2:第2話
お昼ごはんのシチューを急いで食べた後、セリクは庭に飛び出しました。
「早かったね、セリク」
子犬くらいの大きさのふしぎな妖精ゴンザレスが、短い手を軽く上げてにこにこと笑います。セリクはこくりとうなずいて、ゴンザレスの隣に座りました。
それからまもなく、お隣の家からララムが出てきました。もっふりとしたピンク色の上着のすそをぱたぱたと踊らせながら、こちらに向かってかけてきます。
その背中には、可愛らしい赤のリュックがありました。
「おまたせ! 『キラキラな宝物』、持ってきたよ!」
ララムはそう言うなりリュックを地面に下ろし、ごそごそと中身をあさり始めました。そして、手のひらにキラキラしたものをのせ、セリクとゴンザレスに見せてきました。
「お姉ちゃんに貸してもらったのよ!」
それは、キラキラ光るきれいなガラス玉でした。まんまるなガラス玉は三つもあって、それぞれ違う色をしています。
あか、あお、きいろ。みんなぴかぴかと輝いています。
「おお、たしかにこれもキラキラだ。でも残念。オイラの探しているキラキラではないよ」
「えええ! これもちがうの?」
ララムはぷうと頬をふくらませました。そうしてしばらく手の上のガラス玉を見つめた後、しぶしぶリュックの中に戻しました。
「じゃあ、町の中を散歩しながら『キラキラな宝物』を探しましょ! だいじょうぶ、きっと見つかるわ!」
そう言ってララムはリュックをせおって歩きだしました。庭から小道へと、ララムの小さな足あとが白い雪の上に続いていきます。
セリクとゴンザレスは、その後ろをあわてて追いかけました。
ララムは隣にやって来たセリクを見てにこりと笑うと、ぎゅっと手を握ってきます。
セリクもにこりと笑って、ララムの手を握り返しました。
手袋がなくたって、こうすると温かいということを二人は知っているのです。
手をつないで歩きながら、セリクは青い空を見上げました。お日さまがあの山の向こうに沈むまでに、さがしものは見つかるのでしょうか。
見つかると、良いな。
間に合うと、良いな。
ゴンザレスはもうお友だちだから、ぜったい、消えてほしくないな。
後ろを振り返ると、雪の上をはねるようにしてついてくるゴンザレスと目が合いました。
だいじょうぶ。キラキラな宝物は見つかるよ。
だから、ゴンザレスは消えたりしないよ。
セリクは心の中でそうつぶやいて、ゴンザレスに笑ってみせました。
*
町の中には、たくさんのキラキラがありました。
雑貨屋さんには、キラキラなアクセサリー。
魚屋さんには、キラキラなうろこの魚。
お菓子屋さんには、キラキラな虹色のアメ。
どれもとってもすてきなキラキラでした。セリクとララムはキラキラを見つけるたびに、ゴンザレスに教えてあげます。
「ゴンザレス、キラキラがいっぱいあるよ!」
「ほほう、たしかにみんなキラキラだ。でも残念。オイラの探しているキラキラではないよ」
「えええ!」
たくさん、たくさん、キラキラを教えてあげたのに、ゴンザレスは首を振ってばかりです。
セリクもララムも、だんだん疲れてきてしまいました。
「ねえ、本当に『キラキラな宝物』はあるの? これだけ探しても見つからないなんて、おかしいと思うの」
ララムが町のはしっこにあるベンチに座って、しょんぼりと言いました。セリクもその隣にぴったりとくっついて座り、同じようにしょんぼりとうつむきます。
「もうキラキラなものなんて思いつかないよ。どうしたら良いの?」
「うーん、オイラも分からないなあ」
ゴンザレスが首をかしげながら、セリクの隣に座ります。そして、くったりと体の力を抜いて、目を閉じてしまいました。
どうやらゴンザレスも疲れているみたいです。
「あ、わたしクッキーを持っているの。疲れた時は、甘いものを食べると良いのよ。はい、どうぞ!」
ララムが赤いリュックの中からクッキーを出してくれたので、みんなで一緒になかよく食べました。
プレーンとココアのしぼり出しクッキーは、ふんわりとバターの香りがして、とても優しい味がします。口の中に入れるとほろりとくずれて、かむとサクサクと軽い音が聞こえました。
食べ終わったら、ララムが水筒から温かいお茶をコップにそそいでくれます。
ララムのこういう優しいところが大好き、とセリクは思いました。
こくりとお茶を飲みこむと、体の中がぽかぽかしてきます。
「おいしかったね。元気が出てくるね」
「うん!」
セリクとララムはクッキーのおかげでとっても元気になりました。これならまだまだ頑張れそうです。二人ははりきってベンチから立ち上がると、同時にゴンザレスを振り返りました。
「……ゴンザレス?」
クッキーを一緒に食べたのに、ゴンザレスは元気がないままでした。黄色い小さな体は、ころんとベンチの上に寝転がっています。
セリクははっとして空を見上げました。お日さまはだいぶ山の方に近付いていて、少しずつ色が赤くなってきているように見えます。
お日さまが山の向こうに沈むには、まだもう少し時間がありそう。でも、急がないと。
セリクはゴンザレスを抱き上げました。ゴンザレスが寒くないように、ぎゅっと抱きしめてあげます。
その時、ララムがぴょこんと飛び上がって、明るい声を出しました。
「あ! わたし、『キラキラな宝物』分かっちゃったかも!」
そう言うなり、ララムは走りだしました。あっという間に、その背中が小さくなっていきます。セリクはあわててララムが忘れていった赤いリュックをつかみ、その後を追いかけました。
「待ってよ、ララム! 待ってってば!」
セリクは何度もララムの名前を呼びました。でも、ララムは止まってくれず、そのまま森の中へと入っていってしまいました。
「ララム……」
森の中はうす暗くて、とてもこわい場所でした。セリクはゴンザレスを抱っこしたまま立ち止まります。ララムのリュックがぽとりと雪の小道の上に落ちてしまいました。
どうしよう。ひとりぼっちじゃ、ぼくは何もできないよ。
腕の中にいるゴンザレスをぎゅっと抱きしめ、セリクはぐすんと鼻を鳴らしました。