表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殷周演義  作者: 諸橋カムイ
【第一章】
6/23

「子牙出廬」2

姫昌(きしょう)辛王(しんおう)により、幽里(ゆうり)という土地にある獄塞(ろうさい)に収監された。


主君幽閉される、の報が西岐(さいき)にもたらされるや家臣たちは色めきだち、ことの真相を問う使いを朝歌(ちょうか)へと送り出した。


だが、返ってきたのは、無残にも切り落とされた使者の首。


こうなれば商と、辛王との一戦あるのみ───世を覆わんばかりの民衆の怨嗟呪詛(えんさじゅそ)()れば、商朝に幕を下ろすこともあながち無理ではないぞと、気炎をあげる家臣群。


()つべき姫昌の子、(はつ)は今年で十九。


聡明であり、数多の学問にも通じ、何よりも行政手腕に傑出していて、よく父を補佐した。


性格は慈悲深く、常に悠揚迫(ゆうようせ)まらず、若いながらにも大人物の風格を持っている。


……その聖人君子のような姫発が、どういうものか父の入牢を聞くや、いままで質素倹約を重んじていたにもかかわらず、贅沢を覚え、離宮を次々と新造し、朝に昼にと豪遊しだした。


狂気じみた乱行を苦言した家臣はみな免官され、西岐から追放されてしまった。


家長たる若き領主の、辛王もかくやの暴君的行動に激昂した他の臣下たちはみな、みずから城を去って行った、とのこと。


「まぁ、だから山をおりてきたんだけどね」


子牙(しが)は笠の下で苦笑していた。


しばらくののち、子牙と(れん)は、姫発が豪遊三昧の日々を送っている離宮「臥子龍宮(がしりゅうぐう)」前に立つ。


「姫発さまにお会いしたい」


「なんだ、そのなりは? どこの馬の骨とも判らぬ者が、姫発さまにお目通りできるとおもうなよ!」


正門を守る衛士は取り合わず、槍の石突(いしづき)で犬猫を払うように、子牙を押し退けた。


岐山(きざん)より、はるばる『宝』を持参してきたのだ。はやく取り次げ」


「聞こえなかったのか? 姫発さまはご多忙の身。立ち去るがよい!」


衛士、今度は穂先(やりさき)を突出し、追い立てる。


「あぶないなぁ」


子牙は竿を肩にかけ、びくをさげたまま、さらり身を(ひるがえ)してかわすと、突き出された槍の柄を蹴り上げた。


衛兵の手から得物(えもの)が弾かれ、回転しながら宙空に()を描き、そして大地に突き立つ。


領主の邸門を(まも)るほどの男───身の丈もあり、胸板も厚く、肩も腕も筋肉で盛り上がっていた。握力も相当なものと自負していた───だが、自慢の槍を文字通り一蹴されてしまった。


恐るべき脚力に目をまるくし、


「お、おのれ、くせものだ! くせものだ!」


悲鳴に似た叫びをあげる。


槍矛(そうぼう)を手にした仲間の衛兵が駆けつけ、子牙と蓮へ鋭先(きっさき)揃えてぐるり囲む。


にわかに門前は剣呑(けんのん)な空気に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