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03 異世界俺tueeeeeはできないのかもしれない

 次に目を覚ましたのは木の香りがするベッドの上だった。


「……ん? ここは…」


 薄く目を開け周りの状況を確認してみる。


 まず目に映るのは、一面木で作られた壁や天井。


 そして身をよじって、俺が今寝ているベッドを確認してみる。少し動くだけで体中が痛い。


 このベッドもやはり木で組まれているようで、その上に布団を敷き真っ白なシーツをかぶせ、そこに寝ている俺にはふかふかの掛け布団がかけられている。


「おわっ」


 首だけ動かし、反対を向くと少女が椅子に座ってウトウトとしていた。

 思わず声が漏れてしまうと、その声でビクッと跳ね起きた少女は起きている俺に気が付き、窓の外に向かって大声で何やら呼びかける。


「…わわっ。…お、目覚ました! おとーさん!」


 窓の外で何をしているのか確認はできないが、そう遠くない距離で薪割りか何かをしている音が聞こえる。


「ああ、終わったら行くから後はほっとけ、ご苦労さん」


 お父さんと呼びかけられた男性は俺のそばにいる女の子に声をかける。


「もう、そんな言い方ないでしょ!」


 まったく状況がつかめない。……あ、


「もしかして、俺を助けてくれた…」


 どこかで見たことがあると思ったら、俺をゴブリンから助けてくれた子じゃないか?

 命の恩人の顔を忘れるなんて、俺は薄情だな、恥ずかしい。


「えっと…うん、まあね」


 少女はどこか申し訳なさそうに返答し


「あ、あの、ごはんとか準備してくるから!」


 と言い残し、パタパタと部屋を出て行ってしまう。


「……今の状況を聞きたかった、何よりお礼も言えてない」


 ご飯を持ってきてくれると言っていたな、その時に済ませよう。


 ……それと、俺が話しかけたときに微妙な顔をしていたな。


 俺が戦っていたゴブリンはもしかしたら滅茶苦茶強いんじゃないかと思ったけど、あの女の子は一瞬で倒してたし、やっぱり雑魚モンスターなんだろう。

 そんな雑魚にいいようにやられている男がいたら軽く引くだろう。幻滅されているのかもしれない。


「……もう考えるのやめよう。立ち直れなくなる」

「何を考えてたんだ? 最弱モンスターにボコされてしかも少女に助けられた自分の不甲斐なさにか?」

「な……! お前は…っ」


 いつの間にか部屋の入口に立ち、俺の独り言に妙な鋭さで嫌味を返したのは、忘れもしないあのクソ野郎だった。


「俺がゴブリンに襲われてるのをただ見ているだけで、しかも妙な魔法までかけて戦わせただろ! 一体どういうつも―――」

「ゴブリン? 魔法? なんだ、随分と順応が早いんだな。聞いていたのと違うが、これなら俺が教える手間も省けそうだ」

「…は? お前何言って…あ、まさか!」

「その通り。何を隠そう俺が預言者。どうだ? もっと敬ってもいいぞ? というか少しは敬え?」

「おい! それなら色々聞きたいことあるぞ―――っ‼」


 思わぬ暴露に身を起こして問いただそうとするが、体中に激痛が走りすぐにベッドに倒れこむ。


「無理すんなって。まだ痛いだろ? ゴブリンにやられて、ぷぷっ」


 俺が苦痛に顔をゆがめる姿を見て笑ってやがる、ぶっ飛ばしたい。


「……なぜ俺はここに来た。この図鑑は何だ。この世界のモンスターは底辺であの強さなのか」

「不貞腐れちゃって、かわいいねぇ。…だがその質問に答えることはできない」


 今はこの男に聞くしかないと諦めて、用件だけを述べていったが男は一度俺を茶化した後、急に真剣な表情で返答を拒否する。


「なぜだ、答えられない理由でもあるのか? ならなぜお前はここにいる?」


 意趣返しとばかりに少しの嫌味を込めるが、男は真剣な表情を崩さずに俺に告げる。


「答えるのが面倒だからだ」

「ぶっ飛ばすぞ!」


 緊張を返せ。


「……もういい、さっきの女の子に聞く。出ていけ」

「あれは娘だ、そしてここは俺の家だ」


 …薄々気付いてはいたが、信じたくなかった。


「お父さん! 意地悪ばっかり言ったらかわいそうじゃない!」


 そう言いながら扉を開けて入ってきたのは、お盆に小さめの鍋を乗せた先ほどの女の子だった。


「なんだ、オルシア。こいつの味方をするのか?」


 オルシアと呼ばれたその少女は顔を真っ赤にしてその言葉を否定する。


「そ、そういうわけじゃないけど…。もう!話しにくいから出て行って!」


 グイグイと男の背中を押して部屋から追い出す。父親も特に抵抗することなく部屋から出ていく。


「手出したら殺す」


 物騒な言葉を残して。


「き、気にしなくていいから…あはは」

「それより、さっきは助かった。もう少しでゴブリンにやられるところだった」

「えっと…こっちこそごめんね?」


 …? なんで謝るんだ? 


「…この話はここで終わり! 聞きたい事いろいろあるんでしょ?」


 無理やり話を中断させられた。まあ、お礼も言えたし…いいか。


「そうだな、君は俺がこの世界の人間ではないことを知っているんだな」

「うん、お父さんが話してたのを聞いたの。新しい勇者様がくるって」

「……新しい勇者? 俺が来る前にも勇者がいたのか?」


 過去にも勇者が来ていた? それとも今も俺以外の勇者がいるのか?


「うん。あなたが来るずっと前に」

「誰も行方を知らないのか?」

「そう、魔王を倒しに行くって言ってそれっきり。もうほとんどおとぎ話なの」

「魔王? その時の勇者は魔王を倒せなかったのか?」

「倒したよ!」


 オルシアは少し怒り気味に言う。前のめりになったため顔が近づく。


「わ、わかった。すまなかった」


 ここは素直に謝ったほうがいいだろう。怒っている理由を知る意味なんてない。怒る人間は怒るべくして怒っているんだ。


「……倒した後にすぐいなくなっちゃったみたいなの」

「そうか、すごいな」


 大人しく相手の意見に同意すると、まるで自分のことのように喜んでいるようだ。


「そうなの! すごいの!」


 オルシアは興奮気味にその勇者について語りだす。


 ……。

 ………。

 …………。


 長い。もう三十分は経ってるだろう。同じ話を何回もしてるし。


「わ、分かった。勇者がすごいのは伝わった。他にも聞きたいことは沢山あるんだが……」


 気持ちよく喋っているところに水を差すようなことをするのは大変心苦しいが、まだ聞きたいことは山ほどある。


「…んー、さっきは私が教えるって言ったけどそんなに教えるの上手じゃないし…それに別の世界の人にもわかるように教える自信ないな…」


 詰んだか?


「確かお父さんは……」

「学校に行け、お前みたいな弱っちい奴が今の状態で魔王に挑もうなんて笑止千万」


 オルシアが何か言いかけたところで、もう声も聞きたくないと思っていたあいつが入ってきた。


「お前は嫌味を挟まないと話すことができないのか?」


 なんか慣れてきたな。いちいち腹を立てるのも疲れる。


「ま、ゴブリンにやられた二代目勇者ってことで笑いものにされること間違いなしだけどな」

「ちょ、お父さん! あれは――――」

「なんにせよ、戦闘に慣れるためにはあそこに通うのが最短だろう。おふざけなしで、あれに耐えて卒業できないようじゃ、魔王なんて夢のまた夢だ」

「わかった。お前に従うのは癪だが、郷に入っては郷に従えだ」


 途中、オルシアが口を挟もうとしていたが父の真剣な様子と、俺が話に乗ったことで、発言のチャンスを逃していた。


 そんな感じでその日の会話は終了した。おっさんが出て行ったあと、オルシアは前勇者についてまだ語り足りなかったのか、日が暮れ、皆が寝静まるまで話は続いた。


 内容を要約すると十分にも満たないであろう話だった。

 それと、持ってきてくれていた鍋はすっかり冷えていた。

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