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11. 不審者



「ジュリアッ。どけ、貴様ら!」



戦場に近づくと、そんな男の叫び声が聞こえた。


「ありゃ、もう一人やられちゃったみたいだな」


人間の気配がまた一つ消えた。


ゴブリンの気配もかなりの数が減っているが、ボブが生きていることを考えると、人間の方が不利なように感じられる。


「崖になってたのか、上から覗けるのはいいな」


人間側が動かないと思っていたら、崖壁を背中にして戦っていたようだ。


人数も少ないしな。


すこし顔を覗かせて見る。かなりの混戦。


「うわ、女の子やられちゃってんじゃん」


まじかよ。


残ってるの野郎だけじゃん。


情けねー。しっかり守っておけよな。


仲間に庇われている顔面の潰れた子と、ボブの前で倒れている子。


それにしてもリアル女騎士か、どっちがバカ子だろう。


気配を消しながら戦場の様子を観察する。


「誰だ、下手くそな消息使ってるやつは!」


何、誰だそいつは!


男騎士の目線がみんなこちらに向く。


うん、俺だよね。

下手くそなんだ、ちょっとショック。


というかみんな尋常ではない殺気を込めてこちらを睨みつけている。


怖いよ、君たち。


「あー、通りすがりの者なんですが」


攻撃されたらたまらないので、姿を見せる。


できれば奇襲攻撃を仕掛けたかったのだが、おかげでゴブリンたちにも見つかってしまった。


「人間、敵か味方か!?」


さっきからうるさい男がいるが、幸い返事は必要なかった。


「ゴグァ!」


ボブがこちらを確認した瞬間、憤怒の叫びをあげたからだ。


用はないとばかりに鎧を着た女性がボブに放り投げられて、配下のゴブリンたちが運んで行く。


え、まずいんじゃないアレ。


くっころ、くっころじゃないですか?


「貴様ら、ジュリアを返せ!」


男騎士が叫ぶが何故か奪い返そうとはしない。


ああ、後ろの奴らをかばって動けないのか。


投石からかばっているね、うん。


ボブがこちらに向けて岩を投げてくる。


まあ、当たったら痛いだろうが大した速度じゃないので、軽く避ける。


あれ、顔面の潰れた子ってもしかして。


「これ、俺のせいか」

「なんだと!?」


やべ、聞こえちゃった。


耳よすぎるだろう、あいつ。


戦場だぞここ。

岩避ける。


それにボブの狙いが、完全に俺に向いてしまっている。


「くそ、ジュリア!」


男騎士がくっころ騎士の名前を呼ぶ。


やばい、とりあえず投石で攻撃。


しかし、間に邪魔なゴブリンたちが多すぎて、女騎士を運ぶゴブリンたちまで攻撃が届かない。


更に、くっころ騎士を担ぎながら運んでいるせいで、ちょうど傘のようになり、高低差が逆に仇となってしまっている。


また、岩が飛んでくる。


こちらも投石で応戦するが、あちらの岩は当たらず、こちらの石は効かない。


「埒があかないな」


仕方がないので、先ほどのゴブリンから奪った棍棒を構える。


ボブゴブリン振りかぶってー、投げました。


「はい、絶好球」


岩は大きく飛んでいき、少し遠くにいた投石部隊を打ち抜く。


「ホームランだな」


しかし、今の打席で棍棒が粉々に折れてしまった。


とりあえず柄の部分をポイ、ゴブリンにあたる。


ボブが顔を怒らせながら、再度岩を振りかぶっている。


「流石に芸がないだろ」


あいつには石が効かないことがわかってから、考えていた代替案を実行する。


ここで取り出しますはとても綺麗な魚の鱗。

石より硬く、先は鋭利に尖っております。


投球モーションが大きいボブに対して、クイックスローで鱗を放つ。


悲鳴。

ストライク!


