表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
96/290

第九十六話 赤い玉は永遠に

前回のあらすじ



須藤家の合宿、もとい次期ライフサーガ突入メンバー選抜に参加している充之。


夜半に己の不甲斐なさにさいなむ彼の元に氷目が訪れる。


中学時代の氷目に戻った事を安堵したのも束の間、姉の神楽の叫び声がこだまする。


駆けつけた彼等が見たものは、幽霊とセクハラ兄(影辰)であった。

「兄様の『言霊ことだま』なら、この幽霊の言ってる事分かると思う」



「言霊? なんだよそれ?」



言霊。



一般には、人の想いが込められた言葉には霊力が宿ると信じられている。かの万葉集等の和歌にも言霊という単語が残っているほど日本人には馴染み深いモノになっている。



「私の忍術『言霊』は死者の残留思念…いわゆる魂から言葉を読み解く術だ。須藤家の当主のみに伝わる秘術である為、私しか使えない」



影辰はそう言って氷目の頭に手を置いた。



「すまなかった、氷目。お前にかかっていた母上の呪術を読み解く事が出来なかったのは私の未熟さであった。すまぬ」



「兄様…」



兄妹愛がひしひしと充之の心を打つ。



が、影辰は先程から気を失っている神楽をチラチラと横目で見ていた。



(千里眼!)



充之の右目が輝く。



「(あぁ、出来る事なら充之と替わりたい。神楽さんの赤く染まった頬。艶やかな唇から漏れ出す吐息が……あぁぁぁ…)」



(やっぱ駄目だ、この人)





「これは、春川じゃないか! 女子テニス部部長の!」



「春川…確か、選抜メンバーにいた生徒じゃないか!」



春川の霊はうつむき加減で先程から何やらずっとポツリポツリと呟いている。



「兄様」



氷目の真剣な眼差しに影辰は強く頷いた。彼は両手を春川に向かって伸ばす。



「さ迷える霊よ。この世に残した汝の未練を我に託せ。しからば、安らかな魂に安息を約束せん」



「何だか教会の神父のお祈りみたいだな」



充之は思ったままを口にする。



「うちはキリスト教。祖先はキリシタン大名であった大友宗麟おおともそうりんに仕えていたらしい」



大友宗麟。



九州の大名であり、キリシタンとしてキリスト教を手厚く保護した人物である。後に島津家に敗れるが、豊臣秀吉の斡旋もあり家は守られた。かの有名な雷を斬ったとされる名刀、雷切らいきりを所持していた武将、立花道雪たちばなどうせつも彼の配下である。



「なんか凄い家だな、須藤家。上忍の藤林長門守や平賀源内も出てくるし…」



氷目は唇に人差し指を当てる。



「充之…始まる」



春川の霊が顔を上げる。うつむき加減で分からなかったが、彼女はその眼に目一杯の涙を溜めて訴えていた。



「影辰くん? 助けて。…みんなが、学園長が…」



「何だって!? 岬さんがどうしたんだ!!」



「落ち着け充之。とりあえず彼女の話を聞くんだ」



春川の話はこうだった。



自分が川崎の裏切りで殺された事。



その後、浮遊霊となり彼らの側にいた事。



その川崎が実はサタンという悪魔に体を乗っ取られていたこと。



サタンと彼等が争い、岬がサタンと一騎討ちを行ったこと。



執行部役員の東雲の事。



そして、時空の狭間に彼が飲み込まれてしまった事。



充之達にとっては驚かされる内容の話ばかりであった。



いつしか、源内はじめ、千晶や静音も来て話を聞いている。



「それから私は、私自身の遺体にあった岬さんのペンダントを取りに来た香川さんを見た後、何故かここに…」



「ペンダントって…この姉さんがしている赤いペンダントの事か?」



神楽の胸元には赤く光る石のペンダントがあった。



「そう。これと全く同じ作りで青い石がはめ込まれていたわ」



「以前、姉さんから聞いたことがある。岬さんにこのペンダントの対になる青い石のペンダントをプレゼントしたらしい。確か、母さんが外国のお土産に持って帰ってきたらしいが」



