唐突に
つい寝る前まではおぼろげだった、あのいじめの記憶を鮮明に思い出せた。
もうこの夢の世界には用はないだろう。確か目を覚ますときは、[最初にいた場所に行くと自然と目を覚ますよ]と言われていた。すぐにでも帰ろう。帰ろうと三歩ほど足を動かしたところで、誰かの声が聞こえた。
「まてよ、にげんじゃねーよ。」
そこにいたのは、小学生の頃の照井とその取り巻きだった少年達だった。
それだけでも心臓が恐怖を感じる。だがそれ以上に、彼らが刃物やバットを持って、血だらけでそこにいたことのほうがよっぽど怖い。脳が危険信号を発している。逃げなければ。話すことも忘れ、一目散に逃げ出した。
教室の廊下から元来た道へと戻る。そのまま階段を一段飛ばしで降りていき、玄関から外へと出ようとした。
だが、出られなかった。玄関だったはずのその空間を埋め尽くすように、血だらけの小学生達がごった返していた。直後、追いかけてきた照井達の声がした。
「逃げるなよ! なあ、調子にノンナヨ!」
その声にはわずかにノイズのような音が混じっている。すごく怖い。
怖くなったその時、玄関を埋め尽くす小学生が一斉にこちらへと顔を向ける。その目は少し赤く光っていて、なおさら怖くなった。心臓の鼓動が強くなったのを感じながら、振り返ることなく特別教室棟まで逃げ出した。