第18話 魔術師の中ボス。
俺たちは上に続く階段を上り、三階に行った。
さっきと同じように、四階に続く階段はなく、代わりに扉があった。
「今度はどんなやつだ?」
俺は思わずそう呟きながら、扉を開ける。
するとその先には、黒いローブを着た赤髪の男が真ん中に立っていた。
「魔術師ね」
なるほど、魔術師か。
「っ!お前等、ここまで来たということは、あのルシアを倒したってことか?」
「ルシア?」
「魔人の女だよ」
「ああ、あいつなら俺が一撃で消した」
「一撃で!?消した!?」
魔術師は驚いた様子で俺を見ていた。
だが、それも一瞬だったようだ。
魔術師はすぐに落ち着きを取り戻した。
「まあ、いい。俺の力には敵わない」
またそれか。その言葉はもう飽きたぞ。
「魔王のもとへは行かせない。あいつは世界を破滅へと追い込むからな」
「世界を破滅するって?なぜそんなことをする」
魔王だから楽しそうだからかもな。
「お前のような恵まれた環境で育った奴には言ってもわからんだろ!」
魔術師は手から闇を出し、俺に放つ。
だが、俺は軽く避けた。
「これくらい軽々しく避けれる」
ライカは魔術師の上から雷を落とす。
だが、バチンと弾かれた。
よく見ると、魔術師の周りに透明なバリアが張られていた。
「バリアを張ったのか。なら俺の攻撃は弾けるか?」
俺は剣を振り、斬撃を出す。
当たると、バリアは砕けて消滅した。
だが、その中に魔術師はいなかった。
「なるほど、意外と強いんだな」
後ろから誰かが耳元で囁く。
きっと魔術師だろう。
転移魔法でも使ったのだろうか。
俺は振り向くと同時に剣を振ったが避けられ、気づけば目の前には手の平があった。
一瞬何が起こったがわからなかったが、すぐに手の平を顔に向けられているとわかった。
魔術師はそのまま闇を放つ。
間近で受けたからか、一瞬痛みを感じた。
それと同時によくわからない気持ちが襲ってくる。
ルシアのときとは違く、俺を囲まず徐々に消えた。
魔術師は意味深な笑みを見せつける。
「何をした!」
俺はそう叫びながら剣を振る。
が、また消えた。
どこ行ったという感じで振り向くと、魔術師が空間から剣を取り出し、美月にかかっているところだった。
「召喚魔法でござるか」
「違うな。これは収納魔法で、しまっていたやつだ」
二人は鍔迫り合いの状態になりながら話をした。
ライカはその隙に後ろから、尖った氷を何本も出し、魔術師に放つ。
が、透明な盾の形をしたバリアが出て、氷を弾いた。
「残念だったな」
魔術師は美月の刀を弾いて、ライカの方を向く。
「近くで見てわかったでござるが、その剣、鋭くないでござるな!」
鋭くないってことは、あれは切れない剣なのか。
それを聞いた魔術師が一瞬ニヤッとしたのを俺は見逃さなかった。
「切れなければもう怖くないでござる!」
「美月、そいつから離れろ!」
すると、魔術師が持っていた剣が光り出し、美月に当てようとする。
俺は魔術師のところまで走った。
魔術師が美月に向かって剣を振ったところで、美月を庇うことができた。
が、俺に剣が当たってしまった。
すると、いきなり頭痛が襲ってくる。
でも、我慢できないわけではない。
振り向いてズキズキする頭を抑えながら、魔術師を睨みつける。
魔術師はなぜか唖然としていた。
「…なぜだ」
「あ?」
「なぜ平然としている!」
「平然?全然してねえよ。頭痛いし」
「ならなぜ発狂しない!」
魔術師は少し興奮気味に言う。
魔術師の反応から察するに、本来なら発狂するレベルの頭痛に襲われるのだろう。
でも、俺のチートの影響で最小限に抑えられた、といったところか。
「なら、これで奴隷に――」
魔術師は空間から何かを取り出そうとした。
だが次の瞬間、魔術師の腹にぽっかりと穴が開く。
そこから血がドバッと出る。
それとほぼ同時に口からも血が流れた。
何が起こったのかと魔術師の後ろを見ると、ライカが手を広げて魔術師に向けていた。
なるほど、氷塊を生み出して、放ったのか。
俺が魔術師にとって驚くようなことをしたから、他の奴等に目がいかず隙を見せて攻撃されても気づかなかったということか。
ナイスだライカ!
後は俺が………いいとこだけとるのは悪いか。
ここは二人に任せよう。
「美月!」
「っ!は、はいでござる!」
美月は刀を握り、魔術師に向かって走った。
そして腹を切る。
切れたところからは血がブシャーと出て、魔術師は倒れた。
美月はかっこつけたように、後ろに振り向き、刀を鞘にさした。
「やったか」
数秒経っても魔術師は動かなかった。
「そのようでござるな」
「二人とも、早く行くわよ」
ライカはこっちに走りながら話をしていた。
「ハハハハハ」
魔術師が不気味に笑い出した。
「まあいいよ。たとえ俺が死んでも、魔王が死んでも、お前はいつか苦しむことになる」
どうやら俺に向かって言っているようだ。
「お前の未来が楽しみだ」
それが彼の最後の言葉だった。
俺は剣を突き刺して心臓を貫いた。
その後、魔術師が動くことはなかった。
………なんだったんだ。