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検事
「はい、起訴事実を認めます。当然、情状酌量も期待しておりませんが……反省する気も有りません」
殺人と殺人未遂の容疑で起訴されたその男は、起訴状の読み上げの後に、そう言った。
何かがおかしい。
痩せた体。神経質そうな顔には人を食ったような……どこか作り物めいた笑みが浮かんでいる。
初回の取調べから、ずっと、そうだった。
今まで経験した事が無いタイプの容疑者だ。
こんな映画やドラマに出て来たら凡庸な話にしか思えなくなるようなステレオタイプなサイコパス殺人鬼が本当に存在するなど……逆に何かがおかしい。
そして……被告本人は死刑になっても構わないように振る舞っているのに……弁護側の証拠や証人を見る限り……減刑を狙っているようにしか思えない。
被告と弁護人の意図に齟齬が有るのか……それとも?