(幕間)ゲヘナロード
本日から、第五章の始まりです。
ここまで読んでくださっている皆様にお知らせがあります。
来月から新たに、小説を連載致します。
そちらも愛して頂けたら幸いです。
よろしくお願い申し上げます。
(魔王視点)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私の名前は、ゲヘナロード
今代の魔王をやっている。
前魔王カルパッチョの子供にして、最後の生き残りであった。
前魔王は、自分の力を過信して、魔王領から南進して、拳闘王国、サマーソルト王国へと侵略を開始した。
当初はうまくいっていたが、勇者パーティの発足と同時に、遅滞戦に落ちいる。
あの頃、カルパッチョは、酷く怒っていた。
魔王幹部に叱咤激励して、次々と砦を襲わせていた。
まだ私はその頃、赤ちゃんであり、ベッドの中であった為に、詳しい話は知らないが、最後の四天王の、村雨から話を後から聞いた。
酷い戦いであったらしい。
人類も魔族も総力戦で戦い、互いに死屍累々の有様だったらしい...
私はカルパッチョの九男であり、本来なら、次期魔王に選ばれる可能性は低かった。
しかし、カルパッチョの子供である、我が兄達や姉達が、最前線で指揮をとる。
指揮が下手だったのか、勇者パーティが強すぎたのかはわからないが、全て死に絶えてしまう。
カルパッチョは狼狽した。
自身の子供が死んでしまった事に...
そこでカルパッチョは、魔王の秘策と言える秘技をもって、最後の息子である私を、培養液に入れて、能力強化にあたった。
カルパッチョは薄々気付いていたのであろう。ーーこの戦負けるだろうと...
カルパッチョは、私への秘技の時間稼ぎの為に、それまでの侵攻作戦を辞めて、守りの戦いへと変化させた。
確かに、魔族側も人間側も、大量に死者を出す事は減ったが、勇者パーティは止まらない。
カルパッチョは、段々と首に刃が降りてくる、断酒台の上にいる様な、気持ちであっただろう。
次第にカルパッチョは、酒を毎日呑まなければやっていられなくなる。
なぜなら、毎月の様に、魔王軍拠点が、勇者パーティに破壊され、占領される報告ばかり、届いてきたのだから...
勇者パーティの、進軍速度は遅いらしいが、徐々にレベルを上げており、手に負えなくなってきた。
やがて、勇者パーティは、ポルポ山を抜けるーーもう後は魔王城への一本道を残すだけの状況に陥る。
カルパッチョは最後の幹部会を開く。
「ゲヘナロードを密かに、培養液入りのまま、魔王城から落ち延びさせよ!! 次代魔王はゲヘナロードとする!! 村雨頼んだぞ!」
「ーー魔王様...承りました。この村雨、命に変えてましても、ゲヘナロード様を立派な魔王にして見せます」
「村雨よ!! 頼む...」
「残りの魔王四天王である、時雨、霰よ! すまぬが、自爆装置を持っていき、勇者パーティの人数を減らしてきてくれ! 恐らく...」
魔王軍四天王の時雨と霰は、お辞儀をした後は、涙を見せず、戦場へと赴いたのであった。
時雨と霰は任務を全うした。
そして、カルパッチョも魔王として堂々たる振る舞いで、勇者と最後の戦いに臨んだ。
結果は見ての通り、魔王の死により、人類は束の間の平和を手にした。
落ち延びた魔族達と共に私は、自然公園に一時身を置いた。
村雨としては、最後まで魔王と運命を共にして、討ち死にするのが望みであったであろう。魔族には珍しく、忠誠心が厚く、何より面倒見が良かった。
カルパッチョも村雨のそんな性格を見抜き、私の警護役に任命したのであろう。
しかし、この世は、敗者への風当たりは酷い。
魔族というだけで酷い迫害を受けた。
