第九十七話 王都カイザルにて
前回のあらすじ
魂だけの存在となった春川は、時空石の力に引き寄せらる神楽と共に次元の狭間、岬の元に向かう。
春川の犠牲もあり、二人は無事ライフサーガ世界の仲間達と合流することとなる。
ここ王都カイザルは、ライフサーガの中でも最も多くのプレーヤー達が集まるワールドマップの中心に位置している。ほとんどのプレーヤーの出発点として設定されていた。
このカイザルは山脈に囲まれた城塞都市であり、武人として名高い初代国王カイザルが建国した国である。現在はその子孫であるカイザル10世に統治されているが、彼は初代国王の武人たる血を受け継いでいるのか疑わしいほど肥満体であった。しかし、彼は闘いを好み、多くの冒険者を集めては、ことある毎に格闘大会を開いて観賞するのが生き甲斐であった。
というのが、ライフサーガのシナリオである。
実際は、国王も兵士もほとんどの民達もほぼNPCである。中には冒険を止め、商売に勤しむプレーヤーもいるが。
しかし、大会は実際に月に一度開かれており、ちょっとした都の催し物であった。
優勝者にはレアアイテムが手に入るという事もあり、多くのプレーヤーが冒険者ギルドにて参加登録を行っている。偶然だが、ちょうど明日がその大会の当日であった。
勿論、冒険者ギルドには大会登録以外にも、仕事の斡旋やパーティーメンバーの募集も行っている。
ここカイザルの冒険者ギルドは大陸一に相応しい規模で、初心者プレーヤーから上級者まで、全ての職種のプレーヤーが仕事を探しに集まってくる。
内容は、どぶねずみ退治や雨漏り修理程度のD級ランク。
ゴブリンやオーク退治などのモンスターハントのC級ランク。
王国や帝都などの戦争による徴兵、または傭兵稼業などのB級ランク。
ドラゴン退治や魔王討伐などのA級ランクなどが主である。
今日も日がな一日、金と地位を求めて歴戦の強者達がカイザルの冒険者ギルドに押し掛けていた。
「おい、見ろよ!」
「なんだありゃ? あんな装備あんのかよ」
甲冑に身を包んだ騎士や、獣の皮をなめして作られた衣服を着る山賊風の男達の目が、場違いな女に視線を集めている。
薄手のTシャツに穴の空いたジーンズ、それとスニーカー。
戦士とも職人とも想像つかない格好は、人目を集めるのに充分だった。
「あ、あの! お姉さまっ! かなり目立ってますわよ。やっぱり、鎧とか、ローブとかお揃えになっては…」
「あたしは暑くて重いのやだし。いつもの格好で充分だって」
融通が利かない神楽に歩調を合わせつつ、困り果てる響子。
岬達は館を出た後、サタンの行方を追って王都カイザルまで足を伸ばしていた。
二人は情報収集の為に、このギルドを訪れている。岬や内藤達は武器や防具、旅に必要な道具を揃えに別行動として商店街に向かっていた。
(お姉さまと二人きりなのは嬉しいですが、人目につき過ぎですわ。やっぱり内藤さんにお願いするべきでしたかしら)
事の発端は、この世界に詳しい内藤がギルドを訪ねようとの提案でまとまりかけたのを、神楽が遮った一言につきる。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず…って言うじゃない。あたし、まだこの世界に来たばっかだし、他のプレーヤー達を見ておきたいんだよねぇ」
「じゃあ、ギルドの情報収集は内藤さんと神楽で決まりだな。意見のある者は?」
(内藤さんとお姉さま…)
その時、響子の脳内でめくるめく妄想が広がった。
「神楽さん、岬君もいいが、大人の男ってやつを知ってみたくないかい?」
「あ、内藤さん! いけないわ! あぁ…」
ぶちっ!
響子の中で何かが切れた音がした。
「じゃあ、決定…」
響子は勢いよく挙手する。
「私が、お姉さまと同伴いたしますわ。内藤さんは、この世界のマジックアイテムなどにもお詳しいはず。こちらは情報収集のみですから、私達だけで結構です」
(なぁんて、私ったら。まぁ、お姉様とデートが出来て幸せですけど!)
