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殷周演義  作者: 諸橋カムイ
【第三章】
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「黒虎義心」7

「味方か?」


散宜生(さんぎせい)が当惑の声を上げたが、


「いや、違うみたいだ」


閧夭(こうよう)がすぐに打ち消す。


あるじを失い、次々と仲間が死傷していく兵士たちは、蜘蛛の子を散らすがごとく逃げ散った。


しかし、彼らを森の中に追い払った仮面の男たちの弓矢や矛の先は、いまや散宜生と閧夭に向けられている。


気を失っている黒虎(こくこ)をかかえている(れん)の周囲にもまた、剣刃(やいば)円環()が形成されていた。


姫昌(きしょう)さま!」


地から()いて出てきたかのような異装の男たちに囲まれながらも、散宜生は首をねじ曲げて主君を見た。


姫昌はたちつくしていた。


動けないでいる。


彼の喉元には白刃が突きつけられていたのだ。


天地を(つな)ぎとめるように降り続ける雨が凝固したかのように……森の闇が切り取られ人の形を成したかのように……「その者」は忽然(こつぜん)と現れ、姫昌の横に立っていた。


───そして、その手には剣が握られ、刀身は姫昌に向けられている。


「いまここで、死なれてはこまる」


男もまた土を固め焼いた仮面を着けていた。その下からくぐもって姫昌の耳に届く声は若い。


───その声のぬしを姫昌は知っていた。


「……おぬしは!?」


名を言おうとしたとき、雨に濡れて冷たい男の剣があごの下に触れた。


剣の平で姫昌に上を向かせ、続く声を()えぎる。


「おまえを殺すのは───この俺だ!」


仮面のふたつの穴から放たれた瞳光(しせん)鬼燐(おにび)をはらんでいた。


低く静かに、だが確かな殺意を込めて姫昌の耳元で囁くと、男は雨闇に溶けるように消えた。


彼の仲間もまた現出(げんしゅつ)したときとは逆に、声も立てず息づかいすら消して静かに森の奥へと戻っていく。


姫昌は先ほど継げなかった言葉を独語する。


「……(しん)贏革(えいかく)


仮面の男の名を口にしたとき、雨よりも冷たい汗が全身の毛孔からにじみ出てくるのを感じた。


───ひときわ大きな雷霆(かみなり)が、恐慄(きょうりつ)している姫昌を照らし出した。

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