1:第1話
本文の最後に、イラストがあります。
楽しんでもらえると嬉しいです!
ある冬の日の朝のこと。
五歳の男の子セリクは、お隣に住む女の子ララムと一緒に庭で遊んでいました。
庭にはうっすらと雪が積もり、空気はツンとしています。お気に入りの青い上着を着ていても寒くて、セリクは冷たくなった手に何度もはあっと息をかけました。
「ララム。寒いから、そろそろおうちに入ろうよ」
セリクは、ララムのピンク色の上着を引っぱります。でも、ララムはぷうと頬をふくらませてしまいました。
「いやよ。わたし、まだ遊ぶの。雪だるまを作るのよ」
「でも……」
「セリク、ほら、雪をまるめて! ぎゅっぎゅって、手で強く固めるのよ」
セリクと同じ五歳なのに、ララムはセリクよりもしっかりしています。セリクはララムの言うことには逆らえません。
ララムはとっても可愛い女の子。だけど、ちょっぴり意地悪な時がある、とセリクは思いました。
しぶしぶ雪を手に取ろうと立ち上がります。すると、木のかげから何かがこちらを見ていることに気がつきました。
子犬くらいの大きさの、黄色い生きもの。手と足は短くて、まるっこい。
その生きものはくりくりの紫の目で、こちらをじっと見つめています。
「うわあ!」
セリクはびっくりして、すとんと尻もちをつきました。お尻に雪がくっついて、ちょっとひんやりしました。
ドキドキして、冷たくて、思わず涙がこぼれてしまいます。
「どうしたの、セリク。なんで泣いているの?」
ララムがあわててかけ寄ってきました。
「あそこに、変な生きものがいるから……」
セリクはそう答えて、かじかんだ指を黄色い生きものの方へ向けました。
ララムがその方向を振り返ります。そして、セリクと同じものを見て、同じようにすとんと尻もちをつきました。
「ひゃあ! 本当に変な生きものがいるね!」
セリクとララムはぎゅっと手をつなぎました。それから目と目を合わせて、こくりとうなずき合いました。
一緒に、逃げようね。
でも、そうする前に、黄色い生きものが声をかけてきました。
「ああ、逃げないで! オイラ、困ってるんだ。助けてほしいんだ」
「え?」
セリクとララムは、そろってこてりと首をかしげました。黄色い生きものはとてとてと雪の上を走り、二人のそばまでやってきます。
「オイラはゴンザレス。とってもすてきな妖精さんだ!」
ゴンザレスがえっへんと小さな胸をはりました。おでこにぴょこんと生えている紫のツノが、お日さまの光を浴びてきらりと光ります。
「実は、オイラは日暮れまでに探さなくちゃいけないものがあるんだ。それを見つけられなかったら、オイラは消えちゃうんだ」
「えええ!」
セリクとララムは、そろって大声をあげました。「妖精さん」というのにもびっくりしたけれど、「消えちゃう」というのには、もっともっとびっくりしたからです。
「何を探しているの? お手伝いするよ!」
ララムがゴンザレスにたずねます。セリクもうんうんとうなずきました。
困っている人がいたら、助けてあげないと。お父さんもお母さんも、きっとそう言います。
ゴンザレスはほっとしたように、にこりと笑いました。
「オイラが探しているのは、『キラキラな宝物』。でも、なかなか見つからないんだ。だから、きみたちが手伝ってくれると、とってもうれしいな」
セリクとララムは、つないだままの手にぎゅっと力をこめました。それから目と目を合わせてこくりとうなずき、にこりとほほえみ合います。
そうして二人、声をそろえて言いました。
「まかせて!」
*
こうして、セリクたちは「キラキラな宝物」を探すことになりました。でも、どんなキラキラが良いのでしょう。みんなで一緒に考えます。
「わたしは、このお庭の雪が『キラキラな宝物』だと思うの。だってほら、お日さまの光でキラキラしていてきれいでしょう?」
「なるほど、たしかに雪はキラキラだ。でも残念。オイラの探しているキラキラではないよ」
「じゃあ、あっちに見える池の氷はどう? キラキラだよ?」
「うん、たしかに池の氷もキラキラだ。でも残念。オイラの探しているキラキラではないよ」
ゴンザレスの探している「キラキラな宝物」は、キラキラしていれば良いというわけではなさそうです。セリクとララムは、うーんと何度もうなります。
二人がうなるたび、ほわほわの白い息が生まれては消えていきました。
そんな中、ふとララムがこちらを見て、ぽんと手を叩きました。
「あ、じゃあセリクは? セリクの金の髪はとってもキラキラしているし、紫のお目目もすっごくキラキラだもの!」
セリクはひゅっと息をのみました。
どちらかというと、ララムのさらさらした赤い髪と、大きな緑のお目目の方がずっとずっとキラキラしているのです。セリクはずっとずっと前に、そのことに気づいていました。
でも、可愛くて大切なララムをゴンザレスに取られたくなくて、セリクは黙っていたのです。
それなのに、ララムときたら。
なんだか悔しくて、セリクはうつむいてしまいました。
「うんうん、たしかにセリクもキラキラだ。でも残念。オイラの探しているキラキラは人間じゃないよ。もっと別のものなんだ」
ゴンザレスがそう答えるのを聞いて、セリクはほっと息を吐きました。
それにしても、ゴンザレスの「キラキラな宝物」とは一体どんなものなのでしょう。何か手がかりがないと、見つからない気がしてきました。
「ねえ、ゴンザレス。ゴンザレスの探しているキラキラは、この近くにあるの?」
「この近くにあるといえばあるし、ないといえばない」
「なにそれ?」
「オイラもなんとなくそう感じるだけなんだ。ごめんね」
「見たらすぐに分かるの?」
「うん、分かるはず。だから、一生けんめい探しているんだ」
セリクはまた、うーんとうなりました。こんな調子では日暮れまでにキラキラを見つけられるかどうか分かりません。
見つけられなかったら、ゴンザレスは消えてしまいます。これは困ったことになりました。
お日さまはどんどん空高くのぼっていき、木の枝にのっていた雪のかたまりをじりじりと溶かしていきます。小さくなった雪のかたまりは、ぽたりと雫をひとつこぼすと、木の枝からとさりと落ちていきました。
時間はどんどん過ぎていきます。
そして、お昼の鐘が鳴る時間になりました。
からん、からん。
その音を聞いて、ララムがぴょこんと立ち上がります。
「とりあえず、お昼ごはんを食べないと! お腹が減ると、良い考えも出てこないのよ!」
「そうだね。ごはんを食べてから、またキラキラを探そうよ」
セリクとララムは、庭で待っているというゴンザレスにひとまず別れを告げました。
そして、ごはんの後にまたすぐ会う約束をしたのでした。