屋根裏の散歩者】のようには、異世界をフラフラと楽しんでやろうという好奇心はあまりなさそうだった。
その“散歩者”は、どこかイタズラでも企むような口元で、
――キュル、キュル……
と、サイレンサーでもつけているがごとく――、静かにして、正確に穴を開けていく。
「……」
ジィッ……と、散歩者は“穴”から、下界を見る。
まるで、冷酷な狙撃手のような視線を、天井板の直下――、“穴”の下の、郷田の口へと向ける。
そして、
――ヒュッ……
――ストンッ……
と、あたかも超精密爆撃のような投下線で、ドングリかパチンコ玉ほどの大きさの“何か”を、郷田の口へと向かって投下した。
その、次の瞬間、
「はん、むたr――!?」
――ボ、ン……!!!
と、反射的に口が反応するのと、ほぼ同時――、投下された“ナニか”は爆ぜたのだ!!
手りゅう弾ほどではないが、人間の頭部を弾けさせるには十分な威力――!!
高性能爆薬の硝煙と、血しぶきが漂った。
そして、
――サ、ァァッ……
と、煙が晴れるとともに、“何が起きたか”が、あらわになる。
少々チャラくもイケメンでとおっていた、名の知れた歯科医の郷田剛だったが、その顔は、“見るも無残なもの”になっていた。
まるで、爆竹でも仕込まれたスイカのように、ひどく損壊し、赤く散っていたのだ……
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