「黒虎義心」4
散宜生と閧夭は、腰間の剣を抜き放ち、いなごのように音をあげて押し寄せる矢を斬り落とす。
車上、蓮は姫昌の前に立って手を広げる。さらにその前に剣を構えた黒虎が立った。少女と少年は健気にもわが身を盾にして姫昌を守ろうとする。
「ふたりともさがりなさい!」
姫昌はふたりの子供の襟首をつかみ引き寄せる。頭を低くして隠れていなさいと伝えた。黒虎から剣を取り上げた彼は車のふちに足をかけ、降り注ぐ矢を薙ぎ、叩き、払う。
刃音うなりをあげるたびに矢はあやまたず地に落ちた。年老いたとはいえ、また、長らく牢に入れられていたとはいえ、姫昌はたえず中原に侵攻してくる異民族との紛争地である西岐のあるじ。若いころより戦場で響かせた武勇は色あせない。
無限に連なるかのような斉射が終わると、点在する林の中から武装した兵士たちがどっと現れた。
「何者?」
散宜生は馬首を寄せて閧夭に尋ねる。
ふたりとも無傷である。その身には一本の矢も刺さってはいない。馬にもである。彼らの武倆もまた主君と同じく修練されていた。
得物も軍装も統一されていないので、商王や諸侯の正規の軍隊ではないのは一目でわかったが、五百人はいる。中には騎馬の者も。
五人、しかも内ふたりは子供という一行を襲う野盗にしてはあまりに物々しい。
「あの者に聞いてみるか?」
閧夭はあごで襲撃者たちを指さす。血気盛んな大漢が単騎、槍を車輪のごとく頭上で振りまわし、ふたりに向かってきていた。
「いやぁ、聞いてもむだそうだな」
烈声ほとばしらせ、鬼気迫せまる形相の男の突進を前に、少しも危機感を抱いていないかのような閧夭がゆっくりと駒を進める。
裂帛の気合を込めて繰り出される大漢の槍を、練達の馬術をもってさらりとかわした閧夭は手にしている剣を巧みに振るう。
───その刃が動きを止めたとき、彼の左手には槍の柄が握られていた。槍のあるじは数瞬で入れ替わった。驚きに目を見開いた表情のまま、大漢の首は宙を舞う。
文字通りまたたく間であった。
頭を失った巨体は赤い霧飛沫をまきながら鞍から転げ落ち、大地に沈んだ。
閧夭は剣を鞘に収め槍に持ちかえる。剣よりむしろ槍の方が、彼の得意とするところであった。
賊たちは怯んだ。しかし、それは一瞬のことで、数に拠った彼らは瞬く間に閧夭と散宜生をぐるり囲む。
散宜生は突き出された賊の槍先をかわすと、彼らの脳天からあごまでを一刀のもとに切り下げていく。
───迫る切先をよけると首筋に白刃を叩きつけ、鞍から掴み引きずり下ろそうと腕を伸してくる者たちの胴を薙ぐ。
閧夭と散宜生、ふたりが右に左に光条を閃かせるたび、形成された肉塊の山と鮮血の河が大きくなっていく。