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12. 決着


「逃げちゃった」


やべー、ついつい怖くて逃げてしまった。


だって毒とか今まで見たこともなかったし。


それを敵が投げ込んでくるような場所にいられるかってんだ。


「はぁ、どうしよう」


でも逃げたのは不味かったよな。


ようやく会えた人間だし、あいつらなんか風格あったから街とかであったらまずいかも。


騎士だとしたら、それが危ないところを見捨てたのは後々問題になりそう。


「戻りたくないなぁ」

「ブモォ?」


そうそうぶも、ぶも?


聞いたことあるなー、この鳴き声。


覚悟を決めて前を見る。


「わぁお」


おっきな猪がいた。

3匹。


しかもそのうちの1匹がこちらをすごい目で睨みながら、後ろ足を蹴っている。


頭腫れてるねー、君。


「どこかで会ったこと・・・ございますよね」


反転、ダッシュ。


この動きに慣れすぎて、動きがとても滑らかになっている。


多分そのうちスキルが生えるだろう。


「ハハハ、まぁちょうどいいか」


戦場まで連れて行ってしまえ。


後ろから3匹分の足音が聞こえるが、先ほどに比べて余裕がある。


あれ、もしかしてレベル上がってるかな。


「結構ゴブリンども仕留めたしな」


こうなると余裕が出てくる。


こいつには投石を破られた恨みがある、今なら背嚢から荷物を取り出す余裕まである。


「君に決めた、胡椒」


後ろを走る猪たちの鼻っ柱に胡椒の粉をぶちまける。


「へっへっへ、目ん玉真っ赤にしやがって」

涙を流し、悲鳴をあげる猪たち。


目も牙も赤くして、こちらを睨みつけている。


あれ牙赤かったっけ?