「ちょっといいかの」



源内は懐からレンズのような物を取り出し、神楽の胸元にある赤い石のペンダントを手に、しげしげと眺める。



影辰が羨ましがって見ている事は割愛する。



「これは凄い代物じゃ! この石はただの石ではござらぬ」



「え! ポチは分かるんだ。凄いね!」



静音に誉められ気恥ずかしい素振りを見せつつも、源内はゆっくりと話始めた。



「以前、西洋の書物を読み漁っていた時期がありましての。この石と全く同じ物を見かけた事を思い出しましたのじゃ。これはまさしく『時空石』と呼ばれる石ですな」



「時空石…って、ファンタジーのアニメやゲームに出てきそうな名前よね。まさか、読んで字のごとく時空を越える事が出来る石…なぁんてね! ありっこない話だよね」



千晶の話に充之や静音も頷く。



が、意外な言葉が源内の口から出た。



「実はこの石。もうひとつあるのじゃ。黄金に輝く『時空石』が…」



「はいはーい! そこからは天才科学者の星野スピカの出番じゃな!」



「スピカ! お前、今までどこに行ってたんだ。それに御堂も!」



皆が振り向くと、そこには得意気な顔をした白衣姿のスピカと真剣な面持ちの柚子が立っていた。



「充之ぃ! わしは年上じゃ! 呼び捨てにするでない。と、そんなお説教は置いといてじゃ。実はな、先程話に出てきた黄金の『時空石』は、レナスの核となっておる」



「何だって!初めて聞くぞ」



「まぁ、落ち着け。いずれ時が来たら話をしようと思っておったんじゃ。とりあえず、こちらもある程度の情報を手に入れてきた。そこから話を擦り合わせるとしようかの」



スピカの話。



岬の父である進教授が既に亡くなっていること。



柚子の父が、古代神の生き残り…いや、異星人であったこと。



また、レナスに残された進のコピーのこと。



新たな謎が浮上し、また解き明かされてゆく。



「ということは、今、俺達に出来ることは…」



「一つはゲーム内にいる岬達の救出。そして、二つ目は然るべく未来、人類を脅かす存在である大魔王サタン、そして裏で糸を引く魔王ベルゼブブの撃破。どちらも達成出来ねばならんな。その為にも明日の結果次第で次のメンバーを選抜しなければならぬ。当初の予定ではレナスの追加メンバーは五人じゃったが、東雲と生徒会長が先に利用したので、残り三人というのはそこから来ておったのじゃ」



「むっ!」



その時、源内が手にしていた赤の時空石が、より強く輝き出した。おもわず、源内は手を離す。



「うっ!?」



神楽を支えていた充之の体が不思議な力で弾き飛ばされる。



「し、師匠っ!」



ガシッ!



間一髪、静音が体を張って受け止めた。



ペンダントはやがて赤く輝く球体となり、神楽の体を包み込んでゆく。



「これは共鳴じゃ!」



源内は叫んだ。



「青き玉と赤き玉を持つもの。互いに命を危ぶみし時、その魂は時空を越えて引かれ合うと伝承にある。岬殿の命に危機が訪れておるのじゃ。このままでは神楽殿の魂も次元の狭間に連れていかれてしまう!」



「何だって?」



「次元の狭間に一切の光はない。光がなければ時は進まぬ。春川の話では岬が狭間に落ちたのは昨日の晩じゃったな。おそらく、レナスシステムの介入によりタイムラグが出ておるのじゃろうな」



スピカは沈痛な面持ちで語る。



「ちっくしょう! この玉さえ何とかなればいいんだろ!」



「無理です! 師匠っ!」



静音は無茶をしようとする充之を羽交い締めにして押さえ込む。



「このままじゃ、姉さんまで…」



(そうか。私がここに来たのは運命だったんだ。お母さん、唯…ごめんね。ひと目会ってお別れを言うつもりだったけど時間がないみたい)



充之の不安を打ち消すように、春川は微笑んだ。



「私がここに来た理由が分かりました。神楽さんは私が責任を持って学園長と安全な場所にお連れします。本当は神様がいるなんて信じられなかったけど、私の魂がこの現世にまだ存在してるのはきっとこの為なんだろうって。神様に感謝しなきゃ」