(響子は神楽が好きなんだね?)
人前では姿を消しているアスタロトが響子の脳内に直接話かけてくる。レナスの通信ではなく悪魔特有のテレパシーである為、神楽には聞こえていない。
(えぇ。女子生徒全ての憧れの人ですの。あーちゃんも直にお姉様の素晴らしさが分かりますわ)
半信半疑なアスタロト。
「ねぇ、響子?」
「はいぃ!!」
突然話し掛けられた事と、珍しく神楽から話し掛けられた事が合わさって、響子はまるで頭のてっぺんから声が出てきたように変な返事をした。
「ここも、NPCとプレーヤーが入り交じっているんだよね。NPCの顔がリアル過ぎてちょっと見じゃわかんなくない?」
神楽の言う通り、NPC達はほぼ生きている人間と同じような顔、体つきである。
「あぁ、それはですね。瞬きを見れば分かりますわ。NPCは瞬きしないみたいですの」
確かに瞬きを全くしない人間がちらほら見受けられた。
「例えば、あの受付嬢。一切、瞬きをしていませんわね。あれはNPCですの」
響子が指差した方に、まるで本物の女性と見分けがつかないような受付嬢が立っていた。
「まぁ、異変が起きてからも話す内容はゲームと同じらしいですから、話し掛けても分かりますわね」
と、言ったそばから、一人の冒険者が受付嬢に話し掛けた。
「可愛いね。…ん、あんたNPCか。ならいいよな、人間じゃねぇし」
冒険者の男は、受付嬢の体に触れる。
「お! 人間の皮膚と同じじゃねぇか、うへヘ」
冒険者の男は更にエスカレートし、スカートの下から手を入れた。
「クズね。ちょっと向かっ腹立ったからぶん殴って来る!」
「ちょ、ちょっとお姉様っ!」
神楽が一歩踏み出した瞬間、片手で遮った者がいた。
「関わらない方がいい。よく見てみろ」
「ん?」
受付嬢にちょっかいを出していた男の周りに数人の兵士が現れた。
「な、何だよ! てめぇら! プレーヤーがNPCごときに手を出して何が悪いんだよっ!」
冒険者は必死に抵抗するが、やがて兵士達に取り押さえられた。
「あの兵士…」
「あぁ、あれも全てNPCだ。止めに入っていたら、あんたも同罪として奴らに捕まっていたとこだろうよ」
神楽を遮った男は風変わりなとんがり帽子を目深にかぶり、紫のコートを羽織っている。その下には、煤けたジャケットに魔法使い特有の呪符を束にして、無造作にポケットに突っ込んでいる。
一方、兵士に取り押さえられていた冒険者は抵抗するも無駄と感じたのか、そのままいずこかへ連れて行かれた。
「あの人、この後どうなるの?」
「恐らく殺されるな」
「!?」
神楽と響子は絶句した。
「これが奴等のやり方だ。ここは一見平和なゲーム世界と見せかけているが、俺達にとっては地獄そのものなんだよ」
男は悔しそうに歯を食い縛り、拳を強く握り締めた。
神楽と響子はお互いに顔を見合せ頷いた。
「よかったら詳しい事、教えてくれない? あたしは真田神楽。で、こっちは…」
「湯里響子と申しますわ」
「あんたら、ハンネじゃねぇな。俺は倉前和彦。元の世界では独身のしがないサラリーマンさ。この世界では『紫のソウルシェイド』なんて呼ばれているはぐれもんの魔法使いだ。あんたらが何をしでかそうとしているのか分からんが、楽しそうだ。俺に分かる範囲でよければ教えてやるよ」
倉前はとんがり帽子のつばを指先でピンと弾いた。
プレーヤーの一人である倉前との出会いがサタン打倒の第一歩であった。
果たして彼の言う地獄とは?
彼は何を知っているのか?
次回をお楽しみに。
今回もご覧いただきありがとうございました。