俺の放った鱗は、ボブの片目に突き刺さっていた。


「そろそろ、配下ゴブも片付くか」


一人前に出ていた男騎士だが、投石部隊の石をいくつか打ち払いながら、仲間に群がるゴブリンたちも斬り捨てている。


あいつがいなければ、他の奴らは投石と群がるゴブリンたちにやられていただろう。



ボブの咆哮



びっくりした、急になんだよ。


「ああ、そうか・・・」


投石部隊が石を投げるのをやめて、騎士たちに突撃を仕掛ける。


「まあ俺がボブを足止めしておけば、問題なく殲滅できるな」


鱗ではボブを倒すことはできないだろうが、あちらの攻撃が俺に届くこともない。


あとはどれだけ早く奴らを片付けて、連れて行かれた女騎士を見つけ出せるかの勝負だ。


ん?


急にボブの投擲フォームが、これまでより更に不恰好なものになった。


「おいボブ、それは何だ?」


何故、ゴブリンをつかんで振りかぶってるんだ、お前は?


投げた。


うわ、これあかんやつだ。

全力で避ける


「キッモィ、ばかお前っ。あぶねー」


危うく打っちまうところだった。


飛んでくる途中で何故か血吐いてきたし。


ゴブリンを警戒するが、様子がおかしい。


痙攣して血を吐くと、そのまま光になって消えてしまった。


「気をつけろっ。そいつは毒持ちだ、血にも触るんじゃねえぞ!」


男騎士の忠告。


遅いわ馬鹿野郎!


本当に危なかった。


ボブの野郎、毒攻撃なんて卑怯な真似してくれんじゃねえか。


ボブを見る。


うん、次弾装填してるね。


流石にまずい。

ゴブリンはともかく、途中で吐いた血を避けるのは難しいだろう。


「・・・」


対抗策を考える。


あー、仕方がないな。


「お前ら!」

「なんだ!?」


男騎士が斬り捨てながら応える。


ボブも一度動きを止めてこちらを観察する。


気合を入れる。


ある意味勇気のいることだからな。


「逃げる!ごめんなぁー」


反転、ダッシュ。


後ろから男騎士やボブの叫び声が聞こえてくるが、止まらない。


俺は全力で戦場に背を向けて、走り去った。




◇◇◇◇


ジュリアがやられた。


彼女はボブゴブリンに棍棒で叩きつけられて、それから全く動かない。


信じられなかった。


ジュリアのことは昔から知っているが、同期の騎士の中でも実力は一番。


オーナード騎士団の中でも、実力は上から数えた方が高い。


彼女がボブゴブリンごときにやられるなんて想像もしなかった。


おそらく毒だろう。


ボブが投げてきたゴブリンたちの様子はおかしかった。


まさか配下に毒入りの肉を食わせて、武器として使うとは。


なんなんだ、こいつは。


明らかに何者かに入れ知恵をされているとしか思えない。


投石もそうだが、明らかにゴブリンの生態から生まれる戦術ではない。


「うざってえ!」


ボブが若たちに向けた岩を叩っ斬る。


なんとしても彼女は奪い返す。


多少無茶してでも、このゴブリンどもとボブを潰す。


剣技を発動しようとしたそのとき。


「副隊長、別働隊が!」

「ちっ、ぁあ?」


盾を構えて若とバネッサを守っているブルーから報告が来る。


今度はなんだってんだ。


なんで迂回してたゴブリンどもが死んでやがる?

気配を探る、すぐそばじゃねぇか!?