「まさか、あんた。自分の魂を身代わりにして時空の狭間に飛び込むというのか?」



「それが出来るのは肉体を持たない私だけだから。さぁ、神楽さん行きますよ」



春川の魂は神楽を包む赤い球体に寄り添った。



(今なら、次元の狭間にいる学園長の位置が分かる。お願い! 彼の元へ連れてって)



春川の魂が球体に飲み込まれてゆく。球体は春川の魂と同化し始めていた。



「充之くん…だったね。立派な先輩を持った事を誇りに思うんだぞ!」



砕けた表情で、にこやかに微笑みながら冗談を口にする春川。これが彼女の最後の言葉だった。



ドンッ!



球体は夜空に高く舞い上がった。それは時期外れの打ち上げ花火の如く。





「あ! お母さん、今花火が上がったよ」



小さな女の子は彼女の母親に夜空を指差して見せた。



マンションのベランダで洗濯物を取り込む母親。夜空にはいくつかの星が瞬いていた。花火らしき物は見えない。



「もうじき冬なんだから、花火大会はやってないわよ。誰かがイタズラでロケット花火でもあげたのかもね」



「真っ赤で大きな花火だったんだけどなぁ」



洗濯物をあらかた片付けた彼女は少女の背をそっと押した。



「唯、もう遅いし、ベランダは体が冷えるから早くお部屋に戻ろうね。お母さんと競争よ。ほら、よおいドンッ!」



「キャアッ!」



親子は部屋に入るとカーテンを締めた。






(あそこね…私が来た次元の穴は)



夜空にぽっかりと暗き穴が口を開けている。



今、確信した。魂となった春川はあそこを通って、現世に戻って来たのだと。



恐らく闇夜の晩に視認できる者はいないであろうその穴に、真っ赤な球体は飛び込んだ。



春川と同化した球体は、時の流れに逆らい時空を越えてゆく。神楽はその中で眠ったように動かない。



(見えた!)



春川…球体のはるか先にゆらゆらと揺らめく岬の姿があった。



(後は、学園長を回収して…え?)



岬もまるで眠っているかの如く動かない。春川は球体の中に彼を押し込もうとするが、球体はその体をゴムのように跳ね返した。



(まさか、これって定員一名!?)



予定外の出来事に春川は焦った。既に魂のみとなっている彼女だが、岬のレナス防護フィールド内に赤く明滅する残り1分という表示が意味するモノは理解できる。



(せっかくここまで来たのに…あら、あれは?)



空間内に突如穴が開き、巨大な腕が伸びてきた。次元の狭間である空間を何かを探しているように手を回して探っているように見える。



(あれは、フランス人形の手だ!)



真っ赤な袖にフリルがついたフランス人形の手。見覚えがあった。



(あれはアスタロトという生徒会長の悪魔だわ。もしや、学園長を探してるのかも。一か八かやってみる価値はあるわ)



球体は岬の防護フィールドにぴったりとくっつき、その中に神楽を押し込んだ。



(いっけぇ!!)



球体はテニスのラケット状に形を変える。



スマッシュ!



岬と神楽を包んだ防護フィールドをテニスのスマッシュの要領で、巨大な手に打ち込んだ。



フランス人形はそれを掴みとるや、穴の外へ引っ張り出してゆく。手が抜けると元通りに穴は閉じていった。



(…これで、私の役目は終わったのね)



ラケットは球体に戻り、次元の狭間をただただゆらゆらと漂い続けた。



永遠に。


二人を助け出す為に奔走する魂だけの存在となった春川。


彼女は『運命』を受け入れ、岬と神楽の命を救った。


しかし、その代償は大きく、彼女の魂は次元の狭間に永遠と漂う存在となってしまう。


輪廻転生も叶わぬまま。




次回予告


神楽を加えた岬パーティーは打倒サタンを目指し館を後にする。


その頃、ライフサーガ内においてサタン復活の情報が各プレーヤー達に知らされた。


大魔王打倒に燃える者達はレナスパーティーだけではない。


今こそ人間の底力を見せつける時だ。


果たして彼等はサタンの野望を阻止できるのか。


次回、王都カイザルにて



今回もご覧いただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