酷い飢えにも耐え忍び、潜伏生活は続いた。
魔族は一人また一人と倒れていく。
しかし、村雨は諦めない。
いつか必ず、ゲヘナロード様が魔王となり、魔族の国を興してくれると信じていたからだ。
そして、その日はやってきた。
ピシ!! 培養液入りの箱にヒビが入り、私ゲヘナロードは、前魔王を超えた力を覚醒させた。
「さぁ行こうか!」
颯爽と歩き出す私に、残存する魔族は涙を流しながら、着いていく。
南進をしていたある日、ふとした偶然から、花畑王国の民を発見して、捕らえた。
拷問の末に、花畑王国は秘境にあり、他国との接触を極力禁止しているという情報を入手する。
私は、新たな魔王領を花畑王国とする計画をたてた。
花畑王国で一番の懸念は、勇者パーティの生き残りである、ファーガソンの存在だった。
転移して、他国に応援を呼ばれるのが一番不味い。私はファーガソンの討伐を一番の目標に決めた。
花畑王国転覆作戦当日、天気は酷い雨と雷である。まるで、奇襲をしろと言わんばかりの好天気に恵まれる。
私は一人、花畑王国の魔法省に出向き、
ファーガソンに奇襲を喰らわせた。
その攻撃が合図となり、魔族は次々と花畑王国を蹂躙しはじめた。
私は兎に角、真っ向からファーガソンに突っ込むが、ファーガソンはうまく避けて、反撃魔法を打ち込んでくる。
戦闘経験の差は歴然であった。
しかも私は初陣である。
作戦も何もあったものではなかった。
最後に勝敗を分けたのは、MPの差であった。MPの無くなった、魔法使いなど怖くない。
「い・き・た・い」
ファーガソンはそれだけ呟くと、死んでいった。
最早、怖い敵はいない。
私は王宮に乗り込むと、全ての王族を皆殺しにして、花畑王国の転覆に成功した。
その後、花畑王国の生き残りの兵士による、王宮奪還作戦などが、起こったが、呆気なく鎮圧させた。
私は新魔王領を手にしたのである。
「ゲヘナロード様! この村雨は大変嬉しく思います。やっと、前魔王様と死んでいった同胞達に顔向け出来ます」
村雨は感涙していた。
しかし、私は油断をしない。
父カルパッチョの二の舞だけはごめんである。
すぐに、隠密能力のある魔族に、新勇者パーティの情報を調べさせた。
すると、前勇者パーティの生き残りの、ユウトという吟遊詩人の息子が、新勇者だという情報を掴む。
監視を続けさせると、なんと、勇者装備なるものを揃えさせているらしい。
私は、疑問を感じた。新勇者はすでに、レベルアップをし終わったのであろうかと...
新勇者パーティが、私の存在に気づいているのなら、逃げ隠れしても仕方ない。
勇者装備とやらを集め終わる前に、勇者パーティを先に潰しておくのも手である。
情報では、前勇者パーティの生き残りにして、新勇者の父親のユウトが指揮官で、もっとも危険な存在であるらしい。
挨拶も兼ねて、新勇者パーティを滅ぼしてやる。
・
・
・
私は、商業王国のとある宿屋の窓からいきなり奇襲をかけるつもりで乗り込んだ。
しかし、指揮官が有能な為か、すぐ様迎撃態勢を取られた。
ユウトという最重要人物が誰であるのか一目でわかる。
あれはヤバい! 魔王である私がヤバいと感じるのだから相当の事である。
力とか能力とかではない。存在事態に恐怖をした。一体奴は幾万の魔物や魔族を滅ぼして来たのか?
まだ、今は戦う時ではないという事か...
「戦場でまた逢おう」
私はそれだけ言い残して、商業王国を去ったのであった。
私は父カルパッチョの恨みの為でも、魔族の隆盛の為でもなく、まずは、死なない為に、戦闘訓練に力を入れようと誓ったのであった。
気に入って頂けたらブックマーク登録及び評価お願い致します。




