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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
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第九十五話 幽霊

前回のあらすじ



時空石により岬を呼び戻す事に成功したが、何故か下着姿の神楽がついてきた。


今回はそのライフサーガでの翌日となる、合宿一日目の晩の須藤家に舞台を移します。

合宿一日目が終わり、各々が須藤家の部屋を借り睡眠をとっていた。



岬達がライフサーガの世界にアクセスしてから2日が経過している。



スピカの話では、須藤家での合宿は次期ライフサーガのメンバー選考だという話になっているのだが、充之は未だに納得していなかった。



和風家屋独特の畳の匂いと太陽の陽射しを浴びてふかふかの布団。ふと、壁に目が行くと、川の流れに逆らって泳ぐ鯉の水墨画が飾られている。



(なんか人ん家って落ち着かないよな)



充之はあてがわれた部屋に一人ぽつんと仰向けになっていた。



(ゲームの世界に人間が転送されるって何なんだよ)



真面目に考えれば非常に馬鹿げた話である。しかし、充之はレナスにより過去の世界へ転送された。これは間違いなく実体験である。



左目があった眼帯の上に手をかざした。眼帯の下には仮の義眼を入れている。仮とは、湯里の医者によると最近の医療技術の発達により義眼も、コンピューター制御によりカメラを取り付け、脳に映像を取り込む事が可能となったらしい。しかし、充之にとっては無用の長物で、昔からある眼窩を保護する従来のタイプを選択した。頭に機械を入れる事に抵抗があったのも理由のひとつだが。



(あの時、自分は己の目を犠牲にしても皆を助けたいと誓ったはずだ…だけど、もし、優音の行動を読めていたら…)



そう何度も言い聞かせている。だが、優音を…清音を連れて帰れなかった後悔が毎夜、彼を苦しめていた。



(間違っていたのか、俺は…)



湯里お抱えの病院に入院していた時、一度岬が見舞いに来た事があった。



充之は自分の考えを彼に問うた。あの時の判断は間違っていたんじゃないかと。



岬はただ一言、口を開いた。



「運命だったんだ」と。



(運命か……結局、この目の能力ちからも案外あてにはできないということか)



充之の能力『千里眼』は、数秒先の未来を予知できる能力である。また、他人の考えを若干ながら読み解く力を持ち合わせていた。



しかし、肝心なところで優音の行動を見抜けなかった事に己の未熟さ故の責任を感じていた。



(あいつらの前では気丈に振る舞ったつもりだが…やっぱり駄目だな)



うつ伏せの体勢になり、枕に顔をうずめる。嗅ぎなれない客人用の枕の匂いになかなか寝付けない。



その時、障子が音もなくスッと引き開けられた。充之は気配で感じとる。



(誰だ?)



敵意は感じない。



(姉さんのいたずらか? いや、ならもっと気配を殺しているはずだ)



気の達人とも言うべき神楽なら、全く気配を感じさせないだろう。いたずらにも全力な姉を想像し、ため息をついた。



「充之…起きてる?」



声の主は意外に氷目であった。



「あぁ、起きてる。人ん家の布団ってなかなか寝付けなくてさ。それにしても氷目が俺のとこに……あ、いや、所と床をかけたわけじゃないからな!」



豆電球の薄明かりの中、氷目がくすりと笑う。充之は心の底から安堵した。



(以前の氷目に戻ったんだな)



源内の話から、彼女の母親が死ぬ間際にかけた呪術が最近になって発動したらしい。ちょうど学園に入学した頃と一致する。



「入っても…いい?」



「お前ん家だろ。好きにしろよ」



後ろ手で障子を閉める彼女の姿は薄い着物であった。



(パジャマじゃないんだな。そりゃ、忍者の家だもんな)



勝手に納得している充之の側に、氷目は腰を下ろした。



「神楽…さんって、不思議」



急に先程までイメージしていた姉の顔が浮かんで、充之は吹き出した。



「?」



不思議そうに充之を見つめる氷目。



「そうだな。氷目から見たら、変わった姉さんには間違いないな」



「あ、いや、そういう意味じゃない。なんというか…温かいひと」



氷目は頬を赤く染め、恥ずかしそうに身をよじる。



(姉さん、氷目に何やったんだよ?)



ギャー!!



「な、なんだ!?」



「!?」



噂をすればなんとやら。神楽の叫び声が耳に届く。



「確か離れに姉さんの寝室があったな。行くぞ!」



「うん!」



二人は部屋を飛び出し、離れにある姉の寝室へ走った。



充之は躊躇う事なく、寝室の障子を開けた。



「姉さん! どうしたんだ!」



下着姿の神楽が部屋の奥を指差して、歯をカタカタといわせている。



「で、で、出た……ぁ…」



泡を吹いて倒れる神楽。充之は駆け寄って姉を抱き起こし、指差した方を見る。



そこには壁に添って立っている青白い人影がぼんやりと浮かんでいた。



「幽霊…か?」



「みたい」



神楽は極度のホラー恐怖症であった。



人影はゆっくりと姿を変え、はっきりと形を現す。それは学園で使用しているテニスウェアを着た一人の女生徒であった。



「た……け…て」



女生徒の幽霊は二人に何かを伝えようとしていた。



「何か言おうとしているぞ! 氷目、お前忍術で何とかならないのかよ!」



「充之が思ってるほど忍術は万能じゃない。だけど、兄様なら…」



氷目は天井を見上げた。



「ん? 私の出番か?」



シュタッ!



天井に張り付いていた黒装束に身を包んだ影辰が降りたった。



「あ…先輩。姉の寝室で何してたんすか?」



「あ…あぁ、充之! 客人を不当な輩からお守りするのが当主の勤めであるからして…決してやましいことはしておらんよ。私も神楽さんの悲鳴で今しがた来たばかりであるからな」



(この人、絶対覗きだ…)



言い訳がましい影辰を冷めた目で見る充之と、哀れみをもって兄を見つめる氷目であった。



果たして現れた幽霊の正体とは!?




今回もご覧頂き、ありがとうございました。

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