「誰だ、下手くそな消息使ってるやつは!」


後ろの壁として使っている、崖壁の上に存在を感知する。


まずい、あそこから攻撃されると若様を守れねえ。


完全に背後を取られていることに最悪の予想が頭をよぎる。


しかし、現れたのは森の中を歩くには、とんでもなくしょぼい装備をつけた人間の男だった。


「あー、通りすがりの者なんですが」


舐めてんのか、こいつは。


どうすれば、こんな街道から外れた、街からも遠い森の中を通りすがるんだよ。


ゴブリンを操っているテイマーの可能性もある。


所属を尋ねてみるが、返事は必要なかった。


ボブがその人間を見つけた瞬間、怒り狂い攻撃し始めたのだ。


そのことはありがたいが、今の問答の間にジュリアを見えないところまでゴブリンどもに連れ去られてしまう。


このままでは、捕捉できない位置まで連れ去られてしまう。


ふざけるな。


彼女にゴブリンが触れるところを想像するだけで、気が狂いそうになる。


しかし、この場を離れることはできない。


俺がここから離れたら、ブルーたちだけで若をお守りすることはできないだろう。


なんとも歯痒い思いを抱えていると、闖入者のつぶやきが聞こえてきた。


「これ、俺のせいか」


どういう意味だ。

ゴブリンどもの敵意からして、テイマーではないはずだ。


俺は警戒を上げたが、男は投石でゴブリンどもを攻撃し始めた。


どうも狙いからジュリアを助けようとしているらしい。

おお、いいやつかもしれない。


「なんて高度な投擲だ」


ブルーの感嘆が後ろから聞こえてくる。


確かに。


あそこまでの精度と威力の投擲は、なかなかお目にかかれない。


他の武器を鍛錬しながらでは、投擲をあのレベルまで引き上げることは難しい。


あの若さを考えると、人生の大半を費やしてきたことが窺える。


さらにはボブの岩を余裕の表情で避け続けるあの胆力は、一朝一夕では身につかない。


高速で飛んでくるものへの恐怖は、体の自由を奪う。


若い騎士などは、硬直してしまうことも珍しくない。


「はい、絶好球」

「なっ」


流石にあれはおかしいだろ。


どういう戦闘訓練を積んでくれば、あの岩を打ち返すという発想が生まれるんだ。


だが、投石の雨が弱くなったのはありがたい。


この間に近くのゴブリンたちを始末できる。


そうすればあの男がボブを足止めしてくれている間、俺が若を守りながらゴブリンどもを殲滅できる。


後ろの2人のどちらかをジュリアの救出に向かわせることができるだろう。


投石をしていたゴブリンどもがこちらに向かってくる。


あれを片付ければ終わりだ。


「キッモィ、ばかお前っ。あぶねー」


男の悲鳴が聞こえてくる。


また、ボブの毒攻撃が始まったようだ。


俺は男に忠告を飛ばしてやる。


「お前ら!」

「なんだ!?」


場違いの呼び掛けにゴブリンどもも動きを止める。


何か作戦でもあるのだろうか。


今は藁にもすがる思いだ。


多少怪しい男でも頼りにできるなら頼りたい。


「逃げる!ごめんなぁー」

「は?」「グガ?」


信じられないほど、気の抜けるような声で男は言い捨てていく。


ボブと俺は呆気に取られて、男のいた場所を見つめるが、その姿はもうない。


まさかと思いながら、気配感知をしてみると本当にまっすぐ戦場から離れていく気配が一つ。


「おい、ふざけんなよ。お前!」

「ゴガァー!」


ふざけんな。


あと少しでジュリアを助けにいけるってところで、何てことだ。


確かに厄介な攻撃だが、見限るのがあまりにも早いだろう。


「副隊長、もともと計算にはない戦力です。それよりも今は」

「そうだな」


ボブゴブリンも怒りに任せて叫び続けていたが、すぐにこちらに視線を向ける。


毒ゴブリンをこちらに投げる。


「ブルー!」


俺の剣技ではこの毒攻撃に対応できない。


後ろに若がいるから避けることもできない。


しかし投石が止んだことで、ようやくうちの守りの要を前に出せる


「ハァッ」『バッシュ』


毒ゴブリンが盾に跳ね返されて、血を撒き散らしながらゴブリンたちに降りかかる。


その血をかぶったゴブリンたちが、すぐに痙攣をおこし倒れていく。


「ロメオさん、ジュリアさんは大丈夫でしょうか?」


若が体を恐怖で震わせながら、ジュリアの身を案じる。


バネッサの治療を中断しないところは、流石はペンテラの血族だ。


「大丈夫だ。ゴブリンごときに大人しく連れていかれる女じゃねぇ」


彼女は俺が取り戻す。


「『ブロウ』」


ボブの毒攻撃が途切れたタイミングで飛び出し、ゴブリンどもを薙ぎ払う。



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