本当の恐怖
おまけの後編です。
令和四年七月。
地域のFM放送局が募集した『私の恐怖体験』には、リスナーから多数のメールや手紙が寄せられた。
その中に混じっていた一本のカセットテープ。
「カセットテープぅ⁉︎」
「いやいや、まだ売ってますから。平成時代のラジカセが現役なら録音出来ますよ」
平成時代の遺物というには失礼な、センスの良いデザインのCDラジカセを、ディレクターがどこからか調達してきた。
制作スタッフたちは、送ってこられた手紙やメールを、広いスタジオ内で代わる代わる読んでいく。その都度、感想を述べ合い、採用するかどうか決めた。とうとう、カセットテープの番が来た。
リスナーから送られてきたカセットテープを、ラジカセにセットして大音量で流す。
明るく親しみやすい語りは、さすが元『フリーアナウンサー』だな、と誰かが冗談ぽく言ったが、最後まで聞いた後、その場にいた全員の顔は引きつったようで暗かった。
「これは……。怖いなあ」
「うん。ヤバいな。ずっと後ろで “ うめき声 ” みたいなのが聞こえてたし」
「え? やめてくださいよ! 嘘でしょ? 私はそんなもの聞こえませんでしたよ」
スタッフ全員が騒然となる中で、制作チーフが言った。
「申し訳ないが、このテープは直ぐにお寺にお願いして、お焚き上げしてもらいましょう。これを録音した方の必死の思いは伝わりますが、怨念というか禍々しさまで感じる」
彼は手を合わせた後、元通りテープを封筒に納めた。
それまで黙っていた若手ディレクターが、誰にともなく言った。
「これ録音してる人って、もうかなりのお年ですよね? 還暦? いやもっと上かなあ。なのに、少女のような甲高い声で古臭いディスクジョッキーのノリで喋ってるのが、僕にとっては一番怖いんですが。皆さんどう思われます?」
「この話、採用しないと呪われそうですよね……」
現在、番組を担当している男性アナウンサーが呟く。
「いや、こんなものをそのまま採用して流すわけにいかないし、もう『封印』させてもらいましたよ」
チーフは忌々しそうな声音で返事した。
彼らの傍で、口元を押さえている女性アナウンサーは震えているようだ。
「怖いし、痛いですよね。私もこんな喋りしてるのか……」
「キミは若いから大丈夫。さすがに婆さんがコレは痛すぎだけどさ』
重くなった空気を変えるためか、男性アナウンサーが笑って言った瞬間、
「きぃーっ! バカにすんなぁっ!」
電源が入っていないCDラジカセから絶叫する声が……。
今回も下手なホラーにお付き合い下さり、ありがとうございました〜!