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1.勇者は、執事に生まれ変わる

よろしくお願いします。

軽くてサクッと読んで頂けると嬉しいです。

完結まで、纏めて投稿します。


俺はこの国に住む人達のために、死に物狂いで戦った。自分に治癒の力がなければ、軽く百回は死んでいただろう。

それでも俺は、皆の為ならと思えば、頑張れた。

そして、俺は、遂に魔王を倒したのだ。


そこからの日々は俺にとって苦痛でしか無かった。


朝から、晩まで、人に傅かれ、色々な人が、俺に賛辞を与えてくる。毎日毎日、代わり映えのしない日々。朝が来て、夜になるだけ。


「勇者様、〇〇〇」

「勇者様、△△△」

「勇者様、□□□」


誰ももう、俺を勇者としか呼ばない。俺に何もさせてくれない。俺はこんな扱いを望んでいなかったのに……


ある日、俺は決意した。俺の全魔力を使って、新しい人生を掴む事を。転生して、新しい生を生きる。


今度こそ、俺の望む通りの人生を。



俺の魔法は十分ではなかった。赤ん坊からやり直そうと思った俺の目論見は大きく外れてしまった。


目が覚めた俺の視界に入ってきたのは、体全体を覆う、土塊だった。



息苦しさの中で、生き埋めになっている事を自覚した俺は、とりあえず、この重苦しい土の山を退けることにした。

どうやら、魔法は変わらず使えるようだ。


土をまとめて持ち上げると、少し離れた場所にまとめて放り投げた。


身の回りを見回せば、全身泥だらけだ。そして、重要な事がひとつ。俺の新しい体は女性を土から守っていた。


何、このシチュエーション。神?


俺は女性を土の中から運び出し、怪我の状況を確認した。幸いなことに軽い擦り傷位しかない。俺はその傷を治しながら、今は俺の体になった、この体をチェックした。


今は俺が入って自動治癒が働いたので、問題無いが、この男は、肋が折れて、それが内蔵に刺さり、死んだようだ。

この男の記憶が流れ込んでくる。


マリア様、死なないでください。俺の全てをかけて、お守りしますから、お願いです。


切ないまでの、この男の彼女に対する気持ち。

この男は、マリアお嬢様の執事だった。10歳年下のお嬢様に、彼は初めて会ったその日から、ずっと恋心を抱いていた。

だが、その気持ちは押し殺され、お嬢様に知られることは無かった。彼はただ、お嬢様を思う事で満足していた。


マリアお嬢様を狙う、その全てから彼女を守る、その為だけに、体を鍛え、知識を増やし、そうして、この男は生きてきた。


ランスロット、お前、さぞや無念だったろうな。

でも、任せろ。お前の恋心は引き継いでやれないが、お前のお嬢様は、俺がお前に代わって大切に大切にお守りするから。

俺はお前より強い。だから安心して良いんだぞ。


転生に失敗したと思ったが、とんでもない。

俺は、大、大、大成功したんだ!!!


ヒャッホーお仕えする毎日!最高だ!俺は傅かれるのではなく、傅きたい。感謝なんて必要ない。これこそ俺の望み。最高の幸せ!

ああ、神様、ありがとうございます。最高のご褒美です。



そろそろ、お嬢様が目を覚ます。

周りを見渡せば、バラバラに壊れた馬車と、死にかけの馬。

馭者の姿は見えないから、裏切り者は馭者だろう。


馬がまだ生きていてくれて良かった。俺は治癒はできるが、蘇生は無理だ。死にかけの馬を治癒で治し、壊れた馬車を元に戻す。物に対してだけ使える復元魔法だ。


お嬢様の土汚れを綺麗にして、そっと馬車の中に運んだ。


ランスロットのお嬢様は、美しかった。陽の光に輝く金髪も、透けるような白く滑らかな肌も。桜色の小さな唇も。

ランスロットの記憶にあるお嬢様の瞳は深い森のような、吸い込むような緑色をしている。


でも安心しろランスロット。俺はお嬢様に決して手を出さない。お嬢様の幸せだけを願ってやるから。



俺は、ランスロットの記憶にある、お嬢様の屋敷に向けて、ゆっくりと馬車を走らせた。



林の中を進んでいると、目を覚ましたお嬢様の俺を呼ぶ声が聞こえた。


「お嬢様、お目覚めですか?」

「ええ。何があったのかしら?ちょっと記憶が曖昧で。」

「崖の上から、土砂が崩れて参りましたが、幸い、避けることができました。ただ、その際、酷く揺れた為、お嬢様は気を失ってしまわれたようです。誠に申し訳ございません。」

「そう。それで、なぜお前が馭者をしているの?馭者は、何処へ?」

「私も気を失っていた為、気づいた時にはおりませんでした。」

「そう、お前も。お前に怪我は無い?」

「ございません。」

「良かった。」


お嬢様は、小さく、ふうっと息を吐いた。


「お嬢様、あと少しで屋敷に着きます。もう暫くお休み下さい。」

「そうするわ。着いたら起こして。」

「はい。」


俺はまた馭者台に戻る。小さくガタンと音がして、馬車は、ゆっくり動き出した。

この馬車はお嬢様に相応しくない。今度、揺れのない馬車に改造しよう。


後ろから、お嬢様の小さな寝息が聞こえてくる。俺はその寝息を聴きながら、一人幸せを噛み締めた。




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