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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
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第九十一話 解呪

前回のあらすじ


生徒会長、湯里響子の拾った人形は大悪魔アスタロトであった。


アリスと対峙するアスタロト。


彼女の意図する事とは?


大悪魔アスタロト。


大魔王ルシファーの片腕としてベルゼブブと肩を並べる実力者。


彼女はルシファーの密命を帯び、サタンの魂を奪いし反逆者ベルゼブブを追っていた。


「ところで貴女に聞きたい事があるのだけど、よろしいかしら?」


透き通るような美しい声音でアリスに問う。


「……我が主ベルゼブブの名において命ずる。今、我に仇為す敵を打ち砕く刃を与えよ!」


巨大な鎌がアリスの手元に現れた。そのまま、眉一つ動かさず、戦闘体勢に入る。


「あらあら、だんまりさんは損をしますわ。私は貴女にとって有用な情報をお持ちしたのに。例えば、貴女のお姉さんであるアリサさんの事とか」


「!?」


ガラン!


誰が見ても明らかな動揺。手にした大鎌が床に落ち、大きな音を立てる。


「…アリサ…お姉ちゃん…」


「えぇ、転生して私の身近にいるわ。貴女の事をとても心配しているのよ」


アリスの表情に険しさが消え、穏やかな子供のような笑みを浮かべる。


「そう…なんだ。会いたい…会っていっぱいお話したい。……会えるのかな?」


「勿論ですとも。貴女さえよければ『最後』に会わせてあげるわ。でも…」


アスタロトはやや含みのある会話に少しの間を空けた。


「サタン復活にくみした貴女にはそれ相応の罰を与えなければならない」


悪魔の罰。それは生半可なモノではない。強いて言えば、それは魂の消滅を意味していた。


「ちょ、ちょっとあーちゃん! 罰って…」


罰というキーワードに響子がいち早く反応する。


「響子はちょっと黙ってて。これは悪魔同士の交渉。いや、魂をかけた盟約なの」


いつもの可愛さを感じさせない声音に、響子はしぶしぶ引き下がろうとした。


(夢で見たあの光景が事実なら…)


儚く悲しい彼女の生い立ちを知ってしまった響子。


(あぁもう、後には退けないわ!)


引き下がりかけた足を力強く一歩踏み出す。


「あーちゃん。確かに今の彼女は悪魔だわ。でも、学園の生徒…東雲京香でもあるの。生徒会長としてほっておけませんわ!」


(あぁ、響子にアリスの記憶を見せたのは失敗だったかな)


アスタロトは少しばかり後悔した。


(だが、そこが人間のみが持つ優しさなのかもしれないわね)


アスタロトは、表情こそ普段の人形のままだが、人間っぽくため息混じりで話し始めた。


「…仕方ないね。響子にはお世話になってるし。えぇと…確かレナスだったか。あれでこの場にいる人間全てに響子の体験した記憶を伝えてくれないかな。その上で罰を与えるべきか多数決をとるわ。だけど、一人でも反対する者がいれば容赦なく彼女を断罪する」


(これで、よろしいですわね、ルシファー様)


姉に会えるのならば。アリスにはその覚悟があった。


アリスは悪魔として生まれ変わり、人間の復讐の為だけに生きてきた。しかし、姉を想う気持ちは人間の頃となんら変わりない。例え、輪廻転生の輪から外れようとも姉に一目会いたかった。会って伝えたかった。


(おいてけぼりにしてごめんね)


と。




内藤、武井、沢村、香川は響子の記憶をレナスを用いてリンクした。


「う。こんなの見せられたら許すっきゃないだろっ」


武井は男泣きする。


「彼女の記憶が正しければ、私は賛成します。栞はどうかな?」


「私も。アリスさんの気持ちが痛いほど伝わってきました。どうか許してあげてください」


内藤と沢村も賛成する。


「残るは…」


アスタロトが視線を移す。


「あぁ、俺も賛成だ」


なんと、目の前に立石が両手をダラリと下げ、幽鬼のように立っていた。


「ゾンビとなって蘇ったか先輩っ!! 悪霊め、先輩の体を乗っ取っても無駄だ! 吠えろ、マサカドブレー…」


ガンッ!


