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窓から降りて、武器になりそうなものをもう一度探す。
キャンプ用品の棚から、カッターナイフよりはマシそうなコンパクトナイフ。
そして、カラビナにザイル、そしてライター。ピッケル。
先端の鋭利なピッケル。これは、十分に武器になり得るものだった。
ようやく、武器らしいものを手にした俺に安心感が戻る。
勝てなくとも、一矢報いる程度のことはできそうだ。
他にもライターや簡易ストーブ。
燃料のアルコール。
残念ながら、それで焼く肉はない。
よし。
戻ってきた自信をもとに、事務スペースの電話の受話器を手に取る。
そして、暗記している「会社」の電話番号のボタンを押す。
呼び出し音が鳴る。
だが、誰も出ない。
緊急指定の電話だ。
24時間、誰かが待機している電話。
だが、誰も出ない。
しばらく鳴らし続ける。
あきらめようと思ったその時。
「誰?」
子供のような声。あり得ない。
子供が出るわけのない電話。
「君こそ、誰? そこはイージスカンパニーでは?」
「知らないわよ、そんな会社。いや、いえ。それはうちで契約していた警備会社じゃない、あなた、誰?」
「俺はイージスの社員で……」
「じゃ、じゃああたしを助けてよ! あたしはエマ・グレイソン。どこなの、ここは! あたしはパンドラ島にいたはずなのに!」
パンドラ島。それは、俺の。
仕事の……。
「今、どこにいる? 周りに何がある?」
「知らないわよ! ダイナーなの? ロイヤルグリル? 気が付いたらここにいて……。店の外に、何か変な……」
いきなり電話が切れた。
エマ・グレイソン。
何となく覚えている。
護衛対象の要人の一人。
若い研究者だったような。
ダイナー。
いわゆるレストランだが、そもそも、なぜそんなところに電話が通じた?
悪意を感じた。
何かの悪意。
仕掛けた連中は、きっと何か悪意を持って仕掛けている。
打破しない限り、俺はどこかで死ぬ可能性が高い。
そんな飛び切りの悪意。
化け物車に、人間をこんな身体にする技術。
超自然的な何かなのか、国家的な実験なのか。
だが、座して待つだけでは、解決はできない。
まずは車。
車だ。
バケモノでも車だ。
エンジン音がする、ということはガソリンで動くのだ。
ならば。
ヤツの腹の中には、ガソリンがある。
それに引火すれば、燃えるはずだ。
俺はキャンプ用品から燃料用のアルコールを探す。
ガラス瓶に入ったそれを、何本か取り出す。
キャップを開けて、少しこぼして、トイレにあった洗剤を混ぜる。
そして、タオルにアルコールを浸して、口にねじ込む。
即席火炎びんの出来上がり。
それと、車相手は、まず止めなくてはいけない。
スティンガースパイクというわけにはいかないが、テント用のペグを束でつかみとる。
釘でもいいが、そっちがないので、やむなしというところだ。
売り物のトートバッグに瓶やペグをつめ、肩から提げる。
さて。
とりあえず、三台。
化け物を殺す。
俺は、一本目の火炎瓶に火を点けた。
そして、ドアを開けた。