赤い光線が真横を通り過ぎていく。


「は?」


ビームじゃん。


猪の放った攻撃は、先の木にぶち当たり大半を炭化させながら燃え上がらせている。


胡椒の力か、怒りの力か知らないが覚醒させてしまったようだ。


煽らなきゃよかった、ごめんね。


後ろの猪たちを探りながら、横に飛び、茂みを飛び越え、枝をくぐる。


何本もの光線が横を通り過ぎて行き、障害物が跳ね飛ばされていく。


戦場まであと少しというところまで来たが、前方に気配を感じる。


「ゴブリン、くっころか」


この位置で戦場から離れるように移動するゴブリンの気配に、連れ去られたくっころを連想する。


それにしても、気配が復活したということは目を覚ましたのか。


毒の影響はまだあるだろうが、とりあえず無事だということにホッとする。


「助けたいが、猪を引き連れたままじゃな」


しかしここで目を離すと、今度こそ見失ってしまうかもしれない。


迷っていると前方の気配にも変化が生まれる。


ゴブリンの気配が一つ二つと消えていくのだ。


「おいおい、強キャラかよ」


というか同じ方向から結構強い風が急に吹いてきたけど、余波とかじゃないよね、これ。


そして全ての気配が感じられなくなった。


ゴブリンを殲滅して、死んだか気絶かしたのだろう。


「先に戦場に猪を届けるかな」


女騎士のことは心配だが、今は戦場の方が状況が悪いだろう。


猪3匹は正直予想外で、むしろ危険が増すかもしれないが、そんなことは関係ない。


俺が助けに戻ったという事実が大事なのだ。


「おぉ、緑色の背中がよく見えるな」


気色悪い色だが、かたまるといい目印だわ。


マントを外して追加で拾っておいた棍棒にくくりつける。


気分は闘牛士。


「お前ら、遠慮なくぶち込んでこいよ」


棍棒をゴブリンの塊に向けて放りなげる。


今なら言えるかあのセリフ。


「薙ぎ払えー!」


猪3匹がマントに向けて光線をはなつ。


ゴブリンたちが光線に貫かれ、吹き飛び、燃えていく。


やばい楽しい。


猪たちはそのまま緑色のゴブリンたちに意識を切り替えたようだ。


戦場になだれ込んで行った。


「過剰戦力だったか」


しかし、これでゴブリンはどうにかできるだろう。


俺にとって一番の脅威はあのボブだったからな。


あいつが倒せるなら、多少の計算違いは目を瞑ろう。


「おっと、あいつらに挨拶だけしとかないとな」


認知してもらわなければ、戻ってきた意味がない。


気配を消して猪どもの開けた道を進む。


広場のようになっている空間に入ると、人間・ゴブリン・猪の三つ巴による睨み合いが出来上がっていた。


ボブが猪1匹押さえつけてるわ。


「あ、お前」


男騎士がすぐさま俺に気づく。勘いいなこいつ。


人間たちの視線が俺に向いたので、胸をはって猪たちを示す。


「ただいま、これお土産ね」

「お土産って、お前な」


騎士どもの度肝を抜くことは成功したらしい。


これで俺が逃げたことは、こいつらの頭からは消えたことだろう。


おお、女の子も起きているじゃないか。

顔も治っているし。


「誰が、治したんだ?」


騎士どもにそんな余裕なかっただろ。


あれか、ポーションか。

ポーションがあるんだな、このゲーム。


見たかったなー、治療するところ。


「あ、僕です」

「若様」


誰だ。

場に似つかわしくない可愛らしい声が聞こえた。


首を傾げていると、盾を構えた騎士の陰から子供が現れた。


10歳くらいの男の子。


ああ、この子が最初の気配の主か。


まじか、俺の妄想ここに潰えたわ。


さよなら、ばか子。


男の子は騎士たちに止められるが、俺としっかり目を合わせて礼をする。


「お土産、ありがとうございます」

「ほう」


悪くない。悪くないぞ。


俺の上下関係スカウターが、この少年の後輩力に反応する。

カッコつけとこ。


「ふん、気にすることはない」


あ、騎士全員から思いっきり睨まれた。


やばいやばい、偉いところの子か。


坊ちゃんに満面の営業スマイル。


「人として当然のことをしたまでです。気にしないでください」


「え、あ、はい。ありがとうございます」


これでいいんだろう、と騎士たちを見ると、みんな小さく頷くのが見えた。


これ以上この戦場にいたくないので、最後に一つ株を上げておいて、立ち去るとしよう。


「じゃあ、俺は避難しますので。先ほどの女騎士を回収しておくので、皆さんは頑張ってください」

「な、おいお前。ジュリアの居場所、知ってやがるのか」


坊ちゃんを見る。


男騎士がなんかギャーギャー言ってるな。


ちゃんと警戒しろ、バカ。


「えっと、ジュリアさんの連れ去られた場所がわかるんですか?」

「はい。先ほど気配を一瞬感知しましたので」


俺がそういうと人間組がホッとするのがわかる。


手がかりが掴めただけでも、何もわからないよりは良いのだろう。


「若様さがって!『バッシュ』」


光線が騎士の盾に当たり、跳ね返ってコッチキタァ!


「おおぃ!」


大きくのけぞり、ブリッジする。


ああ、猪が人間組に攻撃を始めるらしい。


「すまん」

「この3日で一番の命の危機だったぞ、今の」


不可抗力だということはわかるが、釈然としない。


まあ、これ以上の長居は本格的に危なそうだ。


「じゃあ、行くわ。ばいばーい」


人間組に別れを告げて、気配を消しながら女騎士のもとに向かう。


「ジュリアさんのこと、よろしくお願いします」

「ウスッ」


振り返って、深々と頭を下げる。


いや、上下関係って大事なのよ。




◇◇◇◇


「『デトックス』」


若に解毒の魔法をかけてもらう。


戦況はこう着状態だ。


ゴブリンどもは少しずつ数を減らしているが、こちらも毒のダメージや疲れが蓄積している。


「ゴブリンごときに情けねえ」


もう一人の騎士から、俺とブルーに支援魔法が入る。


魔力的にもそろそろ限界だろう。


いざというときはこいつに若を連れて逃げてもらわないとならない。


「ジュリア隊長は?」


目を覚ましたバネッサが聞いてくる。

誰も答えることができない。


まだ戦うのは難しいだろうが、若の治療のおかげで体を動かすことはできるみたいだ。


騎士とはいえ女だからな、顔に傷が残らなくてよかった。


「そんな・・・」


こちらが黙っていることで、なんとなく状況が分かったのだろう、必死で泣くのを我慢していることがわかる。


戦場で泣いたたりしたら、ジュリアにぶっ飛ばされんぞ。


「これであいつがいたら、簡単に終わるんだがな」


今更言っても仕方がないが、さっきの男がいればブルーの盾の後ろから投擲でゴブリンどもを一方的に蹂躙できた。


まあ得体の知れないやつを、若のいる盾の内側に入れることはないかもしれないが。


「俺が突っ込む。ブルー、あとは頼むぞ」

「ハッ」


いい加減、こちら側の魔力が限界に近い。


一か八かで突っ込んで、ボブの首をとるしか勝つ道は残っていない。


毒は喰らってしまうだろうが、後で若に治療してもらえばいい。


もし失敗したら、ブルーが殿としてゴブリンどもを足止めしている間に、バネッサたちに若を連れて逃げさせなければいけない。


いくぞ、と声をかけようとした瞬間、ゴブリンどもが後ろからの攻撃にぶっ飛ばされる。


「マイティボアの熱線」


後ろから呟きが聞こえる。


おいおいマジかよ。

猪の熱線攻撃なんて、よっぽど怒らせないと発動しないだろ。


それに明らかに熱線は1つではなかった。


次々にゴブリンたちが焼き払われ、広場に突入してきた猪によって、吹き飛ばされる。


「なんでこんな都合のいいタイミングで」


ブルーがつぶやく。


確かに3匹の熱線を携えた猪なんてそうそうお目にかかれない。


ボブが猪を1匹押さえつけているのを横目に気配を探ると、覚えのある存在が広場に入ってるところだった。


「ただいま、これお土産ね」


マイティボア3匹をお土産とは、随分と大胆なやつだ。


投擲は確かに強力だったが、そんなに強い感じはしないんだがな。


首を傾げていると、若が男に話しかけてしまう。


生意気な口をきいた男につい本気の殺気を飛ばしてしまった。


しかし男の話の中では一つだけ無視できない話があった。


「な、おいお前。ジュリアの居場所、知ってやがるのか」


おい、おーい。

無視するんじゃねえ、お前。


若の質問にはすんなり答える男。


こいつ、いい性格していやがるな。


「おおぃ!」


そんなやりとりをしていると、猪から熱線が飛んできてそれを男が無様な格好で避けている。

ざまあ。


「おい、この3日で一番の命の危機だったぞ、今の」


たった3日の一番かよ。

見た目によらず随分ハードな人生歩んでるんだな。


「じゃあ、行くわ。ばいばーい」


男がジュリアの元に向かっていく。本当にあんな男に任せていいのか不安になる。


「ジュリアさんのこと、よろしくお願いします」

「ウスッ」


あ、大丈夫そう。



改めて、敵の様子を伺う。


本来であればゴブリンと猪の乱戦なんてごめんだが、ブルーは猪と相性がいい。


「ブルー、この場は任せるぞ」

「お気をつけて」


ブルーが余計な言葉を送ってくる。


あの男が狙ってやったのかはわからないが、猪が乱入したことで後ろのことを気にしなくて良くなった。


ボブゴブリンが相手にしている猪の横を通り過ぎる。


「邪魔だ」


通り抜きざまに首に剣を叩き込む。猪は光となる。


ボブはいきなり自分の敵が消えたことに困惑したようだが、すぐに俺に向けて棍棒を叩きつける。



思い出す。

「『スラッシュ』」



俺の剣技は、ボブの棍棒ごとやつの右腕を肩から斬り離した。


悲鳴


本当は今の攻撃で息の根を止めることはできた。


悪いな八つ当たりだ。


ボブは俺のことを怯えた目で見つめ後退りながら、配下たちに攻撃を命じる。



思い出す。この醜悪な魔物たちに連れ去られて行った彼女を。

「『ブロウ』」



ゴブリンたちは俺の歩みを全く止めることはできず、光となり消えていく。


ボブが残った左手で毒攻撃をしようと、ゴブリンを振りかぶる。



思い出す。毒によって体の自由を失い、ふらふらになって戦う彼女を。

「『クー』」



左肩に突きを入れて、そのまま腕を切り離す。


両腕を失ったボブを尻餅をつき、こちらを見上げる。


「見たか、今の突きを。彼女の技には遠く及ばない」


理解しろ、あのとき彼女の技が決まっていれば、貴様などとうに死んでいることを。



思い出す。このボブの棍棒で地面に叩きつけられて、動かなくなった彼女を。

剣を上に振りかぶる。


思い出せ。


「お前は彼女を笑ったな」

『パッセ』



ロメオが振り下ろした剣はなんの抵抗もなく、ボブゴブリンを両断した。


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