立石の拳が武井の脳天にクリーンヒットする。


「あら立石さん、ご無事でしたのね」


「ば、ばっきゃろ。ちょっとボディにいいやつもらっただけだぜ。話はレナスで聞いた。俺も賛成だぜ。あのサタンには向かっ腹立つけどな」


先程まで壁に寄り添い気を失っていた立石が会話に入ってきた事で、場の雰囲気が和んだかに見えた。


「私は反対だ。悪魔なぞ、信用するに値せん」


香川は鋭く射抜くような視線をアリスに浴びせた。そして弓に矢をつがえる。


「岬さんの仇…覚悟せよ、悪魔め!」


「香川さんっ!」


武井が慌てて香川を背後から羽交い締めにする。


「放せっ! お前達っ! こいつは私達を騙して岬さんを見殺しにしたんだぞ! こんなまがいものの記憶に騙されるなっ!」


「学園長が!? 香川さん本当ですの!?」






「ほぅ。人間が異次元への穴を開けた…か」


アスタロトは興味深く香川の話を聞いていた。


「学園長らしいですわ。自分の命を捨ててまでみんなを助けるなんて。でも、川崎くんや春川さんまで…」


ハンカチを取り出し涙を拭う響子。


「だから、私は断じて賛成などできない」


アリスはただじっと目を閉じている。


「ということはだね。その学園長さえ戻って来たらいいんだよね」


「は?」


一同はあまりに軽いアスタロトの言葉に唖然とした。


「だぁかぁらぁ、その学園長さえ無事なら君も賛成してくれるのかってことよ」


「無事? ま、まぁ。だが、次元の狭間に落ちたのだぞ。あの能力は学園長の…」


アスタロトはせせら笑っている。


「私を誰だと思っているのかな。かの大魔王ルシファー様の右腕にして、魔界一超絶大な魔力を保持する大悪魔アスタロトであるぞ」


「あーちゃん! 出来るの?」


響子は目を潤まして、ずいっとアスタロトに顔を寄せる。


「ほ、本当に出来るのか! アスタロトとやら」


香川も負けじと顔を寄せてくる。


その香川の行動に皆が苦笑する。


「だぁ! 近い近いっ! 出来ると言えば出来るが、あるモノが必要だね」


「あるモノだと?」


「そう。でも、その前に…」


アスタロトは何もない空中に手を泳がせる。


「よっ!」


小さな手が何かしらを掴み捕った。その人差し指と親指の間でには一匹の小さな蝿がじたばたともがき暴れている。


「ベルゼブブの使いの蝿ね。こちらの様子を窺っていたようだね。アリス、君の行動は筒抜けだったみたいだよ」


「は…い…、う…うぅ」


突然、アリスが苦しそうに胸を押さえて呻く。


「大丈夫! アリス!」


響子が彼女を支えた。白くほっそりした腕に触れる。握りしめたら壊れそうな体。さらに、重さを感じさせないほど彼女の体は子供のように軽く感じた。


「ベルゼブブの呪いだよ。主を裏切った代償で彼女の体はあと一時間と持たず朽ち果てるだろうね。彼ならやりかねない」


「そ、そんな! あーちゃん、何とかならないの!?」


皆の顔が暗くなる。


「だぁかぁらぁ、私は大悪魔アスタロトだって。ちょっと待ってなさいよ」


アスタロトは、先程捕まえた蝿を人差し指に乗せ呟いた。


「大悪魔アスタロトの意に背きし呪いよ。今、その呪いをかけた術者に帰れ」


「あ!」


アリスの体からじわりじわりと澱んだ黒き霧が蠢き出る。それは床を伝い、アスタロトの体を這い上がり、蝿に吸い込まれていった。


「よいしょ」


パンッ!


と、両手で叩き潰す。開いた手の平には蝿もろとも消え去っていた。


「はい。おしまい。アリス、どう?」


「あ、はい。体の中が暖かくて…優しくて…なんだか懐かしい」


アリスは本来の穏やかな心を取り戻し、その顔立ちは幼き頃の表情に戻っていた。


(あぁ、やっぱりこちらの方が断然良いですわ)


「うぉ、大悪魔すげぇな! ほら拍手拍手!」


立石が思わず立ち上がって拍手する。皆も感嘆し拍手の渦が巻き起こる。


「それほどでも…あはは。魔界じゃ誰も誉めてくれないから新鮮だね。それはさておき、アリス。呪いは解けたが同時に魂の寿命も尽きるぞ」


「え!?」


アリスの表情が凍りつく。


「ベルゼブブの呪縛が解けたということは、魂も寿命が尽きるということだからね。人間の魂はもって百年程度だし」


「詐欺かよ!」


立石の台詞にベルゼブブと響子がにこやかに顔を見合わせる。


「この人間殺っていい?」


「えぇ、一人ぐらい居なくなっても大丈夫ですわ!」


「冗談だって!」


(やべぇ。本気マジの殺気を感じたぜ)


「でも一つだけ方法があるわ。私の使い魔になることよ」


「使い魔…」


アリスにとっては辛い選択であった。


人間としての自分を取り戻した上で、また悪魔として生きてゆく自信がなかった。


「私はベルゼブブとは違うわ。言い方が悪かったわね。えぇと…」


思案にくれたベルゼブブに響子が耳元で一言呟く。


「お友達」


「そう、それ! お友達になりましょう!」


「お友達…」


人間の時は自宅に引きこもり、日がな一日読書に明け暮れていた。年に一度の村祭の日にしか、同い年の子供達と顔を合わせる機会がなかった彼女にとって、友達とは無縁の存在だった。


だが、本の中にある『友達』という言葉を目にする度に、それは彼女の憧れでもあった。


「友達…うん。それでいいなら」


「決まりね。では…」


アスタロトは大きく息を吸い込む。


アリサはギュッと目を閉じた。唇を噛み締めた。


ベルゼブブの時のように痛い、苦しい血の盟約を思い出す。


(変わるんだ。アリサと会うんだ!)


「今日から貴女は私の大切なお友達!仲良くしましょ!」


「……それだけ?」


拍子抜けする。アリスも皆も。


「契約完了ね。こんなもの、形だけよ。私は形式ばった堅苦しいのは嫌なの。人間が唱える長い詠唱の魔法とかもね、私クラスになるとちょちょいの…」


「ありがとう!アスタロト様」


「アスタロト様もややこしいから、響子みたいにあーちゃんでいいわよ。お友達だし…って、ぐぇ」


アリスはアスタロトを抱き締める。フランス人形のそれは抵抗もできずにぷるぷると微妙に震えていた。




ベルゼブブの呪縛を解き放ち、アスタロトの使い魔、もといお友達になるアリス。


次は岬の番。


岬に対する香川の熱き想いとは。


次回、香川さん出番ですよ


お楽しみに。


今回もご覧頂き、ありがとうございました。


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