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殷周演義  作者: 諸橋カムイ
【第三章】
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「黒虎義心」5

散宜生(さんぎせい)どのは姫昌(きしょう)さまをお守りしろ!」


雲霞(うんか)のごとく殺到する兵士たちを、次々討ち払いながら閧夭(こうよう)は声を飛ばす。


「承知!」


幾重にも血の虹を描きながら、散宜生は姫昌たちの馬車へと急行する。


その馬車の外、おぼつかないさばきで(れん)黒虎(こくこ)が剣を振う。


蓮は初めて剣を握る。黒虎も先ほどはじめて人を斬ったばかり。群がる兵士たちが突き出す槍を弾き返すことに精いっぱいで、とても反撃できる余裕などなかった。


姫昌も刀刃(けん)を左右に走らせていたが、棒で幾度も身体を打たれたのち獄に入れられていたので、思うに任せないでいた。


やがて、兵士の槍に姫昌の剣は弾き飛ばされ、宙に輪を描く。


口の()に勝ち誇った笑みを貼りつけた兵士の槍が、空を切る音を高く鋭く響かせ、姫昌の喉に刺し込まれる───まさにその一瞬前、兵士の胸から剣の先が飛び出した。


血の泡を吐き出しながら兵士が地に伏すと、そこには斬り散らしてきた無数の敵の血で真紅に染め返った散宜生がいた。


「車にお戻りください」


ひらり、馬の鞍から馭者台に飛び移った散宜生は手綱を握る。三人が乗り込むのを確認すると、馬車を走らせた。


稲妻が横走る。


もはや黒一色となった天に、光の亀裂がほとばしる。


雷鳴とともに豪雨が地を激しく打ちはじめ、姫昌たちの上気していた身体を叩く。


肌に痛みを覚えるほどの強烈な雨あし。


周囲が雨闇に包まれる中、馬車は矢と剣と槍で追い立てられるように鬱蒼(うっそう)とした奥深い森へと乗り入れてしまった。


「しまった!」


地に折り重なり、つたを伸ばした灌木(かんぼく)にぶつかり、馬車の車軸がへし折れ、鈍い音をたて車輪が吹き飛んだ。


衝撃で散宜生は地に投げ出され、したたか全身を打つ。


激しい喘鳴(ぜいめい)と同時に気を失いかけたが、なんとか正気を保つ───が、起き上がろうとする散宜生の面先に、無数の鋒尖(きっさき)が向けられる。


姫昌一行の周囲には、すでに弓箭兵(きゅうせんへい)による人壁が築かれていた。


もはや逃げることもかなわない。


閧夭は激しく舌打ちし、槍を雨でぬかるんだ地面に突き立てた。


雨音に混じって甲高い嘲笑(ちょうしょう)が響く。


兵士たちが左右に分かれ、騎馬がひとつ進み出てくる。


鞍上の人は、短杖(たんじょう)を握っている崇虎(すうこ)であった。

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