第14話 只今、航海中Ⅴ
「それにしても食べすぎだろ。明日の分まで残しておけよ?」
「わかってるわよ」
「じゃあ、私が保存しておきます」
エリカは七匹の魚を収納魔法で空間に収納した。
「保存って大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。この中は時が止まっていて、出すときも入れたときの状態になってます」
「そうなのか、便利だな、それ」
「じゃあ、最後の一匹は私が食べるわね」
「お前は食いすぎだ」
魚に手を伸ばすライカの頭を軽く叩く。
最後の魚は俺が食べた。
物を食べたから、ようやく眠気が襲ってきた。
「あ~、なんか眠くなってきた。ようやく眠れる」
俺はすぐに眠れるように、部屋に戻ってベッドに潜った。
そしてなんとか眠りにつくことができた。
外からドドドドという大きな足音が部屋中にまで響く。
扉が開くと、ライカとエリカと美月がぎゅうぎゅうになって、強引に入ろうとしていた。
「ちょ、きついわよ。どいて」
「そういうライカこそどいてでござる。狭いでござるよ」
「二人ともどいてください。コウヤさんは昨日一緒に寝たし、お姉ちゃんは明日寝れるでしょ?今日は私の番です!」
あまりのうるささに俺は目を覚ましてしまった。
「何やってんだ、お前等?」
「あ、ニシカタくん、今日は私がニシカタくんと一緒に寝るのに、二人が奪おうとしてくるんです」
俺、そんなしょうもないことで起こされたのか?
「はあ、美月、お前は昨日寝ただろ。ライカ、お前は明日寝れるだろ。今日はエリカの番だ。少しくらい我慢しろ」
二人はしゅんと落ち込んでしまった。
「ほら、もう寝るぞ」
エリカは笑顔で俺の横に飛び込んだ。
俺と寝てなんでそんなに嬉しいんだか。
まあ、可愛い子と寝れるから俺はいいんだけど。
数分後、俺はまだ起きていた。
全然眠気が襲ってこない。
さっき寝れたのに、この三人が起こしたせいで全然眠くなくなってしまった。
次の日の朝、俺はその時間まで全然寝れなかった。
「どうしたの、ニシカタ?顔色悪いわよ?目の下にクマもできてるし」
「ライカァ、お前等が騒がしくして俺を起こしたから折角寝れたのに、目が完全に覚めて寝れなかったじゃねえか!」
「あ、そうなの?なんか、ごめんね」
「へえ~、お前も謝れることができたのか」
「絶対バカにしてるわよね。謝ったんだから許しなさいよ?」
こいつ絶対反省してねえな。
「もういいや。怒る気力もねえし、今回は許してやる」
ライカは小さくガッツポーズをとる。
「じゃあ朝飯食べたいんだけど、ってエリカまだ寝てるよ。確かこいつ全然起きないんだったよな」
「そうよ。エリカはよほどのことがない限り起きないわ」
よーし……じゃあ、こうするか。
俺はエリカの耳に顔を近づけて、大声でこう言い放った。
「エリカ、大変だ!船が沈没してるぞ!」
だが、エリカはしかめっ面をするだけで起きる気配がまったくない。
「仕方ない。本当はやりたくないけど、最終手段だ」
俺は手から冷えた風を出し、エリカを見下ろす。
「あんた、前に私がそれしようとしたら叩いたわよね?あれはなんだったの?」
「俺はやっていいんだよ」
「クズみたいな理屈ね」
数時間後、エリカが起きた。
「ふぁ~…あれ、みなさんどうしました」
「あんたが早く起きないから食べることができなかったのよ」
「そうですか……ごめんなさい……ってニシカタくん、大丈夫ですか?」
エリカは俺の顔を見ると、なぜか驚いて心配した。
どうやら俺は、目の下にはクマができてるわ、空腹で苦しそうにしてるわで死にそうな顔をしていたらしい。
「エリカ…早くご飯を……」
「ああ、はい」
エリカは慌てて、空間から昨日の魚を取り出す。
俺は我慢できなくて、その瞬間に飛びついて魚を奪う。
「キャッ!」
俺がいきなり魚に飛びついたからびっくりしたのか、一瞬叫んでしまった。
俺はガツガツと魚を食べ始める。
「う、うまっ!」
俺は魚を凝視しながら、思わずその言葉を漏らす。
ライカは俺を見て引いていた。
どこに引く要素があったんだ?
「みなさんも食べてください」
エリカはライカと美月にも渡して三人は、俺と違ってゆっくり食べた。
「じゃあ、釣りをするか」
俺は釣り竿を持って、船の柵に座って釣り糸を垂らした。
みんなも俺の横に座って、釣りを始めた。
気づけば夕方になっていた。
俺たちは一日中釣りをしてたってことか。
釣れたのは何匹かとバケツを見ると、五匹しか釣れていなかった。
こんなにしてたった五匹か。
こんなんじゃ先が思いやられる。
「そろそろやめないか?」
「そうですね」
「お腹もすいたでござるからな」
「そうね」
「今日は、そうだな」
バケツを見ると、大きな魚もいた。
「活け造りにするか」
「「「イケヅクリ?」」」
そうか、異世界人だから知らないのか。
「まあ、後でわかるよ」
俺はバケツをキッチンに持っていき、料理をしだした。
包丁で身を切って、並べて、最後に頭をのせた。
「できたぞ~」
俺は活け造りがのった皿を持って、部屋の中に入った。
「これがイケヅクリ?」
「そうだ、はいこれ」
俺は一人ずつ箸を渡していった。
三人はしぶしぶ箸で切身を掴んだ。
おいおい、俺の料理そんなに怪しいか?
そして口に運ぶ。
するとその瞬間、口の中に味わったことのない初めての感覚に襲われた。
「なにこれ、美味しい!」
「こんなに美味しいの食べたの初めてです!」
「拙者もでござる」
三人は驚きながら美味しいを連呼していた。
「ニシカタって料理上手かったのね?」
「え、まあ、母さんの手伝いとかで料理たくさんしていたけど」
なんかそんなに美味しいって言われると、照れるな。
俺は無意識に人差し指で頬をポリポリとかく。
三人は次々と食べていき、一気に少なくなっていった。
「お、おい、俺の分も………」
「あ、ごめん。全部食べちゃった」
危ねえ。なんとか二匹釣って食べることができた。
昨日と同じ目にあったらたまったもんじゃねえよ。
「今日は私がニシカタと寝るわね」
エリカと美月はライカを見て、羨ましそうにしていた。
「俺はもう寝るから騒がしくするなよ」
「それなら拙者たちも寝るでござる」
「そうですね」
電気を消して数分後、俺はいつもより早く眠りについた。
次回でそろそろアルクスカ大陸につかそうと思います。