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1. 森のなか


「あー、本当に感覚がリアルなんだな」


目の前の木を触りながら、独り言。


最新技術ってのはここまできたか、すごいもんだ。


見え方は当然、木のざらざらとした感触も、植物豊かな自然の匂いも、少し暑いが森の中ならではの爽やかな空気もはっきりと感じることができる。


「これは究極の擬似森林浴だな、ハハハ」


もうこれからの時代は、海水浴や登山の需要も、このVRという技術に奪われていくのかも知れない。


それくらい現実感がすごかった。気を抜くと、騙されそうになる。


初期設定と同様、麻のような生地の服に、皮の胸当て、薄いマントを着ているが、かなりリアルな密着感。

普段の体感と比べても全く違和感がない。


「あー」


頭に手を置き、目元まで動かしてみる。


頭にヘッドギアをつけている感覚もないし、CG感もない。


ゲームならあるはずのメニュー画面のアイコンもないし、ログアウトの方法もない。


「あ゛ぁ〜!」


つい、しゃがんでしまう。


これはまさか、まさかもしかして、まさかだよ?


本当に異世界転移してるなんてこと、まさかね。


だってログインした最初の最初。


平素じゃないしまだご愛顧してない、どういたしまして。


能力アイテム引き継げないし、明日大学だし、現実で服着てないし。


「やばいよこれ、現実だよ」


いつも家の中だとパンツ一丁のため、服の感触の違いにより嫌でもわかってしまう。


さっきまでいた白い空間での感覚は、間違いなく裸のものだった。


しかし、今は服を着ている感触がはっきりと。


これは間違いない。

すごく嫌だけど認めざるを得ない。


俺は衣服を着ている・・・じゃなくて、異世界に来ている。


「おいー。俺にはまだいらないよ、この特典」


ゲームで十分だったよ、俺は。

素人には刺激の供給過多だわ。


頭が痛くなってきた。


はっきり言うわ、初ログインからのゲーム異世界転移は迷惑なのよ。


18年間の人生でまともにゲーム機を買ったのはこれが初めてだ。


なに、そのビギナーズラック。


もっと居ただろ、相応しい人。

ちゃんとした玄人さんお呼びなさいな。


こちとらチュートリアルすら満足にこなせてないのに、サバイバルスタートって、もうそれただの遭難じゃん。


他の1万人のプレイヤーになんか申し訳なくなってきた。


ガチでランダムしてんじゃねえよ。

忖度しろ、忖度。


運営のメッセージも

『お使いのキャラクターの能力やアイテムは、転移後の世界でもご利用いただけます。』とか、明らかに初心者想定していなかったじゃん。


能力ぺったんこだし、木剣に背嚢ご利用できても。


そういや、一ヶ所名前反映できてなかったし。


絶対に担当者(神?)ポンコツだわ。

ある意味テンプレなのかこれ、もしかして。


あー、過去一でへこむわ、これは。


「あー、はぁー、ふぅ・・・おしっ!」


まあ、いつまでも悩んでいても仕方がない。


本当に認めたくはないが異世界転移してしまった。


VRMMOの世界に閉じ込められている可能性もあるが。


仕様によっては、現実ではパンツ一丁にヘッドギアのまま病院搬送なんてことになってるかも。


「・・・・」


最悪だ。搬送される俺を見て情けなくて涙を流す家族までイメージできた。


決めた。これは異世界転移だ。


ゲームのバグだとしてもログアウトできない以上、とりあえず行動しなければいけない。


「まず、周辺の安全確認と、持ち物の確認だな」


周辺は・・・うん、森。


周囲を見渡すが、当然人の手が入っていない訳だから、枝も葉も伸び放題。


茂みなんかも高く、薄暗くあまり広い範囲を見ることはできない。


少しだけ空間が開いている場所があったので、周囲を一通り見てから問題がないと判断して腰を下ろした。


「当然、モンスターとか、魔物ってのがいるんだよな」


あまりにも未知の脅威だが、素人にできる索敵などたかが知れている。


とりあえず当たりを見渡し、周囲には軽く木の蔦を張っておいた。


ハリボテだが無いよりはいいだろうし、生物が近づいてきたら流石にわかるだろう。


「さっさと持ち物を確かめて、移動するか」


背嚢には水袋と携行食、十徳ナイフのようなものに応急処置セット、黒いコインが10枚入っていた。

まあ、テンプレで考えれば銅貨だろう。


街に入るのに必要なパターンも想定されるので、人里に出るまで基本的には使わないでおこう。


あとはカードのようなもの。

何かの数字と『サクラ』『自由民』ということだけ書かれたシンプルなつくり。

おそらく身分証か何かだろう。


「食料はできるだけ分けて食べても5食分、水は1.5Lってところか」


1.5Lの水でどれだけ活動できるのか記憶には無いが、あまり多いとは考えない方が良さそうだ。


「火種になるものが入っていないということは、人里が近いのかも知れない」


まさか運営がポンコツということはないよな。ふふ。


玄人勢の装備なら野営は余裕でしょ、みたいな浅慮はないよな。

ありそう、くそったれ。


「装備は皮の胸当てに木剣、頼りないな」


というか魔物どころか、野生生物とすら接近戦ができる気はしない。


「魔法使いを選ぶべきだったか」


木剣を両手で持ち、素振りしてみる。


「肩が動くようになってるな」


高校野球で肩を怪我してしまい、動かすのに少し違和感があったのだが、それがなくなっている。


以前の自分の体ではなく、キャラクターの体ということか。


元の自分も今のキャラクターも黒髪だから、最初は違いがわからなかったが、身長が少し伸びていて、体格もかなりしっかりしている。


「このウェイトに筋肉なら、ある程度パワーは期待できるな」


新しい自分の筋肉に少しいい気になりながら、一通りの確認を終える。


本当なら服を全部脱いで、この筋肉を解放したいところなのだが、今は控える。


「とりあえず、川を探しながら今日の寝床探しだな」


水の確保として川は見つけたい。


その上で安全に眠れるところを見つかればよし、それが人里なら言うことはない。


「頑張っていきましょう」


ていうてやったりますけどね。


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