コント『センパイ、好きです』
春の澄んだ青空の下。
誰もいない校舎の屋上で、向かい合う二人。
男子生徒と女子生徒。
女子生徒は頬を赤らめ、こう告げた。
「センパイ。好きです」
爽やかな風が吹いて、制服のスカートが揺れる。
坊主頭に肉付きのよい体格、男子生徒は……、目を泳がせ……、なんかこう、オドオドしてるようで。どうやらこういうの、慣れてないみたい。
「え? ほんと? オレのこと? 好き? ほんと? えマジ?」
女子生徒はまっすぐに彼の目を見て、
「はい。入学式で初めてセンパイを見たときから、ずっと、好きです」
「え? まじ? うわあ。うわあ。うわあ。ど、どどど――」
「センパイ……」
「ななな、な、な、なんでしょう」
「センパイ」
「なな、のの、なななんでしょうか!」
「センパイ。目を閉じてもらっていいですか」
「うっ、目? 目閉じんの? うん。うん。閉じた。閉じたよ。こ、これでいい?」
「センパイ、本当に閉じました? 絶対、開けちゃだめですよ」
「う、うんうん。うん。絶対に開けないから。ギュッてしてるから、ギュッて。絶対、地球が滅亡しても開けないから」
「絶対ですよ」
「うんうんうん。デったい! デデデったい!」
「……」
「はぁ……、はぁ……」
「…………」
「…………」
「おえっ」
「……?」
「……おおええぇぇえぇ! ……お、おおええぇぇえぇ!」
「え? え?」
「お、お、おおええぇぇえぇぇぇぇ!!」
「えなになに?」
「おおおええぇぇぇぇ!」
「なんなの?なんなの? 大丈夫?」
「う、う、う、……うおおええぇぇええ!」
「いやいやいや、何が起こってんの? 大丈夫ほんとに?」
「ひ、ひ、ひぃぃやぁぁぁ! ひぃぃ! ひぃぃ! ひぃぃやぁぁぁ!」
「何それ何それ。え、え、え」
「んきやあぁぁぁ!んきやあぁぁぁ!んき!んき!んきやあぁぁぁ!」
「おかしいでしょ絶対。なんかおかしいでしょ」
「んぱらぱらぱらぁぁ。げっぱぁぁぁ。んぱらぱらぱらぁぁ。げっぱぁぁぁ」
「何? 呪文? ねぇ何?」
「ギャッッ! ンギャッッ! ンンンギャッッット!ギャッギャッ!」
「え、憑りつかれてる? か、何かの技?」
「シャーッ! シャーッ! グゥゥゥ、シャーッ! グゥゥゥ」
「けもの? 化けてる? けものみたいだよ?」
「ベンベロベンベロベンベロベンベロベンベロベンベロ」
「怖い怖い怖い怖い。呪われた?」
「?……ちょ、ちょっと、なによ。来ないでよ!」
「えっ? 誰か来たの? 誰としゃべってんの?」
「今さら何よ! あなたが別れよって言ったんでしょ!」
「元彼? そこに元彼いんの?」
「そりゃ……、まだ……好きよ」
「ちょっと……何その展開」
「だからって今さら戻れるわけないでしょ! あっち行ってよ!」
「そうだ。そんな都合のいい話あるかっ」
「えっ――、結婚? 真剣に?」
「いやいやいや、まだ高校生だよ。はっ、さすがに早くないかなぁ」
「もう、離さないって……誓える?」
「待て待て待て待て。そんなやつ信じちゃダメだって!」
「やっぱりあなたが好…………。ちょっと恭子! あんた何しに来たのよ!」
「恭子登場。いいとこで恭子登場」
「はぁあ? あなた達? やっぱり浮気してたんじゃない! んもう最低!」
「うわぁ。修羅場ぁ」
「もうわたしの前から消えてよ! 顔も見たくない! …………はいはい、分かってるわよ。罰ゲームはちゃんとやるから」
「ん? 罰ゲーム?」
「分かってるってば。あとは頬っぺた触るだけでしょ。死ぬ気でやればできるから」
「それって……」
「死ぬ気よ。死ぬ気でやるから。はいはいあっち行って――」
「んも、もも、もう我慢できない!」
「……あっ」
「何これ! どういうことだよ!」
「あっ、センパイ……。目、開けちゃったんですね」
「開けるよそりゃ!」
「あの、センパイ……」
「なんだよ?」
「センパイ、好きです」
「罰ゲームなんでしょ! もういいよぉ」
「えっ? なんでそれを?」
「聞こえてっから全部。恭子と話してたの聞こえちゃってっから」
「じゃあ、話は早いですね」
「いや謝るとかねえのかよ。焦れよ、もうちょい焦れ! 聞かれちゃマズイこと色々あったろうが」
「じゃ、そういうことなんで。頬っぺただけ、触っちゃっていいですか?」
「んん……、勝手にしろよ! 早く終わらしてくれっ」
「じゃあ……」
「はいはい」
「……」
「ったく……」
「……」
「……」
「おおええぇぇえぇ!!」
「うっせぇバカ! ふざけんな!!」
(完)
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