「子牙出廬」4
子牙、蓮、散宜生、閧夭の前で、楽人たちが奏でる華やかな楽曲に合わせ、踊り娘たちが袖や帯をひるがえし、流麗な群舞を披露していた。
姫昌の子、発は廟堂の奥壁にある玉座に腰かけていた。
けばけばしい原色の衣服と金銀珠玉の装飾品を身にまとった、幼さを多分に残しているこの青年こそ、父が辛王に囚われているにもかかわらず、豪華な屋敷を建て続け、美酒と美食と美女に囲まれた遊蕩を行い、家臣たちから不興を、領民たちからひんしゅくを買っている張本人である。
長らく西方、遊牧民族との領境に赴任し、主君幽閉の報を聞いて急ぎ西岐へ戻った散宜生と閧夭は、姫発のあまりの豹変ぶりに目と口を丸くした。
───子牙は何度めかの生あくびをする。
「こら、子牙先生! だらしがないぞ」
背筋を伸ばし、姿勢正しく椅子に腰かけている蓮は、視線を演舞のまま子牙の脇腹をつねった。
「うるさいなぁ。ひまなんだからしょうがない」
子牙はたっぷり倍にして少女の頬をつねる。蓮も負けじと師の足を踏みつける。
たがいが相手を殴ろうと腕を振りあげたとき、音曲が止み、舞踏が終わった。ふたりはあわてて賞賛の拍手を贈る。
「子牙とやら」
姫発は手招く。
子牙は席を立って蓮に舌を見せると、姫発に拱手する。
───恭しいが、恐縮の体ではなかった。
「お主の髪の色は親譲りか?」
姫発は彼の黄金の髪をまじまじとみつめる。
「さて、もの心をついた時には、父も母も死んでいたので、わかりかねます」
「そうか」
それだけ言うと、子牙の金髪からあきらかに興味を失くしたようであった。
「お主が岐山より持参した『宝』を見せてもらおうか」
「御